環境省は10月30日、全国のニホンジカとイノシシの個体数推定の結果を公表した。2024年度(令和6年度)末のニホンジカは、北海道を含む全国で中央値約310万頭(90%信用区間は約114万〜843万頭)、本州以南で約236万頭(同約88万〜631万頭)と推定された。イノシシは約157万頭(同約91万〜270万頭)だった。国が2013年に掲げた「半減目標」は2011年度(平成23年度)の水準を基準にしているが、今回の推定では、その2011年度の値はシカ全国が約285万頭、イノシシが約142万頭で、2024年度末はいずれもこれを上回った。
環境省は、シカ・イノシシとも個体数は高い水準にあるとして、引き続き捕獲を強化するとしている。
シカは全国で約310万頭 今回から北海道も一括で推定
ニホンジカの推定は、今回から北海道を含めた全国で行った。これまで北海道のシカ(エゾシカ)は別に扱っており、北海道は独自に個体数を推定してきた。分布のない沖縄県は除いている。
資料2のグラフによると、シカ全国の推定値(中央値)は1989年度(平成元年度)から増え続け、2011年度に約285万頭、半減目標を決めた2013年度(平成25年度)に約311万頭となった。その後はおおむね横ばいで推移し、2024年度末は約310万頭だった。本州以南に限ると、2011年度の約218万頭、2013年度の約243万頭に対し、2024年度末は約236万頭だった。
捕獲がなかった場合に1年で何倍に増えるかを示す自然増加率は、2024年度の推定で中央値1.181〜1.231だった。2割前後の増加分を上回る数を毎年捕獲しなければ、個体数は減らない計算になる。環境省は「依然として高い水準にある」としている。
推定値には大きな幅がある。2024年度末のシカ全国の90%信用区間は約114万〜843万頭で、2013年度の約163万〜592万頭より上下に広がった。環境省はグラフで中央値と並べて幅も示している。
イノシシは約157万頭 「一時減ったが高い水準に戻った」
イノシシの推定値は2011年度に約142万頭、2013年度に約152万頭だった。資料2のグラフでは、その後増えたあと2021年度(令和3年度)にかけて減り、2024年度末は約157万頭となった。分布のない北海道を除く全国の値だ。2024年度の自然増加率は中央値1.187〜1.522と推定され、シカより幅が大きい。
環境省は「一時期減少傾向にあったものの高い水準に戻っている」と説明している。
農林水産省が2023年9月にまとめた資料は、当時の推定値として、イノシシを2021年度に約72万頭、基準の2011年度を121万頭、ピークを2014年度(平成26年度)の137万頭とし、「半減目標達成に向け個体数が順調に減少」と記していた。減った理由には「捕獲の強化と豚熱の影響」を挙げている。豚熱は2018年9月に国内で26年ぶりに発生した家畜伝染病で、農水省の「豚熱清浄化ロードマップ」(2025年6月)は、飼育される豚とともに野生イノシシの群れでの感染を対策の対象にしている。
同じ資料は、イノシシの捕獲頭数が2020年度に過去最高を記録し、2021年度は大きく減ったとも記している。そのうえで、イノシシは増加率が高いため、半減目標の達成後も高い捕獲圧を保つことが必要だとしていた。
シカ(本州以南)について、同じ資料は2021年度に約222万頭、基準の2011年度を233万頭としていた。エゾシカは2011年度の77万頭から2022年度に72万頭となり、2018年度の65万頭を底に2019年度以降は増加に転じたと推定していた。今回公表された推定値は、イノシシ・シカとも基準年の値から当時の数字と異なっている。
捕獲数から逆算する推定法 過去の値も毎回見直す
推定には、ハーベストベースドモデルを基本とした「階層ベイズ法」と呼ばれる統計手法を使っている。環境省の資料1によると、ある年の個体数に自然増加率を掛け、捕獲数を差し引くと翌年の個体数になるという関係を基本の式とする。そのうえで、捕獲数や狩猟者登録数あたりの捕獲数、シカの一部地域では糞塊(ふんかい)密度を、個体数と連動する指標として当てはめる。統計的な基準を満たした1万通りの計算結果から、確率の高い値と幅を示す。
