内閣府政府広報室は10月2日、「農山漁村に関する世論調査」の速報を公表した。棚田を守る国の取組のうち、令和4年に始まった「つなぐ棚田遺産」を知っていた人は5.7%にとどまり、その前身にあたる平成11年の「日本の棚田百選」の51.2%と10倍近い差がついた。棚田を将来に残していきたいという答えは81.5%あり、意識と制度の認知度が食い違っている。

知られているのは20年以上前の「棚田百選」

棚田振興の取組のうち何を知っているかを複数回答で聞いた結果は、認知度の偏りをはっきり示した。