厚生労働省は、9月16日に開いた労働政策審議会労働条件分科会(第211回)の議事録を公表した。分科会は、裁量労働制や変形労働時間制、勤務間インターバル制度、「つながらない権利」などを論点に、労働時間法制の見直しの議論を月2回から3回の頻度で進めることを了承した。同じ日には、36協定など労使協定を結ぶ労働者側の当事者である「過半数代表者」について、選出手続や不利益取扱いの禁止を労働基準法施行規則から法律の本体へ移すかどうかが、個別の論点として示された。

議題は賃金のデジタル払いと労働基準関係法制

会議は厚生労働省の専用第22〜24会議室(中央合同庁舎5号館18階)で、会場とオンラインの併用で開かれた。出席したのは公益代表7人、労働者代表8人、使用者代表7人で、使用者代表の佐藤委員と公益代表の黒田委員が欠席した。冒頭、労働者代表の松田惣佑委員が退任し、全国生命保険労働組合連合会中央書記長の市川勝也委員が就任したことが報告された。

議題は2つあった。1つ目は「資金移動業者の口座への賃金支払制度について」で、金融庁が所管する事項に関わるため、労働政策審議会運営規程第4条に基づき、金融庁企画市場局の熊崎デジタル・分散型金融企画室長がオブザーバーとして出席した。賃金課の横田賃金支払制度業務室長が資料を説明し、委員からの質疑を経て、山川分科会長が「御異議ございませんでしたので、事務局においては、ガイドラインの改訂等の対応をお願いしたいと思います」と述べ、了承された。いわゆる賃金のデジタル払いをめぐっては、厚労省がこの後、賃金のデジタル払い、事業者向け指針の改正案 破綻時の保証契約で供託を省けると明記 厚労省が意見募集という形で、事業者向け指針の改正案を示している。

2つ目の議題が「労働基準関係法制について」で、この日の審議の大半を占めた。

月2回から3回、裁量労働制や勤務間インターバルを並べる

川口労働条件政策課長は「今後の議論の進め方(案)」を説明し、7月21日に閣議決定された日本成長戦略と経済財政運営と改革の基本方針2026に、労働時間法制等に係る政策対応について2026年夏以降の労働政策審議会で議論を行うと記載されていることを挙げた。そのうえで、今後の議論は勤務間インターバル制度、連続勤務規制、「つながらない権利」、裁量労働制、変形労働時間制、副業・兼業、テレワーク・フレックスタイム制を中心に進め、これに昨年1月から分科会で議論してきた過半数代表者等、法定休日、年次有給休暇の論点を加えるとした。論点が多岐にわたるため、開催頻度は月2回ないし3回程度にしたいと説明し、委員の首肯で了承された。

進め方の説明に対しては、初回から労使の主張が交わされた。使用者代表の鈴木委員は「従事した労働時間ではなく、成果に応じた処遇をより可能とする裁量労働制を、健康確保を前提に、過半数労働組合のある企業で拡充していく必要がある」と述べ、AIが調査・分析のような非定型業務まで担うようになれば、同じ時間働いても生み出す付加価値の差が広がると主張した。使用者代表の田中委員は、変形労働時間制について勤務日や勤務時間の設定変更の要件が厳格だとする声があると述べた。日本商工会議所の鳥澤委員は、日商が5月に公表した中小企業の働き方に関する調査で、25.9%の中小企業が45時間以上勤務する従業員がいると回答し、時間外労働の上限規制が事業運営に支障を及ぼしていると答えた割合は運輸35.7%、建設28.7%、宿泊・飲食24.5%だったと紹介した。そのうえで、月45時間・年6回という上限の緩和と、1年単位の変形労働時間制で労働日や労働時間を変更できる措置、30日前に労使合意を得る期間の短縮を求めた。

労働者代表の菅村委員は、これまで分科会で議論を積み重ねてきた管理監督者の規制や44時間特例措置の廃止が論点から除外されたことに「違和感を禁じ得ません」と述べ、労働時間の把握義務を論点に明記するよう要望した。あわせて、労働基準監督署による一律の指導の見直しについて「非常に遺憾です」とし、前日に公表された令和7年度の監督指導結果で45時間以内への削減に対する指導が6000件に近い数だったことを挙げ、厳格な対応を続けるよう求めた。労働者代表の古川委員は、連合の加盟組合へのヒアリングで裁量労働制は「長時間労働になりがち」「裁量が確保できない状況に陥りやすい」という実態が示されたとして、拡充ではなく適正運用の徹底を求めた。同じく亀田委員は、変形労働時間制は現行でも繁忙期に1日10時間・1週52時間まで所定労働時間を設定できる柔軟な制度だとして要件緩和に反対し、トラック運転者が2025年度も脳・心臓疾患の労災請求件数・認定件数ともに最も多い業種だと指摘した。長時間労働と健康被害の実態については、精神障害の労災請求4958件、1年で1178件増 令和8年版過労死等防止対策白書でも、請求件数が増え続けていることが示されている。

