防衛省の令和8年版防衛白書によると、政府は2026年4月21日、防衛装備移転三原則と、その運用指針を改正した。完成品の海外移転を「救難、輸送、警戒、監視及び掃海」の5類型に限ってきた制限を撤廃し、全ての完成品・部品・技術・修理などの役務が、制度上は原則として移転可能になった。白書は「今回の改正により、今後わが国は、全ての防衛装備の移転が原則可能となります」と記している。
「部品」は2023年に自由化、「完成品」の壁だけが残っていた
防衛装備移転三原則は2014年4月1日に国家安全保障会議決定と閣議決定で定められた。運用指針はそれに従って国家安全保障会議が決める細則で、認め得る案件や審査の手続を書き込んでいる。
白書の解説によると、2023年12月の改正で「部品」は制約なく移転できるようになり、運用指針は2024年3月にも改められた。しかし完成品については、国際共同開発・生産やライセンス生産品に当たらないものは5類型に限られたままだった。改正前の運用指針の条文でも、認め得る完成品は「救難、輸送、警戒、監視及び掃海に係る協力に関する完成品」と書かれている。2022年以降、この見直しに向けた議論は進められたが結論に至らず、残された課題になっていた。
改正後の運用指針は、安全保障・防衛協力の強化に資する移転として、自衛隊法上の武器に該当しない完成品、武器に該当する完成品、部品、修理などの役務の提供、法律に基づく自衛隊の物品・役務提供の5つを並べた。類型による絞り込みは条文から消えている。白書はこの改正を、同盟国・同志国の抑止力と対処力を強化するだけでなく、日本の防衛生産・技術基盤を維持・強化し、有事に必要な継戦能力を支える生産能力を国内で確保するうえでも意義があるものと位置づけた。三原則の本文は、より多くの同志国が日本と共通の装備品を運用すれば、生産・維持整備の基盤を共有し、様々な事態で相互に支援を行うことが可能になると書いている。白書は別の章で、防衛事業は顧客が基本的に防衛省・自衛隊のみであるため生産数が極めて限定的で、投資回収の機会が限られると企業側の事情を説明している。日本の国防費そのものの規模は 日本の国防費は892億ドル、対GDP比1.28% 主要9か国で下から2番目 のとおりで、国内の発注だけで生産基盤を養う構図には限界がある。
武器に当たる完成品は移転協定を結ぶ17か国に限る
歯止めは残っている。自衛隊法上の武器に当たる完成品は、国際共同開発・生産のパートナー国に移す場合と、ライセンス元国の要請に基づいて提供する場合を除き、「わが国から移転された防衛装備を国際連合憲章の目的と原則に適合する方法で使用することを義務付ける国際約束」を結んだ国にしか出せない。この国際約束が防衛装備品・技術移転協定で、締結国は2026年4月現在、米国、英国、オーストラリア、インド、フィリピン、フランス、ドイツ、マレーシア、イタリア、インドネシア、ベトナム、タイ、スウェーデン、シンガポール、アラブ首長国連邦(UAE)、モンゴル、バングラデシュの17か国である。
ここで「武器」という言葉が二重に出てくるので、整理しておきたい。三原則がいう「防衛装備」は武器と武器技術を指し、その「武器」は輸出貿易管理令別表第一の一の項に挙がった貨物のうち、軍隊が使用し直接戦闘の用に供されるものと定義されている。別表第一の一の項には銃砲と銃砲弾、爆発物、火薬類と軍用燃料、指向性エネルギー兵器、軍用車両、軍用船舶、軍用航空機、装甲板や防弾衣、軍用人工衛星などが並ぶ。一方、移転先を17か国に絞る条件に使われる「自衛隊法上の武器」は、白書の注記によれば、火器・火薬類・刀剣類その他直接人を殺傷し、または武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする機械、器具、装置などをいい、本来的に火器などを搭載して行動する護衛艦・戦闘機・戦車のようなものを含み、部品は除く。つまり護衛艦や戦闘機のような完成品を共同開発やライセンス生産の枠外で出す場合、相手は協定締結国に限られる。
さらに、自衛隊法上の武器に当たる完成品は、武力紛争の一環として現に戦闘が行われていると判断される国への移転を原則として認めず、安全保障上の必要性を考慮して特段の事情がある場合に限って認め得る、とした。次期戦闘機を英国・イタリアと共同開発するグローバル戦闘航空プログラムの完成品については、戦闘が行われていると判断される国への移転を認めないと定め、例外を置かなかった。
「類型に当てはめることが困難になっていた」
白書の解説は、5類型を残した場合の不都合を2つ挙げた。1つは、類型に該当するか否かの判断が難しく、相手国のニーズに適時適切に応えられないこと。もう1つは、人工知能(AI)やサイバー、宇宙といった新しい領域と通常兵器が混ざり、極めて短いサイクルで装備品や戦い方が変わるなかで、装備品を「類型」に当てはめることがこれまで以上に困難になっていることである。同志国から性能の高い日本の装備品に期待が寄せられているのに移転できない状態では「いざという時に共に助け合うことができません」とも書いた。
改正の直接の契機として、白書は2025年10月の自民党・日本維新の会の連立政権合意書と、2026年3月の与党提言を挙げている。改正には欧米や東南アジアなどの国から歓迎や期待の意が表明されたとも記した。
透明性の確保も改正で手当てされた。自衛隊法上の武器(弾薬を含む)に当たる完成品は、国家安全保障会議が移転を認め得ると判断したうえでその旨を公表したとき、速やかに国会へ通知する。審査項目には、仕向国・地域の安全保障環境と輸出管理体制、日本の防衛力整備や自衛隊の運用に与える影響を含む安全保障環境への影響が明記された。
実例としては、2023年にペトリオット・ミサイルの米国への移転について、国家安全保障会議が海外移転を認め得る案件に該当することを確認している。白書は、米軍と世界規模での需要が予想を超える水準にあるなか、米国の要請に応えて在庫をできるだけ早く補完し態勢を支える「これまでに例のない取組」だと説明した。改正後の制度で次にどの装備品が動くかは、国家安全保障会議の公表と国会への通知で明らかになる。
