金融庁は9月29日、貿易取引の代金支払いにステーブルコインを使う実証実験について、「FinTech実証実験ハブ・決済高度化プロジェクト(PIP)」を通じた支援を決定したと発表した。申込者は、貿易書類を電子でやり取りするプラットフォーム「TradeWaltz」を運営する株式会社トレードワルツ、NTTデータ、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ信託銀行の6社。想定期間は2026年9月から当面の間としている。
輸出債権の買い取り承認を起点に、ステーブルコインで支払う
金融庁の公表資料は実験内容を「貿易取引における資金決済でのステーブルコインの活用について、実務上の対応を検証し、関連する法的論点の整理を行います」と記している。
具体的な流れは、申込者6社が同日連名で出した発表に書かれている。輸出企業が貨物の内容や船積みを示す輸出書類をTradeWaltz上で銀行に提出し、銀行がその輸出債権を買い取ると承認した情報を起点に、ステーブルコインによる決済を実行する。使うステーブルコインは、実証に参加する金融機関が共同で検討するものを想定するという。
貿易では通常、輸出者と輸入者の双方の銀行を挟んで複数回の資金決済が起きるが、今回の実験はまず輸出企業と銀行の間の1区間に絞る。6社は、将来的に輸入側の銀行・輸入者まで延ばして実用化できれば、輸出企業は代金を受け取るまでの期間が縮まって資金繰りが楽になり、銀行も書類照合後の決済指図や入金確認、着金通知といった事務をデータ連携で処理できるとしている。
狙いは「紙と手作業」の圧縮
6社が背景に挙げるのは、貿易実務にいまも紙が大量に残っていることだ。輸入者の依頼で銀行が代金支払いを約束する信用状(L/C)や、運送人が貨物を受け取ったことを証明し貨物の引き渡しを請求する権利を表す船荷証券(B/L)など、多岐にわたる書類が物理的に郵送され、照合も手作業で行われている。ここに時間とコストがかかる。
ステーブルコインは、法定通貨などに価値を連動させた電子的な支払い手段で、日本では令和4年の資金決済法改正で「電子決済手段」という区分が設けられ、関係する政令・内閣府令とともに2023年6月1日から施行されている。銀行送金と違って着金までの待ち時間が短く、書類の電子化とつなげば「書類が揃った瞬間に支払う」形に近づけられる。ただし、貿易決済の主役を置き換えるという話ではない。世界貿易機関(WTO)の報告書では、WTO、ステーブルコインと貿易の報告書を公表 実際の決済は年3900億ドルで世界の0.02% 「貿易金融は置き換えられない」とされており、実際の利用規模はまだ小さい。
PIPは4件目、実証実験ハブ全体では15件目
FinTech実証実験ハブは、前例のない実験に踏み出す際の「法令解釈やコンプライアンス上の懸念」を解消する目的で、金融庁が2017年9月21日に設けた仕組みだ。案件ごとに庁内で担当チームを組み、継続的に支援する。金融庁は「既存の法令の適用を免除するものではございません」と明記しており、規制を一時的に外す規制のサンドボックスとは別物である。
PIPは、ブロックチェーンを使った決済の高度化が国内外で進んだことを受けて、2025年11月7日にハブの中に置かれた決済分野専門の枠組み。ブロックチェーン技術や関連法令、海外動向に詳しい担当者を支援チームに重点配置するとしている。
支援案件は今回がPIPとして4件目、ハブ全体では15件目にあたる。PIPの1件目は2025年11月7日で、みずほ銀行・三菱UFJ銀行・三井住友銀行・三菱商事・三菱UFJ信託銀行・Progmatによる「複数の銀行グループが共同でステーブルコインを発行する場合」の規制対応の検証。2件目は2026年2月13日で、証券の権利移転をブロックチェーンで行い、ステーブルコインによる決済と連動させる実験。3件目は2026年4月3日で、ディーカレットDCP・GMOあおぞらネット銀行・アビームコンサルティングによる、異なる銀行の顧客間でトークン化預金を送金する際の銀行間決済の検証だった。
いずれもステーブルコインが絡んでおり、金融庁がこの分野に人員を寄せている構図が見える。金融庁は、金融庁、「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」を設置 30日に初会合 AIが自ら支払う時代に備え2027年初に中間整理として、ブロックチェーン上の金融サービスを議論する場も立ち上げている。
実験で整理されたコンプライアンス上・監督対応上の論点や、一般の利用者にサービスを提供する際に生じうる法令解釈の実務論点は、終了後に金融庁のウェブサイトで公表される予定だ。
