高市早苗首相は10月20日、首相官邸で開かれた今年度2回目の「国と地方の協議の場」に出席し、冒頭のあいさつで、飲食料品の消費税率を一時的に下げることに伴う地方消費税の減収額を「全額国費で補填をいたします」と述べた。消費税率の引き下げと就業者負担軽減支援金の支給を定めた法案は10月9日に国会へ提出されており、その実務を担う自治体の事務負担については「最小化に取り組み、引き続き先生方と丁寧に協議していく」とした。全国知事会など地方六団体は同じ会合に要望をまとめた資料を出し、減収額を地方特例交付金で全額補うことや、支援金の事務費やシステム改修の経費を国費で賄うことを求めた。首相は、「社会保障」と「教育」について国と地方が協議する場を新たに設けることも明らかにした。

首相「減収額を全額国費で補填」 事務負担は「最小化」

内閣官房が公表した議事次第によると、会合は10月20日午後4時30分から5時5分まで、首相官邸4階の大会議室で開かれた。協議事項は「地域未来戦略及び地方分権改革の推進について」の1件だった。

首相官邸の「総理の一日」に載った首相のあいさつは、まず「地域未来戦略」に触れた。首相は、各地域の特色を生かした「産業クラスター計画」が「現在、74が策定・公表されております」と述べ、全国で「数百もの新たな計画の構想が進んでいます」と語った。

続けて首相は、「中所得・低所得の方々の負担軽減」を内閣の「最重要課題」と位置づけ、「消費税・支援金法案」を10月9日に閣議決定して国会に提出したと説明した。そのうえで「『自治体の事務負担』につきましては、最小化に取り組み、引き続き先生方と丁寧に協議していくとともに、『地方消費税の減収額』を全額国費で補填をいたします。地方の財政運営に支障が生じないように、適切に対応してまいります」と述べた。

衆議院の議案審議経過情報によると、この法案は10月9日に衆院で受理され、協議の場が開かれた10月20日に財務金融委員会へ付託された。法案審議の経過は食料品1%減税・支援金法案が衆院で審議入り 財務金融委へ付託、国民民主は対案を同日提出で伝えた。

減収はなぜ自治体に及ぶのか 大綱は「地方特例交付金」で補塡

消費税は、国の消費税と地方消費税を合わせて税率が決まっている。9月15日に閣議決定された大綱は、2027年4月1日から2029年3月31日までの2年間、飲食料品にかかる国の消費税率を0.78%とし、地方消費税と合わせて1%にする特例を設けるとしている。税率を下げれば、地方消費税の収入もその分だけ減る。

大綱は、この2027年度と2028年度の地方消費税の減収額について「全額を地方特例交付金により補塡する」と定め、あわせて「各年度において必要な地方交付税総額を適切に確保する」としている。地方特例交付金は、国の減税によって生じる自治体の減収を国が埋めるために交付する資金だ。首相の「全額国費で補填」は、大綱のこの方針を自治体の代表に向けて改めて約束した形になる。

地方側はこの点を早くから求めていた。6月29日に開かれた今年度1回目の協議の場の議事録によると、松井一實・全国市長会会長は「消費税減税の議論に当たりましては、地方財政への影響に対する十分な配慮をお願いいたします」と発言した。これに対し林芳正総務大臣は、消費税の「4割が自治体の貴重な税財源」だと述べ、地方の財政運営に支障が生じないよう適切に対応するとの方針を示していた。

地方六団体の要望 減収補塡に加え、農漁業者・外食への支援も

今回の会合に地方六団体(全国知事会、全国都道府県議会議長会、全国市長会、全国市議会議長会、全国町村会、全国町村議会議長会)が出した資料は、地方交付税などの一般財源総額の確保から防災、教育、地方分権まで15項目にわたる。消費税と支援金についての要望は次の通りだ。

項目 地方六団体の要望(10月20日提出資料) 政府の方針(大綱・首相あいさつ)
地方消費税の減収 全額を地方特例交付金で補塡し、各年度に必要な地方交付税総額を確実に確保する 全額を地方特例交付金で補塡(大綱)。首相は「全額国費で補填」と表明
減税の影響を受ける事業者 農林漁業者、食品事業者、外食事業者などに国の責任で支援する 首相のあいさつでは言及なし
支援金の費用負担 制度の全体像を示したうえで、負担割合を速やかに丁寧に協議する 3分の2以上を国が負担し、残りを都道府県と市町村が半分ずつ。割合は地方と協議(大綱)
支援金の事務費・システム改修費 国費措置を確実に講じる 制度導入時は全額国費(大綱)
事務負担 市区町村の意見を反映し、最小化を徹底した仕組みにする 「最小化に取り組み」協議を続ける(首相)
消費税率引き下げと就業者負担軽減支援金をめぐる地方六団体の要望と政府の方針出典: 地方六団体「地域未来戦略及び地方分権改革の推進について」(2026年10月20日)、飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱(2026年9月15日閣議決定)、首相官邸「総理の一日」

