経済産業省は10月30日、中部電力に電気事業法に基づく業務改善命令を出す必要があると判断し、命令の前に同社の言い分を聞く「弁明の機会」を与えたと発表した。浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)3号機・4号機の原子力規制委員会の審査で、地震の揺れの想定を不適切な方法で作っていた事案について、同社が10月29日に提出した報告を検証した結果だ。弁明がある場合の弁明書の提出期限は11月12日とした。
予定する命令は再発防止策・外部の検証・改善計画の3本
経産省の発表によると、予定している命令は電気事業法第27条の29で準用する第27条第1項に基づく業務改善命令である。第27条はもともと送配電事業者に業務の改善を命じる規定で、第27条の29がこれを発電事業者にも当てはめている。
命令の内容は3つの柱からなる。1つ目は、問題の再発を防ぐ具体的な方策を作り、実施方法と時期を明確にしたうえで実行することだ。方策に含める事項として、役職員の責任の所在の明確化、法令順守体制の抜本的な強化と、原子力部門など専門性の高い部門の閉鎖性の排除、牽制(けんせい)機能と内部通報への対応の強化、各部門の業務運営体制の確立、これらを定着させる新たな経営管理体制の構築を挙げた。
2つ目は、再発防止策が実際に機能しているかを、外部人材を使った審査体制も含めて客観的に検証する体制を作ることだ。不十分なら追加の改善策を作って実行し、原子力規制委員会から今後出る指導や指示も踏まえて追加策を講じるよう求める。3つ目は、具体策の実施方法と時期を盛り込んだ業務改善計画を提出し、決定と実行の状況を経産省に報告し続けることである。
経産省は、命令の原因となる事実として次の5つを挙げた。(1)浜岡3号機・4号機の規制委の審査で、基準地震動(原発の耐震設計の前提となる揺れ)の策定に関して不適切な行為があったこと、(2)牽制機能の弱さと内部通報制度の機能不全、(3)業務運営体制の不備、(4)ガバナンス機能の不全。このほか、電気事業法と再処理等拠出金法に基づいて求めた報告を検証した結果、(5)同社のほかの不適切事案に共通する問題が一部で認められたとした。経産省は「安全を最優先すべき原子力事業において、不適切な事案が発生したことは、地域をはじめとする社会の信頼を損なうものである」と指摘した。
行政手続法は、行政が相手に不利益な処分をするとき、事前に相手の意見を聞く手続きを義務づけている。許認可の取り消しや役員の解任命令など重い処分では、「聴聞」の手続きをとる。それ以外の処分では、弁明書などで言い分を受け付ける「弁明の機会の付与」を行う。経産省は今回、後者にあたる同法第13条第1項第2号を根拠にした。
同法第30条は、弁明の機会を与えるとき、予定する処分の内容と根拠条文、処分の原因となる事実、弁明書の提出先と期限を書面で通知するよう定めている。経産省は同日、この通知を中部電力に書面で送った。中部電力が弁明書を出すかどうか、出した場合に経産省がそれをどう扱うかは、10月30日の発表には書かれていない。
1月の公表から報告徴収2回、10か月で処分手続きへ
経緯は次の通りである。中部電力の報告書によると、同社は浜岡4号機について2014年2月に新規制基準への適合審査を申請し、2015年に取り下げて再申請した。3号機は2015年6月に申請した。2025年5月、原子力規制庁から基準地震動を作る過程について調査するよう指示を受け、社内調査で審査会合での説明と異なる方法や意図的な方法で策定されていた疑いを確認した。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2025年5月 | 原子力規制庁が基準地震動の策定過程の調査を指示 |
| 2026年1月5日 | 中部電力が事案を公表し外部の調査委員会を設置。経産相が報告を求める |
| 3月31日 | 中部電力が1回目の報告。経産省が調査委の結果を踏まえた追加報告を求める |
