総務省は9月1日、令和8年度の特定地域づくり事業推進交付金の交付を決定した。対象は岩手県遠野市の遠野特定地域づくり事業協同組合に191万4000円、鹿児島県徳之島町の徳之島町くらしごとサポート協同組合に171万6000円で、合計363万円。
金額としては小さいが、その裏には「一つの仕事では食べていけない地域で、どう人を雇うか」という問いに対する、法律でつくられた答えがある。
一つの組合が無期雇用し、季節ごとに別の職場へ派遣する
人口が急激に減っている地域では、一つひとつの事業所が年間を通じて人を雇えるほどの仕事量を持たないことが多い。農業は農繁期に人手が要り、宿は観光シーズンに忙しく、水産加工は水揚げの時期に集中する。それぞれが「数か月だけ来てほしい」と求めても、働く側から見れば1年分の生活は成り立たない。
この仕組みは、そこを組み替える。地域の事業者がつくる事業協同組合が働き手を雇い主となって採用し、組合員である各事業所へ時期をずらして派遣する。働く人から見れば雇い主は組合ひとつで、給与も雇用も年間を通じて続く。派遣先が農業から宿泊業、介護へと季節ごとに移っていく形になるため、「マルチワーカー」とも呼ばれる。
根拠は2019年12月に公布された「地域人口の急減に対処するための特定地域づくり事業の推進に関する法律」(令和元年法律第64号)だ。第1条は目的を、地域社会と地域経済の重要な担い手である「地域づくり人材が安心して活躍できる環境の整備を図ることが喫緊の課題である」ことに鑑み、その確保と活躍の推進を図ることだと定めている。
要になるのが第18条の特例である。労働者派遣事業は本来、労働者派遣法第5条第1項により厚生労働大臣の許可が必要だが、都道府県知事の認定を受けた組合は、届出だけで派遣事業を行える。ただし無制限ではなく、派遣できるのは「期間を定めないで雇用する職員」に限られる。制度の目的が安定した通年雇用をつくることにあるため、有期雇用の職員を派遣することは認められていない。
認定の要件も法律に並ぶ。第3条第3項は、対象地区が自然的・経済的・社会的条件から見て一体であること、人口規模や人口密度、事業所数などに照らして特に支援が必要と認められること、事業計画が職員の就業条件に十分配慮していること、組合と関係事業者団体、市町村の間に十分な連携協力体制が確保されていることなどを挙げている。知事は認定にあたって、あらかじめ地元市町村長の意見を聴かなければならない(同条第5項)。
認定は146組合・149市町村 島根16、鹿児島12
総務省が公表している認定一覧によると、2026年7月1日時点の認定は146組合、149市町村に及ぶ。
都道府県別では島根が16で最も多い。次いで鹿児島12、北海道9、福島9、熊本7、宮崎7、新潟6、高知6、長崎6と続く。中国・九州の中山間地と離島、それに北海道と東北が中心という分布だ。
認定年ごとに見ると、制度が動き出した令和2年(2020年)が2組合、令和3年26組合、令和4年35組合、令和5年26組合、令和6年15組合、令和7年28組合、令和8年は7月1日までに14組合が認定を受けている。
一覧には各組合の「主な派遣先業種」も載る。農業が多くの組合に共通し、そこへ宿泊業、飲食店、食料品製造業、社会保険・社会福祉・介護事業、林業、水産養殖業、総合工事業などが組み合わさる。たとえば北海道初山別村の初山別事業協同組合は農業、水産養殖業、総合工事業、設備工事業、自動車整備業、木材・木製品製造業、廃棄物処理業、宿泊業、社会保険・社会福祉・介護事業を挙げている。一人の職員が移り歩く先の幅の広さが、そのまま並んでいる。
なお、今回交付が決まった遠野市と徳之島町の2組合は、この7月1日時点の一覧には載っていない。
交付金は人件費1人112万5000円が上限
交付金の仕組みは、国が組合へ直接配るものではない。市町村などが組合に補助金を出す場合に、国がその一部を負担する形をとる。
総務省の交付要綱は、交付額の算定方法を次のように定めている。まず種目ごとに、対象経費の実支出額の4分の1と交付限度額を比べ、少ないほうの額を合計して「基準額」とする。そのうえで、市町村などが出した補助金の額の2分の1が基準額に届かない場合は、補助金の2分の1を上限に交付する。
交付限度額は種目ごとに決まっている。派遣職員の人件費は1人あたり112万5000円。ただし出産休暇や育児休暇、介護休暇、傷病休暇などで稼働率が0.8を下回った職員については、1人あたり140万7000円に稼働率を掛けた額とする。組合の事務局運営費は1組合あたり167万5000円で、旅費や消耗品費、通信運搬費、光熱水料のほか、事務局職員の人件費や研修費、広告宣伝費なども対象経費に含まれる。
法律も財政面の裏づけを置いている。第16条は「国及び地方公共団体は、特定地域づくり事業協同組合の安定的な運営を確保するため、必要な財政上の措置その他の措置を講ずるものとする」と定める。第17条では、一般職の地方公務員が本務に支障がないと任命権者が認める場合に、給与を受けて、または受けずに特定地域づくり事業に従事できるとしており、役場の職員が組合の運営を手伝う道も開かれている。
一方で、監督の規定も置かれている。組合は毎事業年度、事業計画と収支予算を知事に提出し、年度終了後には事業報告書と収支決算書を出さなければならない(第11条)。知事は報告徴収や立入検査ができ(第12条)、認定基準に適合しなくなった組合には適合命令や改善命令を出せる(第13条)。派遣という働かせ方を届出で認める代わりに、就業条件が守られているかを知事が見続ける建て付けになっている。
