政府は10月13日の定例閣議で、原油などの調達先と輸送経路を広げるための3つの法案を決定した。「原油等の安定的な輸送の確保のための指定水路の利用の合理化に関する法律案」(原油等調達多角化法案)、「特定貨物保険契約及び特定船舶保険契約の履行の確保に関する特別措置法案」(原油等輸送保険法案)、「独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構法の一部を改正する法律案」(JOGMEC法改正法案)で、経済産業省は「資源確保関連3法」と位置づける。現在開会中の第222回国会(臨時国会)に提出する予定だ。

「タンカーが事実上ホルムズ海峡を通れない」状況を受けて

経済産業省は法案の背景として、中東情勢の変化によって「長期間にわたって原油タンカーが事実上ホルムズ海峡を通ることができない状況が生じた」と説明している。特定の輸送経路に頼りすぎることの危うさが表に出たとして、平時から調達先や輸送経路を分散させ、危機時と平時のリスクとコストをならす仕組みをつくるという。

日本の原油は中東への依存がとりわけ大きい。資源エネルギー庁の「エネルギー動向(2025年版)」によると、2023年度の原油輸入に占める中東地域の割合(中東依存度)は94.7%だった。過去最高だった2022年度の95.2%をわずかに下回ったものの、同じ2023年の米国の9.3%、欧州OECDの16.5%と比べて極めて高い。中東依存度は1967年度に91.2%あり、オイルショック後の多角化で1987年度には67.9%まで下がったが、その後は再び上昇してきた。

高市早苗首相は10月5日の所信表明演説で「原油等の特定経路への依存の低減など、調達先の多角化とリスク低減を徹底することにより、我が国のエネルギー調達基盤を抜本的に強化するための制度を整備します」と述べていた。首相が9月に法案提出の考えを示してからの経緯は原油調達多角化の法案、高市首相が所信表明で制度整備を表明 原油輸入の中東依存は94.7%で伝えている。今回の閣議決定は、この表明を法案の形にしたものだ。首相官邸が公表した閣議案件によると、3法案はいずれも経済産業省と財務省の共管で、輸送保険法案は金融庁と外務省も加わる。

原油等調達多角化法案 海峡を避ける輸送に交付金

3本の柱となるのが原油等調達多角化法案だ。法案は、日本への原油などの輸送で通る狭い水路のうち、代わりの水路で運ぶのが難しいものを「指定水路」と呼ぶ。経済産業省の概要資料は、ホルムズ海峡を政令で指定することを想定していると明記している。

仕組みは4段階になっている。まず経済産業大臣が、指定水路の利用を減らす目標や交付金の基本的な事項を盛り込んだ「実施指針」をつくる。次に石油元売り、石油化学メーカー、商社などの「原油精製業者等」が、目標、対象とする原油の種類、航路、計画期間などを書いた「指定水路利用合理化計画」をつくり、政府の認定を受ける。認定を受けた事業者には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が交付金を出す。

概要資料が想定する取り組みの例は二つある。一つは、指定水路の外側にある積み出し港までパイプラインで原油を運ぶ方法で、パイプラインの使用料や追加でかかる船の輸送費を支える。もう一つは複数の地域から分けて調達する方法で、遠い積み出し港からの船の輸送費を支える。

交付金の原資は、原油精製業者等がJOGMECに納める「納付金」でまかなう。納付金は国内で販売・使用する「指定石油製品」の量に応じて決まり、指定石油製品にはガソリン、ナフサ、灯油(ジェット燃料を含む)、軽油、重油が含まれる。納付金の単価は、交付金にかかる費用の見通しなどを踏まえ、総合資源エネルギー調査会などの意見を聴いて政府が決める。単価の上限は、指定水路を通る航路とそれ以外の航路の輸送費の差を基礎として政令で定める。徴収と管理はJOGMECが担う。法律案要綱によると、施行は一部を除き、公布から6か月以内の政令で定める日とされている。

原油等輸送保険法案 再保険が止まれば政府が交付金

2本目の原油等輸送保険法案は、海上輸送の保険が途切れる事態への備えだ。船の運航では事故によって巨額の損失や賠償責任が生じうるため、貨物保険や船舶保険といった「海上財物保険」が欠かせない。経済産業省の概要資料によると、日本では国内の損害保険会社がこうした保険を引き受けるのが一般的だが、リスクが大きいため、国内損保だけで抱えきれない分は外国の保険会社の再保険を買って対応するのが通例だという。

概要資料は、中東情勢への対応のなかで、外国政府などが外国保険会社による再保険の引き受けを禁じる措置を取り、海上輸送に必要な保険の引き受け余力(保険キャパシティ)が確保できず、必要な物資の輸入が難しくなる状況も生じたとしている。

法案では、政令で定める国を原産地または積み出し地とする原油、石油製品、液化天然ガス(LNG)を「特定国産原油等」とし、これを対象に外国政府などが再保険の引き受けを禁じた場合、政府が国内損保と「特定海上財物保険履行確保契約」を結べるようにする。損害が出たときは、国内損保の支払予定総額を超える部分を政府が交付金として出し、国内損保はそれと合わせて貨物や船の持ち主に保険金を支払う。国内損保は政府に手数料を納める。

政府が1年度に結べる契約は、交付金の総額が国会の議決を経た金額を超えない範囲に限られる。業務は経済産業大臣が担い、契約を結ぶ前には首相、外相、財務相に協議する。要綱によると、施行は公布から3か月以内の政令で定める日で、令和8年度の契約の限度額は法案のなかで定めている。

JOGMEC法改正 パイプラインへの出資やCCS支援を追加

3本目のJOGMEC法改正法案は、JOGMECの業務を4つ加える。

一つ目は、原油などの輸送事業への出資と債務保証だ。経済産業省の概要資料によると、今回の中東情勢の悪化でホルムズ海峡の通航が難しくなった際、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)のパイプラインを使った代替ルートが機能し、海峡の外にあるヤンブーやフジャイラの港から原油の輸出が続いたという。日本企業が有事に代替経路を優先的に使える権利を得られるよう、パイプラインなどを使った輸送事業に出資や債務保証ができるようにする。

二つ目は、海外でのバイオ燃料などの製造事業への出資と債務保証、三つ目は廃バッテリーなど使用済みの原料から金属を取り出す製錬事業への出資と債務保証で、重要鉱物の供給源を広げる狙いがある。四つ目は、二酸化炭素を回収・輸送して地下に貯める「CCS」への助成金の交付だ。CCSにかかるコストと炭素価格の差に着目して支援するもので、概要資料では貯留開始から15年間支援し、支援終了後は回収事業者と輸送・貯留事業者の双方に10年間の事業継続を義務づけるとしている。施行は一部を除き公布から3か月以内の政令で定める日とされている。

今後の焦点 政令と単価、首相の「新たな戦略」

3法案はいずれも、制度の重要な部分を政令や今後の指針に委ねている。どの水路を指定水路とするか、どの国を産地とする原油などを保険の対象とするか、納付金の単価の上限をいくらにするかは、法案の成立後に政令などで決まる。納付金の単価そのものも、総合資源エネルギー調査会などの意見を聴いたうえで政府が定める。

首相は所信表明演説で、こうした取り組みを含む「エネルギー需給構造強靱化総合パッケージ(POWERR GX)」を推進し、年内に制度と予算を一体で盛り込んだ新たな戦略をまとめるとも述べている。資源3法は、その先行部分として臨時国会での審議に入る。