環境省生物多様性センターは10月5日、自然環境保全基礎調査(通称「緑の国勢調査」)の50年分の成果をまとめた「総合解析とりまとめ報告書」を公表した。特定外来生物に指定されている動物の全国の累積確認種類数は、1990年以前の19種類から2022年には41種類に増えた。植生の面積では森林が増えた一方、マツ林は1979〜1998年の3万4400平方キロから1999〜2023年には1万9400平方キロへ、耕作地は6万1800平方キロから4万7600平方キロへ減っている。
基礎調査は1973年度に始まり、2022年度に50年目を迎えた。その膨大な記録を横断してまとめ直した報告書は今回が初めてで、センターは「全国の自然環境の概況・変化について、分かりやすく体系的にとりまとめ、施策や研究への利活用を推進することを目指した」としている。
1973年度に始まった調査 2013年度から次の回次が続く
自然環境保全基礎調査は、自然環境保全法第4条に基づいて環境省が実施する全国規模の調査だ。野生動植物の種の分布に加え、植生、湿地、干潟、藻場、サンゴ礁などの生態系を対象とし、成果は生物多様性保全施策や環境影響評価に使われてきた。
回次は第1回の1973〜1974年度から数え、第2回が1978〜1980年度、第3回が1983〜1988年度、第4回が1988〜1993年度、第5回が1993〜1999年度、第6回が1999〜2005年度、第7回が2005〜2012年度。2013年度からは次の回次が続いている。調査項目は回次によって異なり、植生や植物、巨樹・巨木林、陸域の動物、湿地、河川、湖沼、海域の藻場・干潟・サンゴ礁などが順に組み込まれてきた。市民から生き物の記録を集める「いきものログ」や、定点観測の「モニタリングサイト1000」も並走している。
センターは2023年3月、2032年度(令和14年度)までの実施方針をまとめた「自然環境保全基礎調査マスタープラン」を策定した。総合解析は、同じ2023年3月に決定した「自然環境保全基礎調査総合解析方針」を踏まえ、有識者による検討会を設けて2023年度から2025年度にかけて行われた。報告書は一般向けの第1部「日本の自然環境の現状と変化」と、政策決定者の活用を想定した第2部「基礎調査データの自然環境施策への適用」で構成される。概要版パンフレットも同時に作られ、詳細な解析データは2026年度中に公開する予定だという。
特定外来生物の確認種類数、全国で19から41へ 関東が最多
解析では、2024年7月時点で特定外来生物に指定されていた動物143種類を対象に、指定前の記録も含めて分布を調べた。1990年、2000年、2010年、2022年を区切りに、地方別にその年までに一度でも確認された種類の数を数えると、多くの地域で増えていた。
特定外来生物(動物)の全国の累積確認種類数(種類)
数値で見る(単位: 種類)
| 項目 | 種類 |
|---|---|
| 1990年以前 | 19 |
| 2000年まで | 32 |
| 2010年まで | 37 |
| 2022年まで | 41 |
全国では1990年以前の19種類が、2000年までに32種類、2010年までに37種類、2022年までに41種類になった。地方別の内訳は次のとおりだ。
| 地方 | 1990年以前 | 2000年まで | 2010年まで | 2022年まで |
|---|---|---|---|---|
| 北海道 | 2 | 7 | 8 | 8 |
| 東北 | 6 | 12 | 13 | 15 |
| 関東 | 13 | 26 | 29 | 32 |
| 北陸 | 6 | 9 | 11 | 13 |
| 東海 | 10 | 13 | 15 | 19 |
| 近畿 | 9 | 12 | 13 | 19 |
| 中国 | 5 | 10 | 12 | 12 |
| 四国 | 6 | 8 | 12 | 13 |
| 九州 | 5 | 11 | 13 | 15 |
| 沖縄 | 8 | 10 | 10 | 10 |
| 全国 | 19 | 32 | 37 | 41 |
表: 特定外来生物(動物)の地方別の累積確認種類数(単位・種類) 出典: 環境省生物多様性センター「自然環境保全基礎調査総合解析の概要」(とりまとめ報告書 本編 p.44)
地方別では関東が13種類から32種類へと最も多く、次が東海と近畿の19種類。沖縄は8種類から10種類で、増え方は最も小さい。報告書は、関東が他の地域に比べて確認された種類数が多いと指摘している。
個別の種では、アライグマの広がりが取り上げられた。1960年代から各地の山間部や郊外に定着したといわれるが、近年は全国的に急速に分布を拡大しているという。外来種への対応では、環境省が2026年9月に外来種リストを11年ぶりに改訂し、掲載を596種類に増やしている。被害が確認された種を住民の通報で地図化するクビアカツヤカミキリの発見情報の収集のような試みも始まっており、分布の把握そのものが施策の前提になっている。
