経済産業省は11月2日、中部電力に予定している電気事業法に基づく業務改善命令について、電力・ガス取引監視等委員会(電取委)に意見を求めたと発表した。浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)3号機・4号機の原子力規制委員会の審査で、耐震設計の前提となる揺れ(基準地震動)を不適切な方法で策定していた事案をめぐる処分である。経産省は10月30日に中部電力へ弁明の機会を与えていたが、中部電力は同日中に「弁明を行わない」と申し出た。弁明書の提出期限としていた11月12日を待たずに、手続きは命令の直前の段階に進んだ。

弁明の期限を待たず、週明けに次の手続きへ

経産省の発表によると、手続きは次のように進んだ。10月29日、中部電力から電気事業法第106条第3項に基づく報告を受け取り、内容を検証して業務改善命令を出す必要があると判断した。翌30日、行政手続法第13条第1項第2号に基づいて弁明の機会を与え、弁明がある場合は11月12日までに弁明書を出すよう書面で通知した。中部電力はその日のうちに、弁明を行わない旨を申し出た。

行政手続法は、行政が相手に不利益な処分をする前に、相手の言い分を聞く手続きを義務づけている。許認可の取り消しなど重い処分では「聴聞」を開き、それ以外の処分では弁明書などで言い分を受け付ける「弁明の機会の付与」を行う。今回の業務改善命令は後者にあたる。名あて人が弁明しないと申し出たことで、期限まで待つ理由はなくなった。

経産省は週明けの11月2日、委員会に意見を求めた。電気事業法第66条の11第1項第3号は、経産相が第27条第1項(発電事業者には第27条の29で準用)に基づいて業務改善命令を出すときは、あらかじめ委員会の意見を聴かなければならないと定めている。電取委は経産相の意見聴取に答える役割を持ち、委員会のサイトには、小売電気事業者の登録やガス導管の供給区域の変更などについて経産相に意見を回答した記録が並ぶ。

11月3日朝の時点で、委員会のサイトに本件の回答は載っていない(最新の掲載は11月2日の一般ガス導管事業の供給区域変更の件)。中部電力のプレスリリース一覧にも、弁明をしないと判断した理由を説明する発表は出ていない。同社の最新の発表は、10月29日の報告徴収への報告と特別損失の計上などである。

命令の中身は10月30日の予告と同じ、次は委員会の回答

11月2日の発表に記された「予定している命令」は、10月30日に弁明の機会を与えた時点の内容と同じである(予告の詳細と調査委員会の認定は経産省、中部電力に業務改善命令へ 浜岡原発の地震動評価の不正で弁明の機会 期限は11月12日)。弁明が無かったため、内容は変わらずに委員会の審査にかけられた。

処分の内容は3つからなる。1つ目は再発防止策を作り、実施方法と時期を明確にして実行することで、役職員の責任の所在の明確化、法令順守体制の抜本的な強化、原子力部門など専門性の高い部門の閉鎖性の排除、牽制(けんせい)機能と内部通報への対応の抜本的な強化、新たな経営管理体制の構築などを含める。2つ目は、その実効性を外部人材も使って客観的に検証する体制を作り、不十分なら追加の改善策を講じること。今後の原子力規制委員会からの指導や指示を踏まえた追加策も求める。3つ目は、具体策の実施方法と時期を盛り込んだ業務改善計画を提出し、決定と実行の状況を経産省に報告し続けることである。

処分の理由として経産省は、浜岡3号機・4号機の審査での基準地震動の策定に関する不適切な行為、牽制機能の弱さと内部通報制度の機能不全、業務運営体制の不備、ガバナンス機能の不全の4点を挙げた。さらに、使用済燃料の再処理と廃炉の推進に関する法律に基づいて求めた報告などを検証した結果、同社のほかの不適切事案に共通する問題も一部で認められたとした。経産省は「安全を最優先すべき原子力事業において、不適切な事案が発生したことは、地域をはじめとする社会の信頼を損なうものである」と指摘している。

今後は、委員会が経産相に意見を回答し、それを受けて経産省が命令を出す順になる。命令が出れば、中部電力は再発防止策と外部の検証体制を盛り込んだ業務改善計画を経産省に出し、実行の状況を報告し続けることになる。

