環境省は10月21日、野鳥の高病原性鳥インフルエンザを監視する「野鳥サーベイランス」の全国の対応レベルを、「対応レベル1(情報収集・監視)」から「対応レベル2(監視強化)」に引き上げたと発表した。韓国の順天(スンチョン)湾で採取された野鳥の糞便からH5亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認されたためで、環境省の「野鳥等における高病原性鳥インフルエンザに係る対応技術マニュアル」に基づく措置だ。渡り鳥の飛来時期と重なる時期の引き上げとなる。

韓国・順天湾の糞便からH5亜型 韓国政府は危機警報を「深刻」に

環境省の発表によると、韓国の農林畜産食品部と気候エネルギー環境部は、令和8年10月12日に全南光州統合特別市順天市の順天湾で採取した野鳥の糞便を精密検査し、10月20日にH5亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出されたと発表した。環境省は、韓国が日本の近隣国であり、渡り鳥の飛来時期に当たることから、国内の対応レベルを1段階上げると説明している。マニュアルの表には、近隣国の発生情報などにより、国内の発生状況にかかわらず対応レベルを上げることがあると明記されている。

韓国側の対応は、農林水産省が10月21日に都道府県の家畜衛生主務部長宛てに出した通知の添付資料に、韓国当局の発表の仮訳として記載されている。それによると、韓国政府は10月20日付で全国の危機警報段階を「注意」から「深刻」に引き上げ、政府横断の「鳥インフルエンザ中央事故収拾本部」を稼働させた。全ての地方自治体に対策本部の状況室を置き、24時間の非常対応体制に移行したという。検出地点から半径10キロ以内で飼われている家きんには移動制限と精密検査、電話による監視を行い、順天湾沿岸から3キロ以内は特別管理地域に指定して人と車両の出入りを規制する。全国の家きん農場と畜産関係施設については、1週間を一斉消毒週間と定めて集中的な消毒を行う計画だとしている。N型の確定には精密検査で3〜5日を要する見込みで、農林水産省の資料でも「H5(N型確認中)」と整理されている。

韓国では毎年9月から翌年4月までの冬季に、主要な渡り鳥の飛来地112か所で野鳥の糞便や捕獲個体、死亡個体を採取して感染の有無を調べている。今回の検出はその調査で見つかったものだ。農林水産省が韓国農林畜産食品部の発表をまとめた資料では、今シーズン(2026年9月〜2027年8月)の韓国の野鳥での確認は10月12日採取のこの1事例で、家きんでの発生は10月20日時点でまだない。昨シーズン(2025年9月〜2026年8月)は野鳥で63事例、家きんで62事例があり、野鳥での初確認は2025年10月29日、家きんでの初発生は2025年9月12日だった。野鳥での初確認日は昨シーズンより半月余り早い。

対応レベル2で変わるのは、検査を始める死亡野鳥の数

野鳥サーベイランスは、鳥類の生息状況などを見る「鳥類生息状況等調査」と、ウイルスの保有状況を調べる「死亡野鳥等調査」の二つで構成される。対応レベルが上がると、前者は「情報収集・監視」から「監視強化」になり、後者は検査を始める死亡個体の羽数の基準が下がる。つまり、これまでなら検査に回さなかった規模の死亡でも、ウイルス検査の対象になる。

マニュアルは野鳥を感染の確認されやすさで3段階に分けている。検査優先種1は24種で、H5亜型に感受性が高く、死亡野鳥等調査での感染確認率が5%以上だった種が入る。ヒシクイ、マガン、コハクチョウ、オオハクチョウ、オシドリ、ヒドリガモ、オナガガモ、コガモ、カイツブリ、マナヅル、タンチョウ、ナベヅル、ユリカモメ、ウミネコ、オジロワシ、オオタカ、ノスリ、クマタカ、ハヤブサなどで、重度の神経症状が見られた野鳥も含む。検査優先種2は22種で、過去に日本や韓国などで死亡野鳥から感染が確認された種を含め、マガモ、トモエガモ、ホシハジロ、スズガモ、トビ、オオワシ、シマフクロウ、フクロウなどが並ぶ。検査優先種3は、水辺で生息する鳥類や鳥類を捕食する種、死亡野鳥を食べるハシブトガラスとハシボソガラスを対象としている。

区分 検査優先種1 検査優先種2 検査優先種3 その他の種
対応レベル1(通常時) 1羽以上 3羽以上 5羽以上 5羽以上
対応レベル2(今回) 1羽以上 2羽以上 5羽以上 5羽以上
対応レベル3 1羽以上 1羽以上 3羽以上 5羽以上
早期警戒期間(9〜10月) 1羽以上 1羽以上 3羽以上 5羽以上
野鳥監視重点区域 1羽以上 1羽以上 3羽以上 3羽以上
対応レベルごとに死亡野鳥等調査でウイルス検査を始める死亡個体の羽数出典: 環境省「野鳥等における高病原性鳥インフルエンザに係る対応技術マニュアル」(令和8年9月)表I-2・表I-3

対応レベル1から2への変更で動くのは検査優先種2の欄だけで、同一場所で3羽以上だった基準が2羽以上になる。対応レベル3は国内の単一箇所での発生から28日以内に別の箇所で感染が確認された場合に設定され、検査優先種2が1羽、検査優先種3が3羽に下がる。感染が確認された地点の周辺には「野鳥監視重点区域」が指定され、区域内ではその他の種も3羽以上で検査対象になる。環境試料から検出された場合の重点区域は、採取日から28日目の24時に解除される。

