国土交通省は10月20日、令和5〜6年度に実施した住宅の省エネ改修などへの補助金制度「住宅省エネ2024キャンペーン」の事務局が運営するシステムで、外部からの不正操作により登録事業者の情報が漏えいした可能性があると公表した。事務局を担うのは、国交省の採択を受けた事務事業者である株式会社博報堂。現時点で判明しているのは2万3918名(1万6950事業者)分で、法人代表者の氏名と肩書、個人事業主の氏名と住所、補助金担当者の氏名・部署・役職と業務で用いている住所・電話番号・メールアドレスが含まれる。原因や詳細な被害状況は博報堂が調査中で、事務局は被害の拡大を防ぐためシステム機能を全面的に停止している。

漏えいの可能性があるのは、各社1人の「統括アカウント担当者」

国交省の報道発表と、事務局が同じ10月20日に公式サイトへ載せたお知らせによると、不正操作を受けたのは、工事を行う事業者が補助金の交付申請などの手続きをするために使うシステムである。登録されている事業者の情報が漏えいした可能性があると、事務局から国交省に報告があった。

人数として示された2万3918名(1万6950事業者)は、事務局が「速報値」としている数字で、重複や担当者変更による追加登録の有無など詳細な調査が続いている。1事業者あたり1.4人という計算になるのは、法人代表者と補助金担当者が別に登録されているためで、事務局は、この「補助金担当者」が各社1名の「統括アカウント担当者」であると説明している。つまり、補助金を使った工事を手がけた事業者の代表者と、その社内で申請事務を仕切っていた担当者の氏名や連絡先が、まとまって外部に出た可能性があるということだ。

一方で、事務局は漏えいが確認されていない情報もはっきり挙げている。補助金の振込先となる登録事業者の口座情報、代表者の電話番号・メールアドレス・住所、そして補助金を使って工事をした一般消費者(制度上は事業者と並ぶ「共同事業者」にあたる)の個人情報である。また、令和5〜6年度より後に実施されている同種の補助事業について、「住宅省エネ2026キャンペーン」などの登録事業者情報の漏えいもないことを確認したとしている。

区分 内容
漏えいした可能性がある情報 法人代表者の氏名・肩書/個人事業主の氏名・住所/補助金担当者(統括アカウント担当者)の氏名・部署・役職・業務で用いている住所・電話番号・メールアドレス
漏えいが確認されていない情報 登録事業者の補助金振込用の口座情報/代表者の電話番号・メールアドレス・住所/一般消費者(共同事業者)の個人情報
対象の人数(速報値) 2万3918名(1万6950事業者)
今回の事案で漏えいの可能性がある情報と、確認されていない情報出典: 国土交通省「『住宅省エネ2024キャンペーン』の事務局における登録事業者情報の漏洩の可能性について」、住宅省エネ2024キャンペーン事務局の新着情報(2026年10月20日)

システムは全面停止 完了報告も書類の取得もできない

事務局は被害拡大防止の観点から、4つの事業に共通する「共通ポータル」と、子育てエコホーム支援事業の専用ポータルを含むすべてのシステム機能を止めている。点検期間中は専用ポータルにログインできず、事業者は完了報告などの提出も、各種必要書類のダウンロードもできない状態だ。

これは事業者にとって実務上の足止めになる。子育てエコホーム支援事業は2024年12月31日をもって交付申請(予約を含む)の受け付けを終えており、残っているのは工事を終えた後に出す完了実績報告の手続きである。システムが止まっている間は、その提出口が閉じていることになる。

事務局は、システム機能の点検と再発防止策を講じた後、子育てエコホーム支援事業の完了実績報告の受け付けなどに必要な機能に限って提供を再開する予定だと説明した。再開時期は示されておらず、公式ホームページで知らせるとしている。

期限の扱いについては2点が示された。事務局から不備の訂正を依頼している申請については、機能の点検が終わった後に改めて訂正の期限を設定する。一方、11階以上の建物にかかる完了報告の提出期限は変更せず、令和9年2月28日(日)を予定するという。なお、階数が10以下の共同住宅等の完了報告は2026年4月30日が期限で、事務局はその受け付けを同年5月1日に終了したと公表している。

4事業・3省をまとめた「住宅省エネ2024キャンペーン」とは

「住宅省エネ2024キャンペーン」は、単独の補助金ではなく、省庁をまたぐ4つの補助事業の総称である。一定の要件を満たす新築住宅の取得や住宅のリフォームなどに補助金を出す制度で、交付申請は住宅の所有者本人ではなく、工事を実施する事業者などが行う。だからこそ、今回漏えいした可能性があるのが「事業者」の情報だった。

事業名 所管
子育てエコホーム支援事業 国土交通省
先進的窓リノベ2024事業 環境省
給湯省エネ2024事業 経済産業省
賃貸集合給湯省エネ2024事業 経済産業省
「住宅省エネ2024キャンペーン」を構成する4事業と所管官庁出典: 国土交通省「『住宅省エネ2024キャンペーン』の事務局における登録事業者情報の漏洩の可能性について」

