高市早苗首相は22日、第81回国連総会の一般討論演説に立ち、国連憲章に残る「旧敵国条項」について「この決議に従い、同条項は早急に削除されるべきです」と述べ、削除を正面から要求した。続けて「70年間に渡り国連の取組に大きく貢献してきた日本の誇りと名誉にかけて、強く申し上げておきます」と語っている。首相官邸が演説の速報版全文を公表した。
21年前に「削除する」と決めたまま残る条文
旧敵国条項とは、国連憲章の53条・77条・107条にある、第二次世界大戦で憲章の署名国と敵対した国を名指しした規定を指す。53条は、地域的な取極や機関が強制行動を取るには安保理の許可が要ると定めたうえで、「敵国」への措置はその例外だとしている。107条は、戦争の結果としてその責任を負う政府が取った行動を、憲章のどの規定も無効にしないと定める。日本やドイツが対象にあたる条文だ。
削除そのものは、すでに加盟国の総意になっている。2005年9月16日に国連総会が採択した「2005年世界サミット成果文書」(決議60/1)の177項は、1995年12月11日の総会決議50/52を踏まえ、「憲章53条、77条および107条にある『敵国』への言及を削除することを決意する」と明記した。首脳レベルで合意した文書である。
それでも条文は残ったままだ。憲章の改正には108条の手続きが必要になる。総会で3分の2の賛成を得たうえで、安保理常任理事国5か国すべてを含む加盟国の3分の2が、それぞれの国内手続きに従って批准しなければならない。常任理事国のどこか1か国が批准しなければ、改正は発効しない。決議から21年、その手続きは取られていない。
「安保理は機能していないと言わざるを得ない」
首相は安保理そのものの改革にも踏み込んだ。「現在の構図は、1945年当時の国際情勢を反映したもの」だとして、「常任理事国・非常任理事国の双方を拡大して、その正統性・代表性を確保することが不可欠です」と述べ、「過半数を超える加盟国が双方の拡大を支持しています」と指摘した。
名指しは避けなかった。ロシアによるウクライナ侵略について、「国際社会の平和と安全に特別な責任を有するはずの安全保障理事会の常任理事国が、他国を侵略し、その自国の行為に係る決議に拒否権を行使するような状況が起きています」と述べ、「このような現状では、安全保障理事会は、国際社会の平和のために機能していないと言わざるを得ません」と断じた。
安保理改革も、旧敵国条項と同じく成果文書に書き込まれている。153項は「安保理の早期改革を支持する」としたうえで、2005年末までに総会が進捗を検討するよう求めていた。こちらも21年間、構成は変わっていない。
演説の3本柱と北朝鮮・拉致
演説は「進化したFOIP(自由で開かれたインド太平洋)」を具体化する3本の柱で組み立てられた。1つ目はエネルギーと重要物資の供給網の強じん化で、備蓄システムの構築や与信供与を進める「パワー・アジア」、重要鉱物の産出国が採掘・精錬・加工でより大きな役割を担えるようにする「RISEパートナーシップ」を挙げた。6月には必要なインフラ整備を支えるため世界銀行グループに「RISE+」を創設し、2000万ドルの拠出を表明したと説明している。
2つ目は平和と安定に向けた連携だ。核兵器国と非核兵器国の双方が参加するNPT(核兵器不拡散条約)体制の維持・強化を訴え、北朝鮮が暗号資産の窃取を含む悪意あるサイバー活動も資金源にして核・ミサイル開発を進めていることを「明白な安保理決議違反」と非難した。拉致問題については「今もなお拉致被害者の自由が奪われていて、御家族が苦しんでいるという現在進行形の問題」だとしたうえで、日朝平壌宣言に基づき「対話し具体的に行動する用意があります」と呼びかけた。これらの論点は、訪米前の21日の記者会見で示した方針と重なる。会見の内容は高市首相、国連演説で拉致問題・気候変動・法の支配・国連改革を訴える方針 出発前の会見で表明 日米首脳会談はなお「最終調整中」で伝えた。
3つ目が法の支配に基づく国際秩序の維持で、「力または威圧による一方的な現状変更の試みは、国連憲章に掲げられた原則に反するものであり、世界のどこであっても認めることはできません」と述べた。今年3月に政府内へ和平調停の担当部署を設けたことも明かしている。
日本で開く国際会議を相次ぎ表明
気候変動では、脱炭素とエネルギー安全保障、経済成長を同時に進める総合パッケージとして「パワーGX」を掲げた。年末までの取りまとめを指示した中身は高市首相、「パワーGX戦略」を年末までにまとめるよう赤澤経産相に指示 原油輸入の中東依存度は95.9% 原子力の最大限活用と次世代地熱・ペロブスカイトが柱で報じたとおりで、国連の場でも同じ看板を使った形だ。AIをめぐっては、生成AIを規律する初の国際規範をつくった「広島AIプロセス」に触れ、「AIサミットを早期に日本で開催したい」と表明した。
防災についても具体的な日程を示した。先週の内閣改造で国際防災協力担当大臣を新たに任命したと説明し、2015年に採択された「仙台防災枠組」の推進を「最も重要な取組の一つ」と位置づけたうえで、来年10月に仙台でアジア太平洋防災閣僚級会議を開くと述べた。来年は1997年から続く太平洋・島サミットを横浜で開き、2027年国際園芸博覧会も同じ横浜で開催される。
日本が国連に加盟したのは1956年12月18日で、今年12月で70年になる。加盟国は現在193か国。首相は「日本は、国連のために大きな責任を果たしていく」と述べ、改革の推進役を担う姿勢を打ち出した。旧敵国条項の削除も安保理改革も、次に動くとすれば憲章108条の改正手続きに入れるかどうかが関門となる。
