衆議院安全保障委員会は10月23日、臨時国会(第222回国会)で2回目となる委員会を開き、小泉防衛相から「防衛省の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案」(閣法第10号)の趣旨説明を聞いた。改正案は自衛官と自衛隊教官の俸給表を引き上げ、令和8年4月1日にさかのぼって適用する。同じ日の委員会では、国の安全保障に関する件として9人の議員が茂木外相と小泉防衛相らに質疑した。

衆議院の議案情報によると、改正案は10月29日時点で「衆議院で審議中」となっている。安全保障委員会の会議録は作成中で、趣旨説明と質疑での答弁の文言は確認できていない。本稿は委員会事務局の「安全保障委員会ニュース」と、衆議院が公表している法律案の条文に基づく。

自衛官俸給表を引き上げ、4月にさかのぼって適用

改正案の第1条は、防衛省の職員の給与等に関する法律(防衛省職員給与法)の別表第一(自衛隊教官俸給表)と別表第二(自衛官俸給表)を全面的に改める。現行の自衛官俸給表と比べると、各階級の1号俸は次のように変わる。

階級(1号俸) 現行 改正案 増額
陸将(一) 73万6000円 75万9000円 2万3000円
陸将補 60万4200円 62万3000円 1万8800円
3等陸曹 26万7900円 27万9000円 1万1100円
陸士長 25万200円 26万1000円 1万800円
1等陸士 25万円 26万800円 1万800円
2等陸士 23万9500円 25万300円 1万800円
自衛官俸給表の1号俸(再任用職員以外)の現行額と改正案の額。海・空の同じ階級も同額出典: 防衛省の職員の給与等に関する法律(e-Gov法令検索)、同法改正案(閣法第10号)の提出時法律案

1号俸で比べると、2等陸士は23万9500円から25万300円に上がり、上げ幅は約4.5%になる。陸将(一)の1号俸は73万6000円から75万9000円で約3.1%の増額にとどまる。階級が下の層ほど引き上げの割合が大きい。

手当では、陸曹長以下の自衛官が防衛大臣の指定する集団的居住場所以外の場所に住む場合に支給される営外手当が、月額7270円から8200円になる。防衛大学校と防衛医科大学校の学生に支給する学生手当は月額16万1000円から16万5400円に、自衛隊法第25条第5項の教育訓練を受ける生徒の生徒手当は月額14万7700円から15万2000円に上がる。

附則は、法律を公布の日から施行し、第1条による改正後の規定を令和8年4月1日から適用すると定める。4月以降に改正前の規定で支払われた給与は、改正後の給与の「内払」とみなす。成立すれば、4月分から施行日までの差額が支給される仕組みである。

予備自衛官手当は令和9年4月から 旧自衛官候補生には差額

改正案の第2条は、施行日を令和9年4月1日とする別の改正をまとめている。予備自衛官に支給する予備自衛官手当は月額1万3100円から1万3700円に、即応予備自衛官手当は月額1万9700円から2万600円になる。あわせて、職員に支給する手当の一覧に「転居手当」を加える。

期末手当と勤勉手当は、防衛省職員給与法第18条の2で「一般職の国家公務員の例により」支給すると定めている。改正案は、同条と第18条の3の支給割合の読み替え規定も第1条・第2条の2段階で改める。

附則第5条は、10月1日に廃止された自衛官候補生の制度にかかわる経過措置である。令和8年4月1日から9月30日までの間に自衛官候補生だった人には、自衛官候補生手当の月額が19万8500円だったものとして計算した額と、すでに支給された額との差額を支給する。制度の廃止については「自衛官候補生」制度が10月1日に廃止 入隊した日から自衛官に 防衛省の定員外だった約3か月の身分がなくなるで伝えた。

自衛官の人員の状況は自衛官の充足率88.1% 定員24万7154人に対し現員21万7701人 最前線を担う「士」は57.8%にとどまる 令和8年版防衛白書で伝えた。この日の質疑では、自民党の川松真一朗氏が若年層に就職先として自衛隊を選んでもらうための人材確保策と中途退職の抑制への取り組みを尋ねている。