規模は小さくない。中心となる子育てエコホーム支援事業は、令和5年度補正予算で2100億円、令和6年度当初予算案で400億円が充てられた。補助の対象者に代わって申請などの手続きを行う事業者は、あらかじめ事務局に事業者登録をしておく必要があり、交付申請は2024年4月2日から予算上限に達するまで受け付けられた。全国の工務店やリフォーム事業者、設備工事会社が登録していたと見られ、今回の2万3918名という数字の背景にはこの仕組みがある。

今回の発表に、国交省の住宅局住宅生産課のほか、給湯省エネ2024事業と賃貸集合給湯省エネ2024事業を担う経済産業省資源エネルギー庁の省エネルギー課、先進的窓リノベ2024事業を担う環境省の地球温暖化対策事業室が問い合わせ先として並んだのも、この4事業がひとつの事務局・ひとつのシステムで運営されていたからだ。言い換えれば、事務局のシステムが1つ破られると、3省が関わる補助金制度の登録事業者が一度に影響を受ける構造になっていた。

事務局を担うのは博報堂 国交省は早急な調査を指示

事務局である博報堂は、補助金の申請受付や審査、問い合わせ対応などの業務を行う者として国交省の採択を受けた「事務事業者」である。国の補助金制度では、申請の受け付けや審査といった事務を民間の事業者に委ねることが一般的で、その委託先が持つシステムに、申請者の個人情報が集まる。今回はその集積点が狙われた形だ。

国交省は博報堂に対し、漏えいした原因と詳細な被害状況を早急に調査するよう指示しており、原因などを踏まえて必要な措置を講じるとともに、再発防止を徹底するよう指導していくとしている。事務局側も「今後、こうした事態が発生することのないよう、情報セキュリティ対策の一層の強化に努める」と記した。

なお、本件について博報堂自身のニュースリリースやお知らせの一覧に掲載されているかを10月21日時点で確認したが、見当たらなかった。公表は、国交省の報道発表と、博報堂が運営する事務局の公式サイトの新着情報という2つの経路で行われている。

行政が関わるシステムで個人情報が外部に出た可能性が明らかになる事例は、ここ1年でも繰り返されている。政府の共通システムでは、外部サービスの欠陥を突かれて職員らの情報が漏えいした可能性が公表された(「デジタル庁の政府共通システムに不正アクセス 職員ら24万6000件の個人情報が漏えいの可能性 VPNの欠陥突かれる」)。利用者から見えるのは行政のサービスでも、実際にデータを預かり、守る責任を負うのは委託先という構図は共通している。

なりすましやフィッシングへの警戒を呼びかけ

事務局は、漏えいした可能性のある事業者に対し、個別に謝罪と注意喚起の連絡をしている。対象となる事業者の統括アカウント担当者には、10月20日に「info@jutaku-shoene.jp」から、登録されているメールアドレス宛てにメールを送ったという。

想定されるリスクとして、事務局は具体的に3つを挙げた。統括アカウント担当者のメールアドレスにスパムメールが届く可能性、担当者の名前を使って住宅の所有者に不正な営業活動をされる可能性、そして国土交通省などの行政機関や事務局を装ったメールや電話が来る可能性である。フィッシングメールや、第三者が担当者になりすますおそれもあるとしている。

事務局は「アカウントIDやパスワード、登録の口座情報を尋ねることはない」と明言し、そうした連絡があっても答えないよう求めた。覚えのないメールを受け取った場合は、本文中のURLをクリックせず、添付ファイルも開かず、個人情報の入力や金銭の支払いにも応じないよう呼びかけている。国交省も同様に、不審なメールはメールごと削除してほしいとしている。

この事務局をめぐっては、今回より前にも似た注意喚起があった。子育てエコホーム支援事業の公式サイトの新着情報には、2026年3月23日付で「当方ドメインを騙る不審なメールに関するお詫びと注意喚起」という重要なお知らせが掲載されている。事務局名とドメインは、もともとかたられやすい状態にあったことになる。そこへ担当者の氏名と勤務先の連絡先が加わると、相手の名前を知っている「本物らしい」文面を作りやすくなる。

個人情報保護委員会は、不正の目的をもって行われたおそれがある行為による個人データの漏えい等(またはそのおそれ)が生じた場合、事業者に報告を義務づけている。報告は発覚後速やかに行う速報と、詳細を伝える確報の2段階で、不正な目的で行われたおそれがある場合の確報の期限は発覚日から60日以内である。同委員会の令和7年度年次報告の概要によると、民間の個人情報取扱事業者等から委員会に寄せられた漏えい等事案に関する報告の処理は令和7年度に1万7139件で、令和6年度の1万9056件から減ったものの、なお年間1万件を大きく超える水準が続いている。同じ年度に指導および助言は455件、勧告は2件、命令は1件行われた(「個人情報の漏えい報告、3年で4万8315件 勧告6件・命令1件、社名公表はトヨタ・ドコモなど一部」)。

事務局は、登録事業者と補助事業を利用した消費者向けの相談窓口を設けている。住宅省エネ2024キャンペーン事務局の電話相談窓口は0570-062-065(IP電話からは050-3524-7232)で、受付時間は午前9時から午後5時まで、土日・祝休日と年末年始は休み。土日祝の問い合わせは、事務局サイトの個人情報漏洩に関するお問い合わせフォームで受け付ける。補助事業を利用した消費者向けには、公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターが運営する「住まいるダイヤル」(03-3556-5147、午前10時から午後5時まで、土日・祝休日と年末年始は休み)も案内されている。