衆議院の解散による総選挙を「解散の日から26日以後40日以内」に行うと定め、地方公共団体の選挙にも同じように選挙期日の下限を置く公職選挙法改正案(衆法35号)が、衆議院で審議中のまま残っている。国民民主党・無所属クラブの古川元久衆院議員ら4人が第221回国会に提出した議員立法で、第222回国会(臨時会)の召集日である令和8年10月5日に、衆院政治改革に関する特別委員会へ付託された。衆議院の議案審議経過情報によると、衆議院の審査結果・審議結果の欄はいずれも空欄のままである。提出理由には「近時における選挙期日の設定の状況に鑑み、選挙期日を設定することができる期間を限定する措置を講ずることにより、選挙の執行に係る準備、立候補の届出の準備その他の準備を行う期間を十分確保する必要がある」と書かれている。
解散による総選挙は「26日以後40日以内」に
現行の公職選挙法第31条3項は「衆議院の解散に因る衆議院議員の総選挙は、解散の日から四十日以内に行う」と定めている。40日という上限だけがあり、下限は置かれていない。この40日は日本国憲法第54条1項の「衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない」をそのまま受けたものだ。
改正案は、この第31条3項の「から」の下に「二十六日以後」を加える。改正後の条文は「衆議院の解散による衆議院議員の総選挙は、解散の日から二十六日以後四十日以内に行う」となる。あわせて、旧字体に近い「因る」を「よる」に改める表記の整理も入っている。
変わるのは早い側の端だけである。これまでは解散の翌日から数えて何日目に投票日を置いても違法ではなく、現実には公示から投票日までの日数を確保できる範囲で最も早い日が選ばれてきた。改正案が成立すれば、解散から25日目までの日に投票日を置くことができなくなり、総選挙の期日は解散から26日目から40日目までの15日間のどこかに限られる。憲法が定める上限は動かさず、法律で下限だけを加える組み立てになっている。
地方選は知事31日・町村19日 6通りの下限を置く
改正案は地方公共団体の選挙にも同じ考え方を広げる。公職選挙法第33条2項は現在「地方公共団体の議会の解散に因る一般選挙は、解散の日から四十日以内に行う」とだけ定めているが、改正案はこれを選挙の区分ごとに分け、都道府県議会議員と指定都市議会議員の選挙は解散の日から23日以後40日以内、指定都市以外の市議会議員の選挙は21日以後40日以内、町村議会議員の選挙は19日以後40日以内とする。
第34条1項の対象はさらに広い。現行条文は「地方公共団体の議会の議員及び長の再選挙、補欠選挙(第百十四条の規定による選挙を含む。)又は増員選挙若しくは第百十六条の規定による一般選挙は、これを行うべき事由が生じた日から五十日以内に行う」と定めている。首長が辞職・死亡した場合や、議員の欠員が一定数を超えた場合などに行う選挙である。改正案はこれを2号に分け、都道府県知事の選挙は事由が生じた日から31日以後50日以内、指定都市の長の選挙は28日以後、都道府県議会議員と指定都市議会議員の選挙は23日以後、指定都市以外の市議会議員と市長の選挙は21日以後、町村議会議員と町村長の選挙は19日以後とする。
一方、議会の議員の増員選挙だけは第1号として切り出され、「これを行うべき事由が生じた日から五十日以内」と現行のまま残る。定数が増えて欠員を埋める増員選挙には下限を置かない整理である。
どの下限も公示・告示の法定最短より14日長い
置かれる日数は選挙の種類ごとにばらばらに見えるが、現行法が定める公示・告示の期限と並べると規則性がある。公職選挙法は選挙期日の公示・告示について、衆院議員の総選挙は少なくとも12日前、都道府県知事の選挙は17日前、指定都市の長の選挙は14日前、都道府県議会議員と指定都市議会議員の選挙は9日前、指定都市以外の市議会議員と長の選挙は7日前、町村議会議員と長の選挙は5日前と定めている。この日から立候補の届け出を受け付け、選挙運動が始まる。
| 選挙の種類 | 公示・告示の法定最短 | 改正案が置く下限 |
|---|---|---|
| 衆院議員の総選挙(解散による) | 12日前 | 解散の日から26日以後 |
| 都道府県知事 | 17日前 | 事由が生じた日から31日以後 |
| 指定都市の長 | 14日前 | 事由が生じた日から28日以後 |
| 都道府県議・指定都市議 | 9日前 | 23日以後(議会の解散による一般選挙も同じ) |
| 指定都市以外の市議・市長 | 7日前 | 事由が生じた日から21日以後 |
