国民民主党の玉木雄一郎代表は10月27日の定例記者会見で、GMOインターネットグループへのサイバー攻撃などを挙げ、10月に施行された能動的サイバー防御(アクティブ・サイバー・ディフェンス)の制度について「すでに陳腐化しているという可能性もある」と述べた。攻撃側のAI(人工知能)には安全のための制限(ガードレール)が無く、防御側との間に能力の差が生じるとして、「アクティブサイバーディフェンス2.0といったような制度や法改正の必要性を提案申し上げたい」と語った。党が公表した会見の冒頭発言の概要による。
「順次戦時体制に入っている」
玉木氏はGMOへのサイバー攻撃について、「これに限らず個人情報が流出したり、様々な事業に影響が出ております」とした上で、「私としてはもう順次戦時体制に入ってるんじゃないかなという意味で、緊張感をより高めていかなければならない」と述べた。2022年2月にロシアがウクライナに侵攻する前にも、民間へのサイバー攻撃やインフラの不備が指摘されていたと例に挙げ、いま起きていることは、AIの技術が上がって安全上の欠陥(セキュリティーホール)が見つかりやすくなったというだけでなく、「安全保障の観点からも非常に問題のある事象が生じているという認識が必要だ」と語った。
GMOへの不正アクセスの経緯と補償の中身は、既報のGMO不正アクセス、犯人が顧客情報を公開 特別見舞金は上限300万円、懸賞金100万ドルにまとめている。
政府が前日の26日に関係閣僚会議を開き、来週にも対策をまとめるとしたことについては「一歩前進したのはいい」と評価した。そのうえで、党の問題意識として、能動的サイバー防御の法律そのものが、AIが攻撃と防御の双方を担う事態を前提にしていないのではないかと提起した。
「攻撃もAI、防御もAI」
玉木氏は、国民民主党が政府に先駆けて能動的サイバー防御の法案を出したことに触れ、「当時正直私自身も、今言われているようなフロンティアAIの存在を全く意識せずに、アクティブサイバーディフェンスの法案をつくりました」と述べた。フロンティアAIは、最先端の高性能なAIモデルを指す。
防御のために相手のシステムに入り込み、攻撃を無害化する措置は必要だとしたうえで、いまの攻防は人がキーボードを打ち合う水準ではなく、「攻撃もAIですが防御もAIです」と指摘した。そのうえで、「非常に高速かつ高度な攻撃と防御が繰り広げられるという前提の能動的サイバー防御になっていないのではないか」と問題を投げかけた。
玉木氏が「法律改正場合によっては速やかにやる必要がある」と強調したのが、ガードレールの扱いだ。玉木氏は、爆弾の作り方や、メガバンクのシステムに侵入するプログラムのコードをAIに尋ねても答えが返ってこない例を挙げ、「それは出荷時にそういうガードレールが入っているからです」と説明し、「攻撃側のAIにはガードレールがないので、その攻撃側と防御側の能力の非対称性が今のままだとどうしても生じてしまいます」と述べた。
この差を埋める方策として玉木氏が挙げたのは、防御に使うAIについて、一定の条件の下でルールを決めたうえでガードレールを外すことだ。とくに米国のフロンティアAI企業と連携し、制限を外した能力を日本の国や企業が使えるようにする「条件と環境を定める法体系が必要ではないか」と述べた。
一方で、制限をむやみに外せば「それ自体が新たな犯罪を生み出す元になります」とも指摘した。中国製のオープンウェイト(重みを公開した)AIでも同様のことはできるが、仮に使えるとしても中国製を使ってよいのかという問題があるとして、防御、安全保障、AI開発の分野を統合した戦略とルール作りが必要だとした。
会見の冒頭発言の概要には、「2.0」の法案や制度案の条文、提出の時期は示されていない。どの条件で、誰が、どの範囲で制限を外したAIを使えるのかは、今後の党の提案を待つことになる。
2024年に議員立法、政府案には賛成