| 9月14日 | 中部電力が調査委の報告書(9月11日受領)を公表 |
| 9月25日 | 中部電力が浜岡3号機・4号機の設置変更許可申請書などを取り下げ |
| 10月29日 | 中部電力が追加報告を提出 |
| 10月30日 | 経産省が業務改善命令を予定し、弁明の機会を付与 |
経産省は3月31日、事実関係と経緯、原因と再発防止策、ほかの類似事案の有無について報告するよう求めていた。10月29日に報告を受け取った際には「最大限厳格に対応を検討してまいります」としており、翌日に処分の手続きに入った。
調査委「独自の正当化理論」、225ケース中104ケースで人為的な選定
10月29日の報告に添付された調査委員会(委員長・高嶋智光弁護士)の報告書は、不適切な行為の中身を細かく認定している。浜岡の地震動評価では、想定する地震ごとに震源の条件を変えた合計225ケースについて、乱数を使って揺れを多数回計算し、その中から代表となる波形(代表波)を1つ選ぶ。
調査委によると、中部電力は2014年ごろの申請当初から、225ケースのうち104ケースで、計算結果の平均に最も近い候補を多数作ったうえで、その中から定量的な基準によらず人為的に代表波を選んでいた。プレート間地震の63ケースでは、遅くとも2019年前半以降、平均との差を考慮せずに人為的に選ぶ方法をとっていた。2018年9月14日の審査会合で規制委から選び方の説明を求められると、実際には行っていない「平均との差が最小のものを選んだ」という証跡になるよう、後から計算結果の一部を入れ替え、その一部を審査会合で示して実態と異なる説明をしていたと認定した。
調査委は原因として、社会や地域の視点よりも社内の論理を優先する「独自の正当化理論」が広がっていたことを挙げた。中部電力の報告書では、社長が冒頭で「二度にわたる内部通報も問題の発見と是正につなげることができませんでした」と記し、「その責任は経営層にあります」とした。
中部電力は申請取り下げと3703億円の特別損失
中部電力は10月29日の報告で、再発防止策を「経営ガバナンス改革の実行」「コンプライアンス・安全を最優先とする意識・行動への転換」「閉鎖性の排除と多様な視点の導入」「牽制機能の強化」の4本柱に整理した。調査委の提言を受けて、組織風土改革への外部評価、原子力部門の要職へのコンプライアンス人材の配置、外部専門家による定期的な技術監査などの5項目を加えた。ほかの類似事案の調査では、委託先に妥当性に疑いのある方法で解析を指示したと読み取れる事例が10件見つかり、事実関係と影響を追加で調べているとしている。
経営への影響も大きい。同社は9月25日に浜岡3号機・4号機の審査申請を取り下げた。再稼働の時期や安全対策工事の見通しが立たなくなったとして、2026年4〜9月期に原子力発電事業の固定資産の全額3049億円を減損損失に、核燃料評価損653億円とあわせて計3703億円を特別損失に計上した。2027年3月期の連結純損益の予想は、7月時点の1600億円の黒字から2150億円の赤字に改めた。
中部電力では浜岡の件のほかにも、経産省が報告を求めた事案が続いている。浜岡1号機・2号機の廃炉費用の請求をめぐっては、経産省が8月27日に再処理等拠出金法に基づく報告を求め、9月25日に追加の報告を求めた(中部電力、浜岡1・2号機の廃炉費用請求で工事報告書を書き換え 食い違いは14件から18件に拡大 経産省が追加報告を求める)。子会社の中部電力ミライズが2024年に届け出た料金約款の原価算定に誤りがあった件でも、中部電力は電気事業法に基づく報告徴収を受け、10月29日にそれぞれ報告した(中部電力、電気料金を2年半にわたり取りすぎ 500万件・総額12億円 返金は2026年12月分の電気料金から差し引き 資源エネルギー庁が再発防止を指導)。経産省は、命令の原因の5つ目に挙げた「他の不適切事案における通底する問題」がどの事案を指すのかを、10月30日の発表では個別に示していない。