シカ、イノシシ、クマ類は1970年代以降に分布を広げた
在来の中大型哺乳類も分布を変えていた。シカ(ニホンジカ)、イノシシ、クマ類(ツキノワグマ・ヒグマ)、ニホンザル、ニホンカモシカは、1970年代以降に分布を拡大したと整理されている。
なかでもシカは、約5キロ四方のメッシュで見て全国的に大きく広がった。かつてほとんど分布がなかった高山帯や、東北地方の日本海側、北海道西部にも広がっている。報告書は、シカの痕跡が確認された地点が全国的に増えていることから、食害による植生の衰退や土壌侵食といった自然環境への影響の拡大が懸念されるとしている。
イノシシは西日本を中心に分布していたが、日本海側や東北地方へ広がった。クマ類は東北地方や西日本で、里山や平野部にまで分布を広げている。ただし報告書は、分布図では四国地域で分布が拡大したように見えるものの、これは調査が進んでデータが追加されたことによる見かけ上の拡大と考えられ、実際には分布は縮小しているとの注記を付けた。調査の精度が上がれば確認地点は増える。その見かけの増加と本当の増加を分けて示すのが、長期の調査を解析する際の難しさでもある。
森林は増え、草原・マツ林・耕作地は減った 竹林だけ増加
生態系の変化は、1979〜1998年と1999〜2023年の植生別の面積を比べる形で示された。
| 植生 | 1979〜1998年 | 1999〜2023年 |
|---|---|---|
| 森林 | 25万2200平方キロ | 26万200平方キロ |
| 草原 | 9600平方キロ | 8000平方キロ |
| 耕作地(水田・畑地) | 6万1800平方キロ | 4万7600平方キロ |
| マツ林 | 3万4400平方キロ | 1万9400平方キロ |
| ススキ草地 | 3300平方キロ | 1700平方キロ |
| 竹林 | 680平方キロ | 2550平方キロ |
森林は25万2200平方キロから26万200平方キロへ増えた。一方で草原は9600平方キロから8000平方キロに減っている。里地里山では耕作地が6万1800平方キロから4万7600平方キロ、マツ林が3万4400平方キロから1万9400平方キロ、ススキ草地が3300平方キロから1700平方キロへと、いずれも減った。増えたのは竹林で、680平方キロから2550平方キロになった。
森林が増えて草原や耕作地が減るという組み合わせは、人が手を入れて維持してきた環境が縮んだ結果と読める。ススキ草地やマツ林は、草刈りや落ち葉かきといった利用があって保たれる環境だ。手が入らなくなれば別の樹種に置き換わる。竹林の拡大も、管理されなくなった竹が周囲へ侵入する形で進む。面積の増減は、森林が「回復」したという話にとどまらず、環境の種類が入れ替わったことを示している。市街化区域では森林と耕作地が減り、市街地が増えた。
鳥とチョウは北へ 草原と湿地は分断が進んだ
気候変動の指標とされる種では、北への移動が確認された。鳥類では越冬期(12月、1月、2月)の分布が北へ広がる傾向があり、ミソサザイ、カワラヒワ、ヒヨドリは1990年代以降、北海道の北部や東部でも越冬期に出現が確認された。南方性の昆虫であるナガサキアゲハは、2000年以降に関東地方でも確認されるようになった。報告書は、気温の上昇と、幼虫の食草である柑橘類の栽培地域の拡大が分布拡大の主な要因と考えられているとしている。
逆に縮んだ側として「元普通種」という考え方が導入された。かつては広域に分布していたが、現在は多くの都道府県のレッドリストで絶滅危惧種か絶滅種として掲載されている動物種を指し、2023年11月時点のリストから61種が抽出された。ヒナコウモリ、サシバ、ハヤブサ、ニホンアカガエル、ナゴヤダルマガエル、ニホンウナギ、ミナミメダカ、ホトケドジョウ、タガメ、ゲンゴロウなどが例に挙がる。これらは大規模な河川、湖沼、湿地、水田などがある平野部に集中して分布していた。開発圧の高い場所に、追い詰められた種が重なっている。
生息地のつながり方も分析された。動物が移動できる範囲内にある生息に適した環境の面積を「ECA(連続生息地面積)」として算出し、移動可能距離を100メートル、500メートル、1キロ、5キロの4パターンで比べる手法だ。1990年代以前と2000年代以降を比較すると、森林は大きな変化がなかったが、草原と湿地では連続性の減少が見られた。一方で、耕作地が湿地や草原の代わりの生息地として機能すれば、連続性の向上に貢献する可能性があることも示されている。水田を湿地の延長として数えると、つながりの評価が変わるという指摘で、農地の扱いを生物多様性の側から考える材料になる。