国民民主党は能動的サイバー防御を早くから掲げてきた。党の発表によると、2024年4月24日に議員立法「サイバー安全保障法案」を参議院に提出した。提出後、玉木氏は「政府のサイバー安全保障に関する動きは遅すぎる」と述べ、一元的な司令塔機能を設けることや、憲法21条の通信の秘密などを守る規定を盛り込んだと説明していた。衆議院の議案情報によると、同じ趣旨の法案は第216回国会で衆議院にも出され(提出者は田中健氏ほか1人)、2025年1月24日に内閣委員会に付託されたが、審査未了に終わった。
政府はその後、「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律」(サイバー対処能力強化法)と、その施行に伴う関係法律の整備法を国会に出した。国民民主党の田中健氏は2025年4月8日の衆議院本会議で、両法案に賛成する討論をし、党の法案と「方向性と基本理念において、我々の主張と一致しており」と述べた。内閣官房によると、2法は2025年5月16日に成立し、同23日に公布された。e-Gov法令検索に載る強化法の現行の条文は、2026年10月1日施行のものとなっている。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2024年4月24日 | 国民民主党が「サイバー安全保障法案」を参議院に提出 |
| 2025年1月24日 | 同趣旨の党の法案(第216回国会衆法18号)が衆院内閣委に付託。のち審査未了 |
| 2025年4月8日 | 衆院本会議で国民民主党が政府の2法案に賛成討論 |
| 2025年5月16日 | サイバー対処能力強化法と整備法が成立(23日公布) |
| 2026年10月1日 | 強化法の現行条文が施行 |
| 2026年10月26日 | 政府がサイバーセキュリティに関する関係閣僚会議を初開催 |
| 2026年10月27日 | 玉木代表が「アクティブサイバーディフェンス2.0」を提起 |
10月から自衛隊が攻撃元のコンピューターに入り込んで無害化できるようになった仕組みは、自衛隊、10月1日からサイバー攻撃元のコンピューターを無害化できる 命じるのは首相で閣議決定が必要、国会の承認は不要 自衛隊法に81条の3を新設で解説している。
政府もAIを使った点検を前倒し
政府の側も、AIを防御に使う方向を打ち出している。首相官邸の発表によると、高市首相は10月26日の第1回関係閣僚会議で、実態を解明したサイバー攻撃に対しては「『アクセス・無害化措置』も含め、あらゆる『対処オプション』を戦略的に選択し、実行いたします」と述べた。
あわせて赤沢経済産業相に、情報処理推進機構(IPA)の人材を活用し、「高性能AIも活用しながら、システムの脆弱性を見つけるトップガン人材が『模擬的な攻撃テスト』を行う」取り組みを前倒しで実施するよう指示した。各閣僚には、AIセーフティ・インスティテュート(AISI)の知見も使い、「高性能AIを用いた脆弱性チェック」を各府省庁のシステムで前倒しするよう求めた。そのうえで「来週中を目途に、政府としての『緊急対策パッケージ』を取りまとめます」と表明し、財政措置を含めた検討を指示した(サイバー対策の関係閣僚会議が初会合 首相、来週中に「緊急対策パッケージ」)。
政府の指示は、AIを使って自らのシステムの弱点を探す点検が中心で、玉木氏が求めた「防御側のAIの制限を外すための法体系」には触れていない。官邸の発表一覧では、10月31日時点で緊急対策パッケージの取りまとめはまだ公表されていない。
冒頭では福田元首相への弔意も
玉木氏は会見の冒頭で、亡くなった福田康夫元首相に弔意を示した。消費者庁の設置や日中関係の増進に尽力したと述べ、とくに公文書管理への取り組みを挙げて「現在の公文書管理についての大きな道筋をつけられた方」と評価した。
ロシアで拘束された北海道新聞の記者については、領事面会が実現したことを「良かった」としつつ、「まだどういう状況にあるかわかりません」と述べ、速やかな解放を求めていく考えを示した。外交当局にも、解放に向けた努力をさらに進めるよう求めた。
