デジタル庁は10月20日、自治体の職員が国の機関に行っている問い合わせ・照会の事務を生成AIで省力化する実証事業を実施すると公表し、参加する都道府県・市区町村の募集を告知した。事業名は「自治体からの照会事務の自動化などの国・地方AI共通サービスに関する実証事業」。自治体がデータの検索・整理・分析を行うことができる生成AI機能を「自治体版バイバイン」と名付け、参加自治体に試験的に提供する。募集は10月26日午後4時に始まり、11月13日に締め切る。
50〜100団体を公募、実証は11月24日から2月10日まで
募集の対象は都道府県および市区町村で、規模は「50団体〜100団体程度」としている。同一の団体から複数の部署が参加することもできる。応募期間は令和8年(2026年)10月26日(月)から11月13日(金)まで。応募フォームは10月26日午後4時に開く予定で、それまでは応募できない。
実証の実施期間は令和8年11月24日(火)から令和9年(2027年)2月10日(水)まで。応募の締め切りから実証開始までが11日しかなく、実証そのものは約2か月半になる。年末年始をまたぐ日程で、参加を決めた自治体は11月のうちに庁内の調整を終える必要がある。
募集説明会はオンラインで2回開く。第1回が10月26日(月)、第2回が10月28日(水)で、どちらも応募受け付けが始まる週にあたる。説明会の録画は後日公開する予定としている。問い合わせ先は「デジタル庁 国・地方AI共通サービス実証事業事務局」で、事務局の運営はシンプレクス株式会社に委託している。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事業名 | 自治体からの照会事務の自動化などの国・地方AI共通サービスに関する実証事業 |
| 募集対象 | 都道府県および市区町村(同一団体から複数部署の参加も可) |
| 募集規模 | 50団体〜100団体程度 |
| 募集期間 | 2026年10月26日午後4時(予定)〜11月13日 |
| 実証期間 | 2026年11月24日〜2027年2月10日 |
| 募集説明会 | 第1回10月26日・第2回10月28日(オンライン、録画は後日公開予定) |
| 事務局 | デジタル庁 国・地方AI共通サービス実証事業事務局(運営委託先・シンプレクス株式会社) |
一方、募集ページに書かれていないことも多い。対象となる照会事務が国のどの機関への照会を指すのか、提供される生成AI機能がどこまでの作業を担うのか、参加自治体に費用の負担が生じるのかは記載がない。応募が100団体を大きく超えた場合にどう選ぶのかという基準も示されていない。これらは10月26日と28日の説明会で説明される可能性があるが、現時点では確認できていない。
「自治体版バイバイン」はデータの検索・整理・分析を担う
デジタル庁は事業の目的を、自治体がデータの検索・整理・分析を行うことができる生成AI機能を参加自治体に試験的に提供し、その有用性・利便性・課題を検証するとともに、今後の実用化・展開に向けた検討材料を得ることだと説明している。
この書き方からは、提供されるのが照会の文面を自動で作って国へ送りつける仕組みではなく、照会に至る前後の調べ物と整理を肩代わりする機能だと読める。自治体の職員が国に問い合わせるとき、実際に時間がかかるのは文面を書く作業そのものではなく、関係する法令・通知・過去の回答を探し、自分の団体の事情に引き直して論点を組み立てる作業である。「検索・整理・分析」という3語は、その手前の工程を指している。
「バイバイン」という名称の由来について、募集ページに説明はない。デジタル庁が政府職員向けに運用している生成AI利用環境「ガバメントAI 源内(げんない)」でも、公表済みのAIアプリ一覧にこの名前は載っていない。「自治体版」と付いている以上、政府部内に対応する機能があるか、今後の展開を見据えた呼称である可能性があるが、いずれも確認できていない。
参考になるのは、源内が政府職員向けにすでに提供しているアプリの顔ぶれである。令和8年2月20日時点の一覧には、法令に関する質問にAIが詳細なレポートを作成する「法制度に関する調査」、国会議事録から特定テーマの政府答弁を検索する「国会答弁を調査・分析」、jGrantsの補助金データベースから申請要件・金額・期限を整理する「補助金制度調査」などが並ぶ。いずれも「制度について調べ、根拠を添えて整理する」型のアプリで、自治体から国への照会で求められる作業と性質が近い。
自治体側の「困りごと」として挙がっていたもの