| 町村議・町村長 | 5日前 | 事由が生じた日から19日以後 |
下限の日数から公示・告示の法定最短を引くと、6つの区分のいずれも14日になる。衆院の総選挙は26日から12日を引いて14日、都道府県知事は31日から17日を引いて14日、町村は19日から5日を引いて14日という具合である。公示・告示を法律上の最短の日に行った場合に、解散や欠員の発生から立候補の届け出開始までに2週間が空く計算になる。改正案は公示・告示の期限そのものには手を触れていないため、選挙運動の期間は変わらない。増えるのは、選挙管理委員会が投票所や名簿を整える期間と、立候補を考える人が書類と供託金をそろえる期間である。
直近3回の総選挙は解散から16〜18日
提出理由が言う「近時における選挙期日の設定の状況」を、衆議院の国会会期一覧と総務省の総選挙結果調で確かめると、解散から投票日までの日数は近年短くなっている。平成21年7月21日の解散による第45回総選挙は同年8月30日の執行で、憲法が定める上限ちょうどの40日だった。これに対し、令和8年1月23日の解散による第51回総選挙は同年2月8日の執行で16日である。
衆議院の解散から総選挙の投票日までの日数(日)
数値で見る(単位: 日)
| 項目 | 日 |
|---|---|
| 第45回 | 40 |
| 第46回 | 30 |
| 第47回 | 23 |
| 第48回 | 24 |
| 第49回 | 17 |
| 第50回 | 18 |
| 第51回 | 16 |
平成24年11月16日解散・12月16日執行の第46回は30日、平成26年11月21日解散・12月14日執行の第47回は23日、平成29年9月28日解散・10月22日執行の第48回は24日、令和3年10月14日解散・10月31日執行の第49回は17日、令和6年10月9日解散・10月27日執行の第50回は18日だった。改正案の下限26日を満たしていたのは第45回と第46回の2回だけで、第47回以降の5回はいずれも下回る。改正案が成立していれば、直近3回と同じ日程は組めなかったことになる。
総選挙の日程は、投票所となる学校や公民館の確保、投票管理者・立会人の手配、入場整理券の印刷と発送、期日前投票所の設営といった実務を市区町村の選挙管理委員会が短期間で進める必要がある。立候補する側も、推薦届や宣誓書、供託金の納付、選挙事務所の確保を公示までに終えなければならない。短い日程は現職に有利だという指摘は以前からあり、18歳未満の選挙運動禁止をめぐる訴訟など選挙制度の見直しに取り組んできた国民民主党は、18歳未満の選挙運動禁止は違憲と東京地裁 国民民主が原告から聴取、法改正の検討へでも制度側の整備を主張してきた。
提出は第221回国会 10月5日に政治改革特委へ付託
議案審議経過情報によると、提出者は古川元久氏ほか3人で、臼木秀剛氏、森ようすけ氏、野村美穂氏が名を連ねる。提出会派は国民民主党・無所属クラブで、賛成者には玉木雄一郎氏、浅野哲氏、田中健氏、西岡秀子氏ら24人が並ぶ。議案提出回次は221で、令和8年2月18日に召集され7月25日まで158日間開かれた第221回特別会に出された法案である。会期中に結論が出ず、第222回国会に引き継がれた。
同じ会派は、衆法34号として新型コロナウイルス感染症対策検証委員会の設置法案も提出しており、こちらは同じ10月5日に議院運営委員会へ付託された(国民民主党のコロナ検証委員会設置法案、議院運営委員会に付託 報告書は6か月目途で1年の時限)。第222回国会は令和8年10月5日に召集され、当初会期は69日間である(臨時国会は10月5日召集 9月29日の持ち回り閣議で決定し召集詔書を公布 衆院の選挙制度改革と比例定数削減が焦点)。付託先の政治改革に関する特別委員会には、衆院の選挙制度をめぐる他の法案も集まっている。
附則は2項だけの短いものだ。第1項は「この法律は、公布の日から施行する」と定め、周知期間を置かずに公布と同時に動き出す。第2項は適用区分で、改正後の規定は施行日以後に選挙を行うべき事由が生じた選挙に適用し、施行日の前日までに事由が生じた選挙については従前の例によるとしている。解散や欠員がすでに発生している選挙の日程を後から動かすことはしない組み立てである。
議員立法は、提出されても委員会で審査されないまま会期末を迎えることが多い。この法案も提出から8か月を経て2つ目の国会に入ったが、衆議院の経過情報では審査終了年月日・審査結果の欄は空欄のままで、採決の見通しは示されていない。
