内閣官房の国家サイバー統括室は10月30日、不正アクセスによる情報漏えいが相次いでいることを受け、関係省庁・機関の相談窓口や注意喚起を1ページにまとめた「サイバー対応特設サイト」を開設した。相談窓口6件と、10月以降に出された主な注意喚起11件を載せ、それぞれに「個人の方向け」「事業者向け」といった対象を書き添えた。サイバー安全保障を担当する古川俊治デジタル相は同日の記者会見で、10月26日の関係閣僚会議で首相が指示した「対象を明確にした情報発信」を強める措置だと説明した。
閣僚会議の首相指示を受けた措置
特設サイトは冒頭で、不正アクセスによる情報漏えいなどの被害が「幅広い分野の事業者・団体等において相次いで発生しています」と記し、関係機関の相談窓口や発表、主な注意喚起を「まとめて掲載しています」と目的を示している。ページは随時更新するとしている。
古川氏は30日の会見の冒頭で、サイトを「本日、立ち上げました」と報告した。国家サイバー統括室のトップページから速やかにたどれるようにし、トップページには「赤いバナーが付いている」と述べた。
背景にあるのは10月26日に首相官邸で開かれた第1回のサイバーセキュリティに関する関係閣僚会議だ。高市早苗首相は会議で、国家サイバー統括室が集めた情報を分析し、「経営層、専門家、国民の皆様向けなど、『対象を明確にした情報発信』を強化して下さい」と指示した。被害企業への支援では、情報処理推進機構(IPA)と警察の相談対応を充実させ、「どこに相談しても必要なサポートを得られる体制」を整えるよう求めた。会議の経緯は「サイバー対策の関係閣僚会議が初会合 首相、来週中に「緊急対策パッケージ」」で伝えている。
会見では、この時期に開設した理由を問われた古川氏が、閣僚会議に加えて29日の経済財政諮問会議でも首相から同様の指示があったと明かした。そのうえで「そちらのサイトで出されている情報は公的なものであると分かります」と述べ、情報の出どころを確かめる入り口として使うよう呼びかけた。
相談窓口は6件、対象を書き分け
相談窓口の欄には6件が並ぶ。個人向けの入り口は首相官邸が同じ30日に設けた「個人情報流出の被害に遭われた方・ご心配のある方」のページで、運転免許証の再交付、クレジットカード情報の流出、ネット上に流出した個人情報の削除といった相談先をまとめている。官邸のページが挙げる窓口と電話番号は「個人情報流出の相談先、官邸が8窓口を一覧に まず188、犯罪の心配は#9110」で詳しく紹介した。
| 窓口 | 運営 | 特設サイトが示す対象 |
|---|---|---|
| 個人情報流出の相談窓口の一覧 | 首相官邸 | 個人 |
| サイバー事案に関する相談窓口 | 警察庁 | 事業者・個人 |
| サイバーセキュリティ特別相談窓口 | 経済産業省 | 事業者 |
| 不正アクセス特別相談窓口 | IPA | 事業者 |
| サイバーセキュリティ相談窓口 | IPA | 事業者 |
| 情報セキュリティ安心相談窓口 | IPA | 個人 |
出典: 内閣官房国家サイバー統括室「サイバー対応特設サイト」
警察庁の窓口は、個人と事業者を問わずサイバー事案の通報・相談・情報提供を受け付ける全国統一のオンライン窓口で、デジタル庁が運営するe-Gov電子申請からも届け出られる。
経済産業省の窓口は、中小企業・小規模事業者向けに10月27日付で設けられた。各都道府県の「よろず支援拠点」と中小企業基盤整備機構の「IT経営サポートセンター」で無料で相談を受ける。中小企業庁は、商工団体や金融機関、税理士などを通じて事業者へ情報を届ける「プッシュ型」の周知も進めるとしている。設置の詳細は「経産省、中小企業向けサイバー特別相談窓口を設置 全国のよろず支援拠点などで無料」で伝えた。
IPAは対象別に3つの窓口を持つ。このうち10月16日に公開した「不正アクセス対策特設サイト」に載る「不正アクセス特別相談窓口」は、被害を受けているか、その可能性がある全国の企業・組織が対象だ。電話(03-6759-5760)は平日の9時30分から17時30分まで(正午から午後1時を除く)受け付け、メールも使える。起きている事象を聞き取って被害の可能性を助言し、被害が出ている場合は応急処置の案を示すほか、インシデント対応を請け負う専門業者の一覧も紹介する。
事業者向けの注意喚起は10月9日に一斉
