政府は10月23日、自衛隊の基地など重要施設の周辺や無人の国境離島で土地・建物の所有権を移す際に、内閣総理大臣の事前許可を求める重要土地等調査法の改正案を国会に提出した。同じ日に、全ての法人に「実質的支配者」の情報を法務局へ届け出させる法人実質的支配者透明化法案と、その関係法律の整備法案も提出した。2021年に成立した重要土地等調査法は、これまで土地の取得後の利用を見張る仕組みだったが、改正案は取得の段階で国が審査する制度に切り替える。自民党は10月27日付の機関紙「自由民主」で、両法案の成立に向けて「政府与党一体となって取り組みます」としている。

取得そのものを国が審査する「規制区域」

改正案の中心は、新たに設ける「規制区域」である。内閣府の概要によると、対象は二つある。一つは、秘密裏に集められたドローンなどの攻撃で機能を著しく阻害されるおそれがあり、阻害されると回復が難しい施設の周囲おおむね1000メートル。概要は例として、戦闘機やレーダーなど精密な装備品がある防衛関係施設と、海上保安庁の施設を挙げている。もう一つは、住民のいない国境離島である。いずれも、現行法で指定している「特別注視区域」の中から内閣総理大臣が指定する。

規制区域内で土地・建物の所有権を移す場合、当事者は内閣総理大臣の許可を受けなければならない。概要は「面積要件なし」と明記しており、小さな区画も対象になる。許可を受けない所有権の移転は効力を生じず、不動産登記も受け付けない。

法案要綱によると、許可を出してはならない相手は、外国の政府やその活動に特に重要な影響力を持つ者、外国の軍隊などの活動に現に従事する者、外国の法令などに基づいて外国軍の活動を支援・協力する義務を負う者である。同じ外国に関わるこれらの者が議決権の2分の1以上を持つか、役員の2分の1以上を占める法人も含む。このほか、施設の損壊やそのための情報収集、国境離島の機能を著しく阻害する行為に使うおそれがあると認める「相当の理由」がある者にも許可を出さない。ただし、これらに当たっても、そうした行為に使うおそれがないことが明らかな「特別の事情」があれば許可できる規定も置いた。

背景として内閣府の概要は、ウクライナ侵略で現れたドローンなどを使う「新しい戦い方」と、日本周辺の海域で繰り返される領海侵入事案を挙げ、発見の難しい方法による攻撃を未然に防ぐには取得段階で規制する必要があるとしている。

合併後の譲渡命令、警察の立ち入りも

改正案は、許可制をすり抜ける経路も手当てした。法人が合併や分割で規制区域内の土地を取得した場合は内閣総理大臣への届け出を求め、不許可の要件に当たると認めれば、1年以内に第三者へ譲渡するよう命じることができる。土地を持つ法人の株主構成が変わり、外国政府などに支配される状態になった場合も同じく届け出と譲渡命令の対象になる。概要によると、譲渡されなければ国が競売を申し立てる。賃貸借は事後の届け出を義務付ける。

執行の面では、施設の機能を回復困難なほど損なうおそれがあり緊急の必要があるときは、勧告を経ずに是正の措置を命じられるようにする。内閣府の職員が規制区域内の土地に立ち入って利用状況を調べる制度も新設する。警察庁長官は内閣総理大臣に勧告や命令を求める意見を述べることができ、承認を得た都道府県警察も立ち入り調査ができる。概要は「所要の罰則を整備」としている。

このほか、注視区域の対象となる重要施設に、皇居、国会議事堂、総理官邸、危機管理行政機関の庁舎を加える。施行は公布から1年6か月以内の政令で定める日である。

項目 現行法 改正案(規制区域)
規制の段階 取得後の利用(機能阻害行為) 所有権移転の前に審査
取得の手続き 特別注視区域で200平方メートル以上は事前届け出 内閣総理大臣の事前許可。面積要件なし
許可を受けない取引 許可制は無い 所有権移転は無効、登記を受け付けない
是正の手順 審議会の意見を聴いて勧告、従わなければ命令 緊急時は勧告を経ずに命令
調査 公簿などによる調査 内閣府職員・警察の立ち入り調査を新設
重要土地等調査法の現行制度と改正案の主な違い出典: 内閣府「重要土地等調査法の一部を改正する法律案の概要」・法律案要綱

