働き手1人あたりに用意されているソフトウェアの額を大企業と中小企業で比べると、非製造業では中小企業が大企業の7%程度しかない。厚生労働省が令和7年9月30日に公表した「令和7年版 労働経済の分析」(労働経済白書)が、財務省の法人企業統計調査をもとに算出した2024年度の数字だ。建物や機械も含めた設備全体では大企業の20%で、設備のなかでもソフトウェアだけが極端に開いている。
「ソフトウェア装備率」は何を測る数字か
白書が使ったのは資本装備率とソフトウェア装備率という二つの指標である。資本装備率は、当期末の有形固定資産と無形固定資産の合計を期中平均の従業員数で割った値で、働き手1人あたりにどれだけの設備が用意されているかを表す。ソフトウェア装備率は、このうち当期末のソフトウェアだけを取り出して1人あたりに直したものだ。
大企業を1としたときの中小企業の水準は、資本装備率が製造業0.35、非製造業0.20。ソフトウェア装備率では製造業0.05、非製造業0.07となり、どちらの区分でも大企業の10分の1を下回った。設備投資の総量では2割から3割まで追いついているのに、ソフトウェアに限ると1割に届かない。
ただし読み方には注意がいる。白書は注記で、外部のソフトウェアサービスは計上していないとしている。月額で借りるクラウド型の業務システムは自社の固定資産に載らないため、そうした形で情報化を進めている企業の実態はこの数字には表れない。
生成AIを全社で使う企業、300人未満では1.3%
白書は、ソフトウェア投資のうち近年広がっている生成AIの活用状況も企業規模別に示した。従業員300人未満の企業で「全社的に活用している」と答えた割合は1.3%、「一部の組織で活用している」も18.4%にとどまる。一方、5000人以上の大企業は「全社的に活用している」が19.0%、「一部の組織で活用している」が36.5%で、合わせて半数を超えた。
この図の元データは日経クロステックの民間調査「DXサーベイ2025-2027」を厚労省が集計し直したもので、政府統計ではない。企業の生成AI利用そのものの広がりは、企業の生成AI利用86.4%、1年前の55.2%から急伸し米独中に肉薄 ただし使い道は議事録・メールに偏る 情報通信白書で総務省が別途調べている。
白書は、生成AIが機械の導入に比べて設備投資が相対的に少なく済む点を挙げ、中小企業も導入の検討を積極的に進めるべきだとした。同時に、中小企業はAIを入れるかどうかという段階の前に自社の課題そのものが明確になっていないことが多いとして、国や自治体による課題整理の支援を求めている。労働政策だけでは足りず産業政策と両輪で取り組む必要があるという整理だ。
無形資産が生産性を押し上げた分は、2010年代にほぼゼロ
白書はこの中小企業の遅れを、日本全体の労働生産性の説明のなかに置いている。名目労働生産性の上昇を要因ごとに分けると、建物や機械などの非ICT投資の寄与は日本が米英独より高く、パソコンなどのICT投資の寄与も英独と比べて劣らない。低いのは研究開発費や人的資本投資、ソフトウェア投資を含む無形資産の寄与で、2010年代はほぼ0%になっていた。
無形資産投資そのものの伸びも鈍い。2010年代の上昇率は日本が年平均0.9%で、米国・英国・ドイツより弱い。白書の分析では、1990年代後半、2000年代、2010年代のいずれの期間でも無形資産投資の伸びと名目労働生産性の伸びに正の相関が確認できたという。つまり伸びていない分だけ生産性が取り残されている、という読み方になる。
さらに無形資産のうちソフトウェアの資本ストックを製造業と非製造業に分けると、製造業の伸びは米英独と遜色ない一方、非製造業だけが低迷していた。非製造業の約99%は中小企業であり、ここが日本の弱点として浮かび上がる。
人手が足りない業種ほど、中小企業に偏っている
この構図が重いのは、人手不足が深い業種ほど中小企業で働く人の割合が高いからだ。白書の注記によると、中小企業で働く労働者の割合は製造業で64.9%だが、宿泊・飲食サービス業は78.1%、医療・福祉は89.4%に達する(2021年6月時点)。省力化投資が最も要る現場が、最も投資力の弱い側に集まっている。
同じ白書の別の章は、この人手不足の深さを職業別に測っている(医療・運輸・接客など「社会インフラ関連職」の欠員率は約5% ほかの職種は1.7% 年間所得は約436万円、ほかの職種は約541万円)。労働政策研究・研修機構の将来推計では、経済成長と労働参加が進むシナリオで医療・福祉業の就業者は現在より200万人以上増える見込みだ。同じ推計は、成長がなく労働参加も進まない場合、2040年の就業者は5768万人で2022年の6724万人から約1000万人減るとしている。
白書は具体策の例として、センサー技術とAIを組み合わせた遠隔見守りを挙げた。国際機関の報告では、介護現場でのアラームやスマートセンサーの導入により夜間の見回り業務に要する時間が37%削減されたという。給与計算などの事務作業も同様に軽くできるとしている。
労働力の減少そのものは止められない。白書が示したのは、1人あたりの設備で大企業の1割にも届かないまま、人手が足りない現場の多くを中小企業が担い続けている、という現状である。
