日本銀行は10月30日、政策委員会・金融政策決定会合を開き、政策金利である無担保コールレート(オーバーナイト物=金融機関どうしが担保なしで翌日返済の資金をやり取りするときの金利)を1.25%程度で推移するよう促す方針を据え置いた。採決は賛成8、反対1。高田創審議委員が1.5%程度への引き上げを提案し、反対多数で否決された。同日、2028年度までの経済・物価の見通しを示す「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」の基本的見解を公表し、消費者物価の見通しについて「上振れリスクの方が大きい」と記した。保有する上場投資信託(ETF)の売却ペースを2027年1月から引き上げることも全員一致で決めた。
高田委員「中立金利に近づけるペースを速める新たな局面」
会合は10月29日午後と30日午前に開かれ、決定内容は30日12時2分に公表された。据え置きに賛成したのは植田和男総裁、氷見野良三、内田眞一の両副総裁と、田村直樹、小枝淳子、増一行、浅田統一郎、佐藤綾野の各審議委員の8人。
反対した高田委員は、公表文によると「基調物価が『物価安定の目標』に達した中、機動的な対応が可能となる中立金利に近づけるペースを速める新たな局面に入った」として、無担保コールレートを1.5%程度で推移するよう促す議案を出した。中立金利は、景気を過熱も冷やしもしない金利の水準を指す。
日銀は前回の9月18日の会合で、政策金利を1.25%程度に引き上げたばかりだった(日銀、政策金利を1.00%から1.25%程度へ引き上げ 賛成7・反対2 借入金利が同じだけ上がると1社平均で年46万円の利息負担増)。9月の公表文によると、このときは賛成7、反対2で、高田委員は引き上げに賛成していた。反対したのは浅田委員と佐藤委員で、浅田委員は消費者物価(除く生鮮食品)の上昇率が2%を下回り経済も必ずしも強くないこと、佐藤委員は経済・物価情勢が大きく加速しているわけではないことを理由に据え置きを求めていた。
9月は「利上げが早い」とする反対が2人、10月は「利上げが遅い」とする反対が1人と、2会合続けて逆の方向から反対が出たことになる。今回は浅田、佐藤の両委員も据え置きに賛成した。会合には政府から財務省の進藤金日子副大臣と内閣府の谷川とむ副大臣が出席した。
物価見通し、2027年度を2.6%に引き上げ 成長率は0.7%前後
展望レポートは年4回、1・4・7・10月の会合でまとめる。今回の見通しでは、政策委員9人の見通しの中央値で、消費者物価(除く生鮮食品)の前年度比上昇率を2026年度2.5%、2027年度2.6%、2028年度2.0%とした。7月時点と比べると、2026年度と2028年度は同じで、2027年度は2.4%から2.6%に上がった。日銀は2027年度の上振れについて「夏場以降の原油価格上昇の影響等」によると説明している。
実質国内総生産(GDP)の成長率の中央値は2026年度0.7%、2027年度0.7%、2028年度0.8%。7月時点は順に0.6%、0.8%、0.8%で、日銀は「概ね不変」とした。
| 年度 | 実質GDP | 消費者物価(除く生鮮) | 消費者物価(除く生鮮・エネルギー) |
|---|---|---|---|
| 2026年度 | 0.7%(7月0.6%) | 2.5%(7月2.5%) | 2.4%(7月2.5%) |
| 2027年度 | 0.7%(7月0.8%) | 2.6%(7月2.4%) | 2.7%(7月2.6%) |
| 2028年度 | 0.8%(7月0.8%) | 2.0%(7月2.0%) | 2.3%(7月2.2%) |
出典: 日本銀行「経済・物価情勢の展望(2026年10月)基本的見解」
物価の道筋について、日銀は、賃金上昇を販売価格に転嫁する動きが続くなかで、原油価格の上昇、人工知能(AI)関連需要に伴う半導体価格などの上昇、これまでの円安が重なり、上昇率が「2%をはっきりと上回る水準まで」高まると予想した。見通し期間の後半には原油高の影響が薄れ、「2%程度に向けてプラス幅を縮小していく」とみる。
見通しの前提として、ドバイ原油は1バレル105ドル程度を出発点に、見通し期間の終盤にかけて70ドル程度まで下がると置いた。ただ、代替調達に伴う輸送費などの増加から、日本企業が直面する調達価格は国際市況ほどには下がらないとも書いている。2026年度については、燃料油補助金などのエネルギー負担緩和策や教育無償化政策が、消費者物価の前年比を押し下げる方向に作用するとした。
景気の現状は「中東情勢の影響もあって一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している」との判断を維持した。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は「足もとでは2%程度」と記している。日本経済の潜在成長率は、一定の手法で推計すると足もとで「0%台半ばから後半」と計算されると注記した。
「2%を超えて上振れていくリスク」 中東・AI・為替の3つを挙げる
今回のレポートで目立つのは、物価のリスクの置き方である。日銀は経済の見通しについてリスクは「概ねバランスしている」とする一方、物価については「上振れリスクの方が大きい」とした。基調的な物価上昇率が2%の物価安定の目標と「概ね整合的な水準」となるなかで、企業の賃金・価格設定行動が積極化していることなどを踏まえると、中長期の予想物価上昇率が上がり、基調的な物価上昇率が「2%の『物価安定の目標』を超えて上振れていくリスクがある」と書いた。