現行法では勧告・命令がゼロ

現行の重要土地等調査法は、重要施設の周囲おおむね1000メートルと国境離島などを「注視区域」に指定し、その中で特に重要な施設の周辺を「特別注視区域」としている。国は土地の所有者や利用状況を調べ、施設の機能を阻害する行為があれば審議会の意見を聴いて中止を勧告し、従わなければ命令する。ただ、内閣府によると令和8年9月30日現在、勧告・命令は一度も実施していない。

内閣府が公表した令和6年度の調査結果では、583区域の注視区域などで取得が確認された土地・建物は11万3827件(土地の筆数と建物の個数の合計)だった。このうち外国人・外国系法人による取得は3498件で、全体の3.1%にあたる。国・地域別では中国(香港を含む)が1674件と、外国人・外国系法人による取得の47.5%を占めた。

自民党の外国人政策本部に置かれた安全保障と土地法制に関するプロジェクトチーム(PT)は9月29日付の提言で、取得段階からの実効的な制度を求めていた。その経緯は重要施設周辺の土地取得に「許可制」を 自民党PTが高市首相に提言 対象は周囲おおむね1000メートルと無人国境離島で面積要件なし 改正案を10月5日召集の臨時国会へで伝えた。提言は、地下水の採取ルールの制度化と国土利用計画法の改正については、次の通常国会への法案提出を求めており、今回の2法案には含まれていない。

法人の背後の個人を届け出させる新法

もう一つの法人実質的支配者透明化法案は、法人を実際に動かしている個人(実質的支配者、BO)の情報を国が一元的に記録する新しい法律である。内閣官房の概要によると、上場企業や国・地方公共団体などを除く全ての国内法人が対象になる。外国法人も、国内に代表者を置いて継続的に取引する会社、国内に事務所を設けた法人、国内の土地・建物を所有者として登記している法人は対象とする。

実質的支配者は、株式会社などの場合、総議決権の25%超を直接または間接に持つ個人などと定義した。法人は氏名、住所、生年月日、国籍などを把握し、設立から30日以内に法務大臣(法務局)へ届け出る。内容が変わったり誤りに気づいたりしたときも、30日以内に届け出なければならない。法律の施行時に既にある法人は、施行日から30日以内に届け出る。

違反への対応も定めた。虚偽の届け出や、催告を受けても届け出ないときは6か月以下の拘禁刑か100万円以下の罰金、またはその両方を科す。正当な理由なく届け出なかった代表者らは100万円以下の過料とする。届け出の期限から3年を過ぎても届け出ない法人については、登記を閉鎖する措置を講じる。

記録された情報を見られるのは、法令に定める事務に必要な行政機関と、金融機関や士業者などの特定事業者が法人の同意を得た場合に限る。概要は、「トクリュウ」などによるマネーロンダリング(資金洗浄)対策や経済安全保障への活用を掲げている。信託についても、受託者に委託者や受益者などの情報の把握と記録の保存を義務付ける。施行は一部を除き公布から1年6か月以内である。

2法案は「土地を持つ法人の支配者」でつながる

2法案は別々の役所が所管しているが、中身は互いに結びついている。透明化法案は目的を定めた第1条で重要土地等調査法の名を挙げ、概要は、内閣総理大臣の求めに応じて法務大臣が土地を持つ法人の実質的支配者の情報を提供すると定める。改正案が不許可の要件に挙げる「外国政府などに支配される法人」を見分けるには、名義上の代表者ではなく背後の株主を知る必要があり、その情報源を透明化法案で整える組み立てである。

国際的な要請も背景にある。概要は、主要7か国(G7)のうちBO情報の届け出を義務付ける制度が無いのは日本だけだとし、マネーロンダリング対策の国際基準を定めるFATF(金融活動作業部会)による第5次対日相互審査が2028年夏ごろに予定されていることを挙げた。財務省がこの制度の必要性を示した経緯は法人の「実質的支配者」を届け出る制度、G7で日本だけ無い 財務省が新法の必要性を明示 FATF第5次対日審査は2028年夏に現地調査で伝えた。

自民党の機関紙は、重要土地等調査法の改正について「ドローン等の攻撃に備えてルールを新たに見直し」と説明している。2法案は今後、国会で審議される。成立すれば、規制区域を具体的にどこに指定するか、届け出の様式や閲覧の手続きをどう定めるかは、政令や府省令に委ねられる。