「関係機関からの発表及び注意喚起」の欄は、事業者向け9件と個人向け2件に分けて載せている(警察庁の「サイバー警察局だより」は両方に掲載)。事業者向けのうち6件は10月9日の日付で、国家サイバー統括室、金融庁、総務省、経産省、IPA、JPCERTコーディネーションセンターがそろって出した。
国家サイバー統括室の文書は、ウェブシステムの脆弱性の悪用、サプライチェーンを通じた侵害、「堅牢さを欠くデータ管理」によって、大量の個人情報を扱う事業者のシステムに侵入され、データを盗まれる事案を複数確認したと記した。対策は大きく3つに分けている。
1つ目はウェブシステムの管理で、セキュリティパッチの速やかな適用、サポートが終わった製品を使わないこと、多要素認証の導入、退職者や異動者のアカウントの無効化、ログの取得・保管を挙げた。2つ目は委託先を含むサプライチェーンの対策で、攻撃者は「比較的防御が弱い委託先企業等を足掛かりとして侵入」すると指摘し、契約に漏えい時の報告義務を書き込むことや、業務が終わった後に委託先のデータを削除させることを求めた。3つ目は保有データの管理で、利用目的を終えた情報を速やかに削除するなど、持つ情報そのものを減らすよう促した。
IPAの同日の文書は、現段階では特定の製品やサービスの脆弱性を狙った攻撃とは断定できないとしたうえで、公表された事例の傾向から、外部に公開しているアプリケーションやサービスの侵害、アカウントの侵害が起点になっているとみる。そのため、自社が独自に作って公開しているアプリの精査、使っている外部サービスの洗い出し、保有データの再点検を「速やかに行うべき点検」に挙げた。
このほか、情報通信研究機構(NICT)は10月13日、一般に公開されているAndroidアプリを攻撃者が解析し、得た情報をもとに接続先のサーバーを狙う手口を相次ぐ漏えいの原因の一つと特定したと発表し、「A2B攻撃」と名付けた。個人情報保護委員会は10月7日、大規模な漏えい事案を踏まえた注意喚起を出している。
個人に求められる二次被害の対策
個人向けの欄には、消費者庁が10月29日に出した注意喚起が載る。流出した情報の悪用を防ぐため、ログインIDを変え、英字の大文字・小文字と数字、記号を混ぜたパスワードに改めて使い回しを避けることを挙げた。スマートフォン認証やワンタイムパスワードといった多要素認証、指紋や顔で本人確認する「パスキー」の活用、クレジットカードやネットバンキングの利用明細をこまめに確かめることも求めている。
事業者や公的機関を名乗るメールやSMSは、フィッシングを疑い、記載のURLを開かずに、ブックマークした正規のサイトやアプリから確かめるよう呼びかけた。不安があれば消費者ホットライン「188」に相談するよう案内している。
古川氏も会見で、個人に向けて「IDやパスワードの使い回しを避けて」ほしいと述べた。IDにメールアドレスを使う人が多いことから、流出したおそれがある状況では不審なメールを開かずに削除し、使っているアプリが最新の版になっているかを確かめるよう求めた。
SNSで続報、緊急対策パッケージは今週中めど
特設サイトは、新しい注意喚起を受け取る手段として、関係機関の公式Xアカウント5つも紹介している。国家サイバー統括室の注意・警戒情報、IPAの2つのアカウント(うち1つは新着の脆弱性対策情報)、警察庁の広報、JPCERTコーディネーションセンターの注意喚起で、「是非フォローしてください」と書いている。
首相は26日の閣僚会議で、政府としての「緊急対策パッケージ」を「来週中を目途に」取りまとめると表明し、各大臣に財政措置を含めた検討を急ぐよう指示した。今週がその期限にあたる。会議では相談体制の拡充のほか、IPAの人材が模擬的な攻撃テストでシステムの脆弱性を探す取り組みや、中小企業向けの「サイバーセキュリティお助け隊」の拡充の検討も求めている。
古川氏は会見で、事業者は業種によって注意点が違い、基幹インフラ事業者、重要インフラ事業者、その他の事業者でも異なるとして、それぞれの注意喚起を確かめるよう求めた。特設サイトは窓口と注意喚起の所在をまとめたもので、対策の中身は各機関の文書に書かれている。サイトの区分に従えば、不正アクセスの被害を受けたか、その疑いがある事業者の相談先はIPAの特別相談窓口と警察庁の窓口で、中小企業・小規模事業者は経産省の特別相談窓口も使える。