金融政策運営の節では、従来は基調的な物価上昇率を2%に向けて引き上げていく過程にあり、物価の下振れリスクに注意を払う必要があったが、「足もとでは局面が変化して」いると明記した。物価が目標に届かないことよりも、目標を超えて上がり続けることを主な警戒対象に置き換えたことになる。10月のG20後に開かれた植田総裁の会見は既報のとおり(日銀・植田総裁「これ以上上がるということは容認できない」 G20後の会見で物価2%の局面変化を説明)。
リスク要因として挙げたのは主に3つ。第1は中東情勢で、原油価格の振れが大きく、原油備蓄量の減少もみられるなかで、調達コストのさらなる上昇が経済・物価に及ぼす影響に注意が必要だとした。第2はAI関連需要で、旺盛な設備投資が世界経済を押し上げる可能性がある一方、投資に見合う収益が出ない場合は資産価格の変動を伴う調整圧力が生じる可能性もあるとした。物価面では、半導体価格の上昇が関連する耐久財の価格を押し上げており、銅などの素材や機械類の価格上昇も踏まえると、今後は消費者段階でもさまざまな品目の値上がりにつながりうると書いた。第3は為替相場で、これまでの円安で輸入物価の前年比が高い伸びを続けていることが、耐久財をはじめ幅広い品目の価格を押し上げる方向に作用するとして、「十分注視する必要がある」とした。
このほか、夏場以降に米欧を含む多くの中央銀行が利上げ方向に政策を転換していること、中国経済の先行き、穀物価格の上昇傾向も留意点に挙げた。
今後の政策運営については、金融環境が緩和的であることを踏まえ、「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」との考えを示した。そのうえで、調整のタイミングやペースは、中東情勢、AI関連需要の拡大、為替相場の変動などの影響を含め、見通しが実現する確度やリスクを点検しながら検討するとした。実質金利は「このところ上昇している」ものの短期ゾーンを中心になお低い水準にあり、企業の資金需要は増え、金融機関の貸出態度も積極的だとして、金融環境は「緩和した状態が維持されている」と判断した。
食料品の消費税引き下げは見通しに織り込まず
今回の見通しには、国会で審議中の飲食料品の消費税率の臨時的な引き下げとその影響は入っていない。日銀は注記で、9月に閣議決定された税制改正大綱を前提に、税率の変更が対象品目すべてにそのまま適用された場合の影響を機械的に計算した結果を示した。
それによると、2027年度の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比を1.3ポイント程度、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比を1.4ポイント程度、それぞれ押し下げる。今回の中央値(2.6%と2.7%)からそのまま差し引くと、ともに1.3%程度になる計算で、2027年度の数字は2%の目標を下回る。日銀は、税率引き下げは経済の成長率を押し上げる方向に作用する可能性が高いとしつつ、「その程度については不確実性が高い」とした。
税率の引き下げで店頭価格が下がれば、統計上の物価上昇率は一時的に下がる。一方、日銀が政策判断の軸に置くのは、こうした制度変更や一時的な要因を除いた「基調的な物価上昇率」である。今回のレポートは、基調的な物価上昇率に関する指標の多くが「2%近傍にある」と注記している。法案が成立し実施時期が決まれば、日銀がそれを見通しにどう織り込むかが次の展望レポートで示される。
ETF売却を年8600億円へ 売り切るまでの年数は約112年から約43年に
日銀は、金融緩和の一環として買い入れてきたETFの売却ペースも見直した。2025年9月の会合で、年間の売却ペースを3300億円程度(簿価)とし、2026年1月から売却を始めていた。これは市場全体の売買代金に占める売却割合で0.05%程度にあたる規模だった。
今回、売却が「市場に大きな影響を与えることなく円滑に進めている」ことと、株式市場全体の売買代金が拡大していることを踏まえ、売却割合を0.1%程度に引き上げ、年間の売却ペースを8600億円程度(簿価)とすることを決めた。2027年1月から実施する。2026年1〜9月の東証プライム市場の売買代金と、日銀が売却したETFの時価と簿価の比率を使って時価に換算すると、年間2兆4600億円程度になる。
日銀の参考資料によると、2026年9月末時点の保有残高(簿価)を年間売却額で割った「売却完了までにかかる年数」は、現在のペースの約112年から、見直し後は約43年に縮まる。市場の状況に応じて、売却ペースの範囲内で一時的に売却額を調整したり停止したりできる仕組みは従来どおり残す。不動産投資信託(J-REIT)の売却ペースは年50億円程度(簿価)のまま据え置いた。
今回の会合の公表物は今後も続く。展望レポートの背景説明を含む全文は11月2日、会合での発言をまとめた「主な意見」は11月10日、議事要旨は12月23日に公表される予定である。高田委員の提案をめぐる議論や、据え置きに回った委員の判断の理由は、主な意見で確かめられる。