資料は、地方消費税を含む消費税について「その4割近くが地方の貴重な税財源」だとし、社会保障の財源を確保するよう求めている。減税の影響を受ける農林漁業者や外食事業者への支援は、首相のあいさつには出てこなかった。

支援金は市区町村が支給 六団体「国の役割を拡大する方向で」

就業者負担軽減支援金は、大綱によると市町村長が受給資格を認定して支給する仕組みで、認定や支給の事務は国の事務を自治体が担う「法定受託事務」とされる。支給の日程と対象は就業者負担軽減支援金はいつ・誰に? 支給は年1回秋、2029年度だけ4月と秋の2回 金額は政令でで詳しく伝えた。

費用について大綱は、3分の2以上を国が負担し、残りを都道府県と市町村が2分の1ずつ負担するとしたうえで、「費用の負担割合の決定に際しては地方と協議する」と定めている。地方負担分は地方財政計画の歳出に全額を計上し、2027年度と2028年度は全ての市区町村に、負担に相当する額の特別交付金を交付する。事務費やシステム改修の経費は「制度導入に際して全額国費措置」とする。

地方六団体の資料は、支援金が「国家的観点から新たに創設する制度」であるとして、本格導入までの経過措置も含めて国が中心となって役割を果たすよう求めた。制度設計には「積み残された課題も多い」として、協議の日程を早く示すことも求めている。さらに、国と地方の役割分担を「今回の枠組みに固定化することなく」、国の役割を広げる方向で導入後すぐに協議し、税情報の共有などを通じて「国自らが直接執行できる体制の構築」をできるだけ早く検討するよう求めた。支給の窓口を自治体に置く今の枠組みを、いずれは国に移すべきだという主張だ。

「社会保障」「教育」でも協議の場 六団体は新たな仕組みを求めていた

首相はあいさつの終盤で、「先生方からいただいたご意見を踏まえてですね、『社会保障』及び『教育』に関して、国の政策の企画立案や実施についても協議を行う『国と地方の協議の場』も設けることといたしました」と述べた。人口戦略や防災・減災対策でも連携を進めたいとした。新しい場の構成や開催時期は、首相のあいさつでは示されなかった。

地方六団体は今回の資料で、地方に関する重要事項は「十分な時間的余裕をもって丁寧に協議すること」を求め、国と地方の協議の場については「十分な議論ができる時間を確保するなど、更なる充実を図ること」とした。そのうえで、「地方に大きな事務負担及び費用負担が生じる分野における国と地方の新たな協議の仕組み」を具体化し、早急に協議を始めるよう求めていた。首相の表明は、この要望に応える形をとった。

今回の会合は35分間だった。地方側が求める「十分な議論ができる時間」がどこまで確保されるかは、新たに設ける場の運び方にもかかわる。

国と地方の協議の場とは 2011年の法律で設置、首相が毎年度招集

国と地方の協議の場は、2011年に成立した「国と地方の協議の場に関する法律」に基づく会議体だ。法律は、地方自治に影響する国の政策の企画・立案と実施について、関係する大臣と、都道府県知事、都道府県議会議長、市長、市議会議長、町村長、町村議会議長のそれぞれの全国組織の代表者が協議すると定めている。協議の対象には「国と地方公共団体との役割分担に関する事項」や「地方行政、地方財政、地方税制その他の地方自治に関する事項」が含まれる。

内閣総理大臣は毎年度、議長が協議の場に諮って定めた回数の会合を招集する。議長は特定の事項を調べる分科会を開くことができ、会合の後には協議の概要をまとめた報告書を国会に提出しなければならない。

内閣官房の開催状況によると、会合は近年、毎年度3回ずつ開かれている。2025年度は5月27日、11月14日、12月16日の3回で、2026年度は6月29日に続いて今回が2回目となる。今回の会合の国会報告と議事録は、10月26日時点で内閣官房のページにまだ載っていない。消費税率の引き下げと支援金の実施に向けて、地方側の発言と政府側の答えがどう記録されるかが次の確認点になる。