自治体の照会・問い合わせ業務が重いという認識は、デジタル庁がこれまで開いてきた自治体向けの催しでも繰り返し示されている。2025年11月に公開された「共創プラットフォームキャンプ 自治体業務のAI活用編」の記録には、参加した自治体の職員が持ち込んだ具体的な困りごとが残っている。
たとえば、市民から役所の代表電話に寄せられる問い合わせは、受け手が内容から担当部署の見当をつけて各課へ取り次いでいる。代表電話は各課の職員が輪番で対応するため、担当部署を特定する作業に負担感があるという相談が出た。また、職員の異動に伴う業務の引き継ぎや庁内からの問い合わせにかかる負荷を減らすため、会計・財務・システムといった専門知識が要る部署への問い合わせを減らすヘルプAIを使いたい、という案も挙がっていた。
国との関係に直接触れた案もある。法令やその周辺情報、国の所管省庁の見解も踏まえて自治体としての見解・論点を整理するために、法令を対象とした調査AIを活用したい、というものだ。今回の実証が狙う領域は、この延長線上にある。
同じ記録によれば、東京都とGovTech東京が都内の自治体に提供している生成AIプラットフォームには、前年度に20自治体が参加して100個のアプリが生まれ、2025年度は37団体が参加している。自治体単独ではなく、共通の基盤を用意して横に展開するという発想は、国と地方で共通している。
源内は政府職員18万人へ、自治体に開いたのは熊本地震が最初
源内は2025年5月にデジタル庁内で職員向けの運用が始まった内製の生成AI利用環境で、2026年度中に全府省庁の約18万人が使えるようにする計画である。5月29日の時点で約10万人が利用可能な状態になったと公表されており、対象の府省庁と職員数を順次広げている。
その源内が自治体に開かれたのは、今回が初めてではない。熊本地震の発生後、デジタル庁は被災自治体・関係自治体・災害対策機関などに源内を緊急提供した。大規模災害では災害情報の調査・整理・分析が必要になり、平時をはるかに超える業務が一度に集中するためで、提供されたのはチャット、一部のAIアプリ、プロンプト例だった。対象は被災自治体だけでなく、応援に入る自治体、消防本部・消防局、医療チーム、支援機関、指定公共機関にも及んだ。この緊急提供は9月30日で終了し、要請のあった一部の被災自治体については令和8年度末まで再延長されている(政府の生成AI「源内」、熊本地震の自治体向け緊急提供を9月30日で終了 64日間で148機関・団体の325アカウントが使い実行1,305回 一部自治体は年度末まで延長)。
緊急提供が災害時の例外だったのに対し、今回の実証は平時の定常業務を対象にしている点が異なる。国と地方をまたぐ業務そのものを対象に選んだことも、災害対応のように「同じ道具を貸す」のとは性格が違う。事業名に「国・地方AI共通サービス」と掲げられているとおり、国と自治体が同じ基盤を共有する形を試す位置づけになっている。
OSS公開という第2の経路、2027年度の本格導入に向けて
今回の実証に参加できる自治体は50〜100団体程度にとどまるが、自治体が源内系の機能に触れる経路はもう一つ用意されている。デジタル庁は10月20日、源内で職員がAIエージェントを作って動かせる環境の提供を始めると同時に、安全ルール「源内基準」を公表した(政府職員18万人の生成AI「源内」、AIエージェント環境の提供を開始 安全ルール「源内基準」を公表)。このとき、対話型の「エージェントチャット」と個人用開発環境「源内工房」について、地方公共団体や民間事業者でも幅広く活用できるよう、誰でも利用・改変・再配布ができる「源内OSS Ver.2.0」として令和9年2月ごろを目途に公開する予定だと明記している。
実証の終了が令和9年2月10日、OSSの公開目途が同じ2月ごろである。実証に参加した自治体が得た知見と、OSSを手に入れた自治体が独自に試す動きが、ほぼ同じ時期に重なることになる。
源内本体の展開スケジュールでは、2026年12月ごろに高度な生成AIアプリケーションの試験提供と政府共通データの整備・提供(リリース2.2)を行い、2027年度から生成AIの本格利用(リリース3.0)に移る。本格利用の段階では、利用する府省庁がそれぞれ予算を措置する。今回の実証はこの日程の内側に収まっており、2月10日に得られる検証結果が、2027年度以降に国・地方の共通サービスとして何を提供するかの判断材料になる。
デジタル庁が公表しているのは現時点でこの募集案内までで、実証の成果をいつどのような形で公開するかは示されていない。参加団体の一覧を公表するかどうかも記載がない。