過半数代表者の規定を労基法本体へ移すか

個別の論点として最初に示されたのが、集団的労使コミュニケーションの在り方である。中心にあるのが過半数代表者の扱いだ。

労働基準法は、時間外・休日労働の36協定や変形労働時間制の導入など、多くの場面で「労働者の過半数で組織する労働組合、それがない場合は労働者の過半数を代表する者」との協定を求めている。この過半数代表者の要件を定めているのは法律ではなく労働基準法施行規則第6条の2で、①労基法第41条第2号の監督・管理の地位にある者でないこと、②協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと、の2つが挙げられている。同条はさらに、過半数代表者であることや、なろうとしたこと、正当な行為をしたことを理由とする不利益な取扱いをしないようにしなければならないと定め、事務が円滑に進むよう必要な配慮を求めている。いずれも省令、つまり厚生労働省令のレベルにとどまる。

過半数代表者が出てくる場面は、労働組合のない職場ほど多い。令和7年労働組合基礎調査によると、2025年6月30日現在の労働組合員数は992万7000人、雇用者数に占める推定組織率は16.0%で、前年の16.1%から下がり過去最低となった。企業規模別にみると、1,000人以上の企業では推定組織率が38.7%に達する一方、99人以下では0.7%にとどまる。

企業規模(民営企業) 推定組織率 労働組合員数
1,000人以上 38.7% 596万7000人
100〜999人 9.9% 159万4000人
99人以下 0.7% 17万8000人
民営企業計 15.4% 874万2000人
企業規模別の労働組合員数と推定組織率(2025年6月30日現在、単位労働組合)。推定組織率は、厚生労働省が公表した企業規模の区分(1,000人以上・100〜999人・99人以下)による。100〜999人と99人以下の労働組合員数は、第4表の区分(300〜999人と100〜299人、30〜99人と29人以下)を足した。計には、複数企業の労働者で組織する労働組合と企業規模が不明な労働組合の100万2000人を含むため、内訳の合計とは一致しない

出典: 厚生労働省「令和7年労働組合基礎調査の概況」第4表

事務局が示した論点は「現在、過半数代表者の選出手続を含めた要件は、労働基準法施行規則に実施命令として定められているのみであるが、適切な労使コミュニケーションの基盤の整備のため、法律に規定することについてどのように考えるか」というものだった。あわせて、適正に選出された過半数代表者が「事業場の全ての労働者の公正な代表として手続を行うべきことを法律に規定すること」、労働組合の意義や役割について教育・啓発を進めることも論点に挙がった。

選出手続については、公益代表の神吉委員が、施行規則の「投票、挙手等」という書き方では実質的に過半数の支持を得ていることが必要だと読み取れないと述べ、本年7月の未払賃金請求訴訟で高松高裁が信任投票の在り方に判断を示したことに触れて、明記すべきだと主張した。使用者代表の兵藤委員は、不適切な選出事例が今も見られることやトーコロ事件の判決を挙げ、現行の施行規則の内容の限りで法律に規定することに「特段の異論はございません」と述べた。

役割の規定をめぐっては意見が割れた。労働者代表の佐藤好一委員は、事務局資料を引いて、過半数代表者の34.5%が協定書にサイン等をしたのみで、準備や活動を行った場合でも意見集約を行ったのは半数弱にとどまると述べ、定義規定を設けて全ての労働者からの意見集約を役割として明記すべきだと主張した。これに対し鳥澤委員は、過半数代表者に公正代表としての意見集約義務まで負わせれば「なり手不足に拍車をかける懸念もございます」と述べ、慎重な検討を求めた。使用者代表の田上委員は、全国中小企業団体中央会が7月に実施し従業員1〜300人の1万3500社が回答した調査で、労使で協議を行う機会や場として過半数代表者があると答えた事業者は15.5%、従業員10人未満の事業所では5.3%だったと紹介した。

