高市首相は10月5日、第222回国会の所信表明演説で、飲食料品の消費税率を2年間1%に下げる「消費税・支援金法案」の財源について「市場の信認を得られるよう、特例公債に頼らずに確保することとしており、御心配には及びません」と述べた。この「特例公債」は、いわゆる赤字国債のことで、国が毎年度いちばん多く出している国債である。財政法は原則としてこれを禁じており、発行するには別に法律が要る。

財政法は「借金以外で賄え」が原則

財政法第4条第1項は「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない」と定めている。税金や保険料などで賄えというのが原則である。

そのうえで同項の但し書きが「公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」としている。道路や港湾のように、出来上がったものが後の世代にも残る支出に限って借金を認める、という考え方である。この但し書きで発行する公債が建設国債(4条公債)で、発行するときは償還の計画を国会に提出しなければならない(同条第2項)。

逆にいえば、社会保障費や人件費のような、形の残らない支出に充てる公債は、財政法だけでは出せない。それを出すために毎回つくられてきたのが特例法であり、そこで発行される公債だから「特例公債」と呼ぶ。

現行の特例法は2030年度まで、毎年度の予算で枠が決まる

いま効力を持っているのは「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律」(平成24年法律第101号)である。第3条第1項は、財政法第4条第1項但し書きの建設国債とは別に、2026年度から2030年度までの各年度の一般会計の歳出の財源に充てるため、その年度の予算で国会の議決を経た金額の範囲内で公債を発行できると定めている。

つまり特例公債は、法律があれば自動的に出せるわけではなく、毎年度の予算で発行額の上限が決まる仕組みになっている。法律の期限も5年で区切られており、現行法の対象は2030年度までである。

同法第4条は、政府が発行額の抑制に努めるものとすると定める。さらに第5条第2項は、政府が租税特別措置と補助金等の適正化について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとすると書いている。首相が演説で強化を掲げた、租税特別措置や補助金の見直しを担う内閣官房の新部局、いわゆる「日本版DOGE」が扱うのは、この条文が求めている作業と同じ領域である。

2026年度は補正で3兆1135億円増え、25兆9815億円に

財務省が6月3日に公表した令和8年度国債発行予定額(補正後)によると、2026年度の新規国債の発行予定額は、当初予算の29兆5840億円から補正後は32兆6975億円となり、3兆1135億円増えた。

その内訳を見ると、建設国債は6兆7160億円で当初から動いていない。増えた3兆1135億円はすべて特例国債であり、特例国債の発行予定額は22兆8680億円から25兆9815億円になった。新規国債のおよそ8割が特例国債という構成である。

このほか、発行の根拠となる法律ごとの区分として、復興債66億円、GX経済移行債1兆484億円、子ども特例債5072億円、半導体・AI債7872億円が別建てで計上されている。なお、国債発行計画で金額がいちばん大きいのは新規国債ではなく、過去に発行した国債を返すために出す借換債の135兆7586億円である。財政投融資の原資となる財投債は13兆円で、こちらは一般会計の歳出に充てる借金ではない。

経済安全保障の分野では、償還財源の裏づけがある国債を別に使う考え方も出ている。経済安保の投資を特別会計で別枠管理へ 償還財源の裏付けのある「つなぎ国債」で前倒し調達 高市首相「来年度予算から実行」 成長戦略実行計画は年末で伝えたとおり、政府は特別会計での別枠管理を検討している。

減税の財源は「予算編成過程で結論」のまま

首相が「御心配には及びません」と述べた減税の財源そのものは、まだ中身が決まっていない。9月15日に閣議決定された「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」は、2027年度と2028年度の減税と給付の国負担分について「特例公債に頼らず、補助金等及び租税特別措置の適正化、追加的な租税収入以外の収入の確保その他の歳出及び歳入全般の見直しにより財源を確保する」としたうえで、「令和9年度の予算編成過程において行う予算編成改革の具体化の状況を踏まえて結論を得る」と書いている。詳しくは食料品の消費税1%、大綱を閣議決定 2027年4月から2年間 支援金の額は決定後も「検討し定める」のままで伝えた。

年末の2027年度予算編成で、租税特別措置や補助金をどれだけ削り、税収以外の収入をどれだけ積むのかが示されたとき、「特例公債に頼らない」という約束が実際に守られたかどうかが分かることになる。