予定の命令は、再発防止策の柱の1つに「役職員の責任の所在の明確化」を置いている。経営陣の責任をどう明確にし、外部人材による検証の体制をどう組み立てるかが、計画に書き込まれることになる。予定の命令は、再発防止策が不十分な場合や、原子力規制委員会から今後指導や指示があった場合に、必要に応じて追加の改善策を作って実行することも求めている。

2023年の2件は照会の翌日に「異存なし」、数日で命令

電気事業法に基づく大手電力への業務改善命令は、2023年に2件出ている。送配電会社が持つ非公開情報の閲覧・漏えい事案(関西電力送配電、九州電力送配電、中国電力ネットワークなど5社)と、公正取引委員会からカルテルを理由に排除措置命令などを受けた事案(関西電力、中部電力ミライズ、中国電力など5社)である。経産省の発表では、いずれも委員会に意見を求めた翌日に「異存はない」との回答があり、命令はその1〜4日後に出ている。

事案 弁明の機会 委員会に意見照会 委員会の回答 命令
非公開情報の閲覧 2023年4月3日 4月12日 4月13日 4月17日
カルテル 2023年6月20日 7月12日 7月13日 7月14日
浜岡の地震動評価 2026年10月30日 11月2日 ― ―
電気事業法に基づく業務改善命令の手続きの日付出典: 経済産業省の発表(2023年4月17日・7月14日・2026年11月2日)

2023年の2件は、手続きの起点が今回と異なる。2件とも、まず電取委が調査し、経産相に業務改善命令を出すよう勧告した(不正閲覧は2023年3月31日、カルテルは6月19日)。経産省はそれを受けて弁明の機会を与え、各社の弁明を踏まえたうえで委員会に意見を求めた。今回は、経産省が2026年1月以降に中部電力へ報告を求め、その内容を自ら検証して命令の必要を判断した。

命令が出たあとの期限も示されていた。非公開情報の事案の命令は、情報システムの共用を解消する計画などを2023年5月12日までに出すよう求めた。カルテルの命令は、改善計画を作って公表し、その実施状況を8月10日までに書面で報告するよう求め、外部人材が過半数を占める組織で計画の実効性を継続して評価する仕組みも求めた。今回の予定の命令は業務改善計画の提出を求めているが、11月2日の発表には提出の期限は書かれていない。

中部電力グループにとって、業務改善命令は2回目になる。2023年のカルテル事案では、販売子会社の中部電力ミライズが命令を受けた。命令書は、中部電力(2020年4月以降は中部電力ミライズ)が関西電力との間で、経営層を含めて意見・情報交換を長期にわたり頻繁に行い、少なくとも一部に経営層の関与があったと認定していた。

申請は取り下げ、通期の特別損失は3800億円程度

中部電力は浜岡の事案で、経営面でも大きな手当てをしている。9月14日の臨時取締役会で、3号機・4号機の新規制基準に基づく原子炉設置変更許可申請などの取り下げを決め、25日に取り下げた。調査委員会の報告書を受けて「申請資料やその後の審査対応に関して信頼性に重大な疑義が生じている状況において、従前の申請を維持することは適切ではない」と判断したと説明している。

10月29日には、再稼働の時期や安全対策工事の見通しが立たなくなったとして、2026年4〜9月期に原子力発電事業の固定資産の全額3049億円を減損損失とし、核燃料評価損653億円とあわせて3703億円を特別損失に計上すると発表した。10月以降の原子力設備の維持管理の投資も減損の対象とする見込みで、2027年3月期の特別損失は100億円程度を加えた3800億円程度になるとしている。通期の連結純損益の予想は、7月の1600億円の黒字から2150億円の赤字に改めた。

中部電力では浜岡3号機・4号機のほかにも、経産省が報告を求めた事案が続く。浜岡1号機・2号機の廃炉費用の請求をめぐっては、工事報告書の書き換えが見つかり、10月29日に追加の報告をした(中部電力、浜岡1・2号機の廃炉費用請求で工事報告書を書き換え 食い違いは14件から18件に拡大 経産省が追加報告を求める)。経産省が処分の理由の5つ目に挙げた「他の不適切事案における通底する問題」がどの事案を指すのかは、11月2日の発表でも個別に示されていない。