一般職の給与改定に準じる

改正案の提出理由は「一般職の国家公務員の例に準じて防衛省職員の俸給月額等を改定する等の必要がある」と記されている。一般職の給与法の改正に合わせて、防衛省職員給与法を別の法律案で改正する形をとる。

その一般職の改正案は、同じ臨時国会に閣法第2号「一般職の職員の給与に関する法律等の一部を改正する法律案」として提出されている。提出理由によると、人事院が令和8年8月7日付で国会と内閣に出した給与と勤務時間・休暇の改定に関する勧告に基づき、俸給月額、初任給調整手当、期末手当と勤勉手当などの額を改めるほか、単身赴任手当の加算額を廃止し、転居手当を新設する。防衛省の改正案の附則には、一般職の改正法の附則を準用する規定が置かれ、法律番号は「令和八年法律第▼▼▼号」と空欄のままになっている。防衛省の改正案は、一般職の改正法を引用して組み立てられている。

衆議院の議案一覧では、閣法第2号の一般職に続いて、第3号に特別職、第6号に裁判官、第7号に検察官の給与法の改正案が並び、第4号と第5号は国家公務員と地方公務員の災害補償法などの改正案である。防衛省の改正案は第10号として提出された。

質疑 次期戦略三文書と非核三原則

委員会ニュースによると、23日の質疑者は川松真一朗氏(自民)、河西宏一氏(中道)、野間健氏(中道)、住吉寛紀氏(維新)、橋本幹彦氏(国民)、福田徹氏(国民)、谷浩一郎氏(参政)、宇佐美登氏(みらい)、田村智子氏(共産)の9人だった。

次期戦略三文書を巡る質問が複数並んだ。河西氏は、核搭載の米軍艦船の一時寄港に関する岡田外相の答弁(2010年3月17日)を引き継ぐことと、その趣旨を次期戦略三文書に明記することの政策上の違いについて茂木外相の所見をただした。非核三原則の「持ち込ませず」の例外を三文書に明記した場合の影響についての防衛省の評価と、米側から明文化の要請があったかどうかも尋ねた。

住吉氏は、次期戦略三文書で設定する防衛費の目標と財源確保の方策、垂直ミサイル発射システム(VLS)を搭載する原子力潜水艦の導入を三文書に明記することへの政府の見解を問うた。谷氏は小泉防衛相の「核に関する『あらゆる選択肢』を排除せず」との発言に将来の非核三原則見直しが含まれるのか、原子力潜水艦を導入する場合の費用や建造期間の試算があるのかを質問した。橋本氏は三文書の改定に向けて委員会でも審議を尽くす必要性を挙げたうえで、F2戦闘機の「共食い整備」の改善状況を取り上げた。

米海兵隊員の事件、ICC制裁も

那覇市で10月3日に起きた在日米海兵隊員による強盗殺人事件については、河西氏が日米のハイレベルの実務者協議で目指す成果と再発防止に向けた小泉防衛相の決意を、住吉氏が事件への在日米軍の対応に対する政府の評価を尋ねた。

田村氏は、米トランプ政権による国際刑事裁判所(ICC)への制裁措置を取り上げ、茂木外相が自ら反対と撤回要求の意思を明確に示す必要性を問うた。10月9日の外相メッセージがICCに課題があると言及した理由と、米国民をICCの管轄権から除外するという米側の要求を拒否すべきだとの指摘への見解も尋ねている。

このほか、野間氏はロシアによるウクライナ侵略から日本が得る教訓や、トランプ米大統領が言及した米中露3か国による首脳会談が日本に及ぼす影響を、福田氏は訓練中の事故や有事に重い外傷を負った自衛官を現地の処置から高度医療機関まで運ぶ体制と自衛隊医官の確保を、宇佐美氏はサイバー防衛の強化や日本とスウェーデン、ポーランドとの防衛協力を取り上げた。川松氏は中国空母の活動範囲の拡大を踏まえたリスク認識も尋ねている。

給与法改正案は趣旨説明を終えた段階で、質疑と採決は今後の委員会で行われる。