9〜10月は既に「レベル3に準じた調査」 違いが出るのは11月から

マニュアルは、毎年9月1日から10月31日までを「早期警戒期間」と定め、この期間は対応レベルにかかわらず死亡野鳥等調査を強化すると規定している。期間中の基準は検査優先種1が1羽、検査優先種2が1羽、検査優先種3が3羽、その他の種が5羽で、対応レベル3と同じだ。マニュアルは「毎年9月~10月の早期警戒期間中は、対応レベル2であっても、対応レベル3に準じた調査を実施する」と書いている。

このため、今回の引き上げによって検査の基準が実際に下がるのは、早期警戒期間が終わる11月1日以降ということになる。10月末までは、現場が適用する死亡羽数の基準は引き上げ前と変わらない。一方で、鳥類生息状況等調査の「監視強化」は対応レベルに連動するため、監視の対象種や対象地の重点化、巡視や聞き取りの頻度と範囲の拡大は、レベル2の設定によって今の時期から行われる。引き上げによる変更は、時期をまたいで段階的に表れる形になる。

早期警戒期間には検査の進め方にも違いがある。マニュアルは、速報性を重視して9〜10月は簡易検査を実施し、それ以外の期間は検査試料を採取したうえで簡易検査を原則省略するとしている。期間が終わる11月以降は、死亡野鳥が見つかったときに現場で簡易検査をするのではなく、遺伝子検査に回す流れが基本になる。

国内は5月22日以降確認なし 前シーズンは家きん24事例・約576万羽

環境省は今回の発表で、国内の野鳥における高病原性鳥インフルエンザの発生は令和8年5月22日以降確認されていないと明記した。農林水産省も10月21日更新のページで、令和8年度の秋以降の発生は確認されていないとしている。国内で発生がない状態のまま、近隣国の情報だけを根拠に監視を1段階上げたことになる。

前のシーズンは規模が大きかった。農林水産省の資料によると、令和7年シーズンは家きんで16道府県の24事例が発生し、約576万羽が殺処分の対象になった。内訳は採卵鶏17事例、肉用鶏5事例、その他2事例で、初発は令和7年10月22日、最後の発生は令和8年4月22日と、約半年にわたって続いた。野鳥では1道15県で171事例が確認されている(令和8年7月2日時点)。農林水産省は、野鳥の感染が全国の広い範囲で起きており、農場や家きん舎の周辺環境へのウイルスの侵入の主な要因になったと分析している。

殺処分の規模はシーズンごとに大きく動く。令和2年シーズンは52事例で約987万羽、令和4年シーズンは84事例で約1771万羽、令和6年シーズンは51事例で約932万羽が対象になった。令和7年シーズンの24事例・約576万羽は事例数では少ないほうだが、大規模農場や過去に発生した農場での発生が多い傾向があったとされる。野鳥側の内訳では、2024〜2025年シーズンに30種の鳥類で計227事例の感染が確認され、最も多かったハシブトガラスが5道県で56事例69羽、ナベヅルが35事例だった。月別では11月の43事例と4月の48事例に二つのピークがあり、渡りの往復に対応している。家畜の伝染病をめぐる防疫では豚熱も続いており、国内では養豚農場での発生が重なっている(茨城・かすみがうらの養豚農場で豚熱、国内108例目)。

海外の野鳥での検出は2倍近くに 農水省も都道府県へ再徹底を通知

今回の引き上げの背景には、国外での検出の増加がある。韓国当局の発表には、海外の野鳥における高病原性鳥インフルエンザの検出件数が、2025年1〜8月の1432件から2026年1〜8月は2957件に増えたという数字が示されている。韓国側は、冬鳥の飛来が始まる時期にこうした状況が重なり、国内への侵入と拡散のリスクが高まっているとみている。

海外の野鳥での高病原性鳥インフルエンザ検出件数(1〜8月)(件)

01,0002,0003,0001,4322025年2,9572026年
2026年1〜8月は2957件で、前年同期の1432件の約2.1倍になった出典: 韓国農林畜産食品部・気候エネルギー環境部の発表(農林水産省の仮訳、令和8年10月21日通知の添付資料)
数値で見る(単位: 件)
項目件
2025年1,432
2026年2,957

農林水産省は10月21日、「韓国における野鳥糞便からのH5亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスの検出に伴う防疫対策の再徹底について」を都道府県の家畜衛生主務部長宛てに通知した。野鳥での検出地点の状況、野生動物の農場内への侵入防止対策の強化方策などを示し、防疫対策の徹底への協力を求めている。農林水産省は9月16日にも防疫対策の徹底を求める通知を出しており、2か月で2回目となる。鳥インフルエンザは国境を越えて渡り鳥が運ぶため、国際機関も連携の枠組みづくりを進めている(鳥インフルエンザ対策、FAO・WHOなど4機関が共同枠組み)。

環境省は、鳥インフルエンザウイルスは感染した鳥との濃密な接触などがあった場合を除いて人には感染しないと考えられているとして、鳥の排泄物などに触れた後に手洗いとうがいをすれば過度に心配する必要はないと説明している。そのうえで、死亡や衰弱している野鳥を見つけた場合は自分では触らず、地方公共団体などに連絡するよう求めた。同じ場所で多数の野鳥が死んでいる場合は、都道府県か市町村役場への連絡を呼びかけている。環境省は、シーズンの初確認や大量死など緊急性が高い場合に報道発表を行い、それ以外は同省のホームページで発生状況を公表する運用をとっている。