90%信用区間は、1万通りの推定結果のうち中央の9割が入る範囲のことだ。環境省は推定結果に幅があることに注意が必要だとしつつ、各年度の個体数の目安として中央値を目標値などに使うことがあるとしている。
シカは33都道府県から、イノシシは22県から、それぞれ一定の精度がある推定データの提供を受け、環境省が残りの都府県分をまとめて推定して合算した。捕獲数などの情報は翌年度に集計されるため、推定には時間差が生じる。
資料1は、最新の捕獲数などを加えて推定し直すと過去にさかのぼって推定値が見直されるため、推定のたびに過去の結果も変わる点に注意が必要だと明記している。農水省の2023年の資料も、新たな捕獲データなどを加えて過去にさかのぼって推定するため、今後の推定個体数も変わる可能性があると注記していた。
半減目標は2028年度に延長 シカの雌や夜間の捕獲を強化
半減目標は、環境省と農林水産省が2013年にまとめた「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」で、シカとイノシシの個体数を10年後の2023年度までに半減させるとしたものだ。2022年度までの調査で達成が難しくなり、両省は2023年9月、期限を2028年度(令和10年度)まで延ばすことを決めた。農水省の資料では、シカは2028年度までに2011年度の水準から半減させ、イノシシは半減を早期に達成したうえで、その後も捕獲圧を維持するとしている。
シカとイノシシの推定個体数(中央値)(万頭)
2011年度2024年度末
数値で見る(単位: 万頭)
| 項目 | 2011年度 | 2024年度末 |
|---|---|---|
| シカ全国 | 285 | 310 |
| 本州以南 | 218 | 236 |
| イノシシ | 142 | 157 |
農水省の2023年9月の資料によると、捕獲頭数はシカ(エゾシカを含む)が2011年度の42万頭から2022年度の71万頭へ、イノシシが39万頭から59万頭へ増えている。それでもシカは減るペースが遅いとして、資料は雌ジカの捕獲強化、県境をまたぐ広域捕獲、都道府県が行う管理捕獲での夜間銃猟、認定鳥獣捕獲等事業者の育成、ICTなど新技術を使った効率的な捕獲を挙げている。
シカやイノシシは1970年代以降に分布を広げてきたことが、環境省の自然環境保全基礎調査の総合解析でも示されている(環境省が「緑の国勢調査」50年分を総合解析 特定外来生物の確認は19種類から41種類に増えた)。
農作物被害は182億円 シカが76億円で最多
被害の規模は農水省の集計で分かる。2025年度(令和7年度)の野生鳥獣による農作物被害額は全国で182億8800万円だった。このうちシカが76億2500万円で、前年度より2億1900万円増えた。イノシシは44億200万円で5800万円減った。シカとイノシシを合わせると120億2700万円で、全体の約3分の2を占める。
| 鳥獣 | 被害金額 | 前年度との差 | 被害面積 |
|---|---|---|---|
| シカ | 76億2500万円 | 2億1900万円増 | 2万600ヘクタール |
| イノシシ | 44億200万円 | 5800万円減 | 3300ヘクタール |
| クマ | 9億3500万円 | 4億1600万円増 | 1600ヘクタール |
| 鳥類計 | 25億8900万円 | 5億3800万円減 | 1800ヘクタール |
| 合計 | 182億8800万円 | 2100万円減 | 2万9000ヘクタール |
出典: 農林水産省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況(令和7年度)」
シカの被害面積は2万600ヘクタールで、全体の2万9000ヘクタールの7割を占める。被害は農作物にとどまらず、環境省は自然生態系や生活環境にも深刻な影響が出ているとしている。半減目標の期限は2028年度で、環境省は捕獲の強化を続けるとしている。