情報提供と便宜供与、不利益取扱いでも隔たり

2つ目の論点は、過半数労働組合や過半数代表者が役割を果たすための情報提供と便宜供与である。事務局は、選出に必要な情報や事業場内の働き方の実態に関する情報の提供、活動のための便宜供与を法律上規定すること、賃金を失うことなく労働時間内に活動することなどの金銭的な便宜供与を明確化する場合に労働組合法の不当労働行為に当たらない旨を法律上明確化すること、不利益取扱いの禁止を法律上規定すること、指針の根拠を法律に置くことの4点を示した。

労働側はおおむね賛成した。春川委員は情報提供と便宜供与を法律に明記することが重要だとしたうえで、金銭的な便宜供与については労働組合法の支配介入との関係を丁寧に整理し、組合の自主性と独立性を失わない範囲に限るべきだと述べた。古川委員は、事務局資料で過半数代表者の活動に負担を感じている割合が約7割に上り、内訳では「労働者の意見集約」が最も高いと指摘し、情報提供を使用者の責務として労働基準法に位置づけ、提供がなかった場合には協定の効力を認めない扱いとすべきだと主張した。36協定であれば、事業場の労働者名簿、時間外労働が必要な業務の内容、実労働時間の状況といった項目が考えられるとした。椎木委員は、指針に根拠規定を設ける方向に賛同し、必ず提供すべき情報と提供することが望ましい情報を分けて整理するよう求めた。

使用者側は反対や慎重論を並べた。鳥澤委員は、議論が存在しない事項まで一律に情報提供の義務が生じれば中小企業と過半数代表者の双方に過大な負担になるとし、共有内容は労使の自治に任せることが望ましいと述べた。田中委員は、便宜供与を義務として行うべき内容と推奨される内容は極めて限定的な範囲にとどめ、行うことが可能な範囲を広く認めるべきだと主張した。加藤委員は、罰則付きで情報提供を義務づけるなら労使協定ごとに必要性を検討すべきだとして、企業が実際にどのような情報を提供しているかの実態調査を求めた。

不利益取扱いについては、労働者代表の櫻田委員が、事務局資料で「不利益取扱いを受けた、あるいは受けそうになった」という回答が約15%に及ぶとして、禁止規定を条文に明記し、違反があれば協定が無効になることも規定すべきだと述べた。加藤委員はこれに対し、調査はアンケートで具体的な実態までは明らかになっていないとして、まず実態把握が前提だと主張した。事務局の田邉労働条件確保改善対策室長も、この資料は合計3000人が回答したアンケート調査で「何か具体的にこういう取扱いだった等といった情報が得られているわけではない」と認めた。公益代表の原委員は、基本的な事項は法律に書くことが望ましいとしたうえで、ハラスメント対策などで活用されている指針を労基法の分野でも使う意義を指摘した。首藤委員は、過半数代表者の機能を広げると、少数派組合がある職場では労働組合の活動が代替される可能性があるとして、両者の関係を整理しておく必要があると述べた。

年休の5日義務、復帰者と退職者の扱いが論点に

もう1つの個別論点が年次有給休暇である。事務局は「時季指定義務の日数について、育児休業からの復帰者や退職するなど何らかの理由により年次有給休暇を与えることができる期間の短い労働者についても5日となっているが、当該日数についてどのように考えるか」とし、時間単位年休の上限日数である5日の扱いもあわせて問うた。年次有給休暇の時季指定義務は、年10日以上の年休が付与される労働者について、使用者が年5日を時季を指定して取得させる仕組みで、2019年4月から適用されている。

もう1つは、年休を取得したときに支払われる賃金を、原則として「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」とすることをどう考えるか、という論点である。現行は、通常の賃金のほか、平均賃金、健康保険法の標準報酬月額の30分の1に相当する額のいずれかを就業規則などで定める形になっており、事務局は後者2つを引き続き労使協定で選べるようにすることとあわせて意見を求めた。

使用者代表の福本委員は、時季指定義務が2015年の労政審の建議で、正社員の約16%が年休を1日も取得しておらず、ほとんど取得していない労働者では長時間労働者の比率が高いという実態を踏まえて導入された経緯を挙げ、過重労働の防止が目的であるなら、休業からの復帰者や退職者に一律に5日を適用することがふさわしいか疑問だと述べた。パートタイム労働者の年休が勤務日数に応じた比例付与になっていることを引き合いに、期間に応じた比例按分の仕組みが実態に合うのではないかと提案した。

山川分科会長は「各御意見の観点は非常に重要なものと思います」と述べ、事務局にこの日の議論を踏まえて次回以降の準備を進めるよう求めた。次回の日程は、調整のうえ追って知らせるとされた。