消費者庁は10月1日、公益通報者保護法で通報の対象となる法律の一覧表を更新し、対象が510本になったと公表した。6月1日現在の509本から1本増えた。加わったのは、同じ10月1日に施行された「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律」(令和7年法律第42号)で、いわゆる能動的サイバー防御の中核となる法律である。消費者庁は同じ10月1日、対象をさらに2本増やす政令改正案の意見募集も始めた。
勤め先の不正を通報した人が守られるかどうかは、「どの法律の違反か」で決まる。その線引きの一覧が、半年から数か月ごとに静かに書き換えられている。
公益通報とは 刑事罰か過料の対象になる不正が条件
消費者庁の資料によると、公益通報とは、労働者・退職者・役員などが、不正の目的でなく、勤務先の不正行為を通報することをいう。通報した人は、解雇が無効になり、降格・減給その他の不利益な取扱いを禁じられ、事業者からの損害賠償請求も制限される。通報先は、勤務先そのもの(内部通報)、行政機関、報道機関等の3種類があり、外部に行くほど保護の条件が厳しくなる仕組みだ。
ただし、勤め先の不正なら何でも保護されるわけではない。対象は「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令」に定められた行為のうち、刑事罰または過料の対象となるものに限られる。消費者庁は、直接に刑事罰や過料が科される行為と、最終的にそれが科されることにつながる行為の2種類があると説明している。
その「対象となる法律」を決めているのが、今回更新された一覧表の背後にある政令だ。公益通報者保護法の別表は、第八号で政令に委任しており、その政令が「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令」(平成17年政令第146号)である。ここに法律が足されるたびに、消費者庁は五十音順の一覧表を差し替えている。
2年で9本増えた 加わったのは能動的サイバー防御の中核法
一覧表に載る本数は、この2年で次のように増えてきた。令和6年10月23日現在が501本、令和7年4月1日現在が505本、令和7年12月18日現在が506本、2026年4月1日現在が507本、5月25日現在が508本、6月1日現在が509本、そして10月1日現在が510本である。2年で9本増えた計算になる。
消費者庁が作成した法律の概要資料は、対象法令を「約500本」と丸めて説明している。実際の本数は、新しい法律ができるたびに1本ずつ積み上がっている。
今回加わった重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律は、6月1日現在の一覧表には載っていなかった。同法が10月1日に施行されたためである。施行期日は、政府が3月17日の閣議で決めた「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律の施行期日を定める政令」(令和8年政令第46号)で、「令和八年十月一日とする」と定められていた。経済安全保障推進法でいう「特別社会基盤事業者」に、サイバー攻撃などの「特定侵害事象」が起きた際の国への報告と、重要なコンピューターを導入した際の届出を義務づける法律である。
ただし、同法はすべてが10月1日に動き出したわけではない。法の附則第一条は規定ごとに施行日を分けており、通信情報の取得や、攻撃元への「アクセス・無害化措置」を定めた第三章から第七章までは、公布の日から2年6か月を超えない範囲内で別に政令で定める日から施行するとされている。同法のうち官民連携の部分が先に動き、監視や無害化の部分は後から始まる設計である。
報告の実務面も同じ日に動いている。同法に基づく特別社会基盤事業者の報告命令について、内閣府など8府省は10月1日、特定重要電子計算機の変更の届出に添える書類の特例を見直す命令改正案の意見募集を始めている。
追加案はこども性暴力防止法と民事裁判情報活用促進法
10月1日に始まった政令改正案の意見募集は2件あり、どちらも別表第八号の政令に法律を1本ずつ足す内容だ。消費者庁は改正の趣旨を「国会における立法動向等を踏まえ」たものと説明している。
1件目は、学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律(令和6年法律第69号)の追加である。こども性暴力防止法と呼ばれる法律で、施行期日は同法が施行される2026年12月25日とされている。制度の中身はこども性暴力防止法、12月25日に施行 性犯罪歴は最長20年さかのぼって確認 学校は義務、学習塾やスポーツクラブは任意の認定制で詳しく扱っている。学校や保育の現場で違反を見つけた職員が通報した場合に、公益通報者保護法の保護が及ぶことになる。
2件目は、民事裁判情報の活用の促進に関する法律(令和7年法律第49号)の追加である。施行期日は同法の施行の日とされ、案には具体的な日付が書かれていない。意見の締切はいずれも10月30日で、1件目が同日23時59分まで、2件目も同じ時刻までとなっている。
12月1日には改正法が施行 通報を理由とする解雇に刑事罰
公益通報者保護法そのものも、2か月後に大きく変わる。公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)が、2026年12月1日に施行される。消費者庁によると、この法律は令和7年3月4日に国会へ提出され、4月24日に衆議院で修正議決、6月4日に参議院で可決・成立し、6月11日に公布された。
改正の柱は4つある。通報を理由として解雇や懲戒をした者には、個人に6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人に3000万円以下の罰金という刑事罰が新設される。通報から1年以内の解雇・懲戒は、通報を理由とするものと推定され、違う理由だと示す責任は事業者側に移る。保護される人の範囲には、業務委託関係にあるフリーランスと、委託が終わって1年以内のフリーランスが加わる。さらに、通報しない旨の合意を求めるなどして通報を妨げる行為と、通報者を特定しようとする行為が禁じられ、前者に違反した合意は無効になる。
常時使用する労働者が300人を超える事業者への監督も強まる。窓口業務を担う「従事者」の指定を怠った事業者に対し、消費者庁は勧告に従わない場合の命令を出せるようになり、命令違反には30万円以下の罰金が科される。立入検査の権限も新設され、検査拒否や虚偽報告にも罰金が設けられる。対象法律が510本に増える一方で、通報した人を守る側の仕組みも、同じ年末に一段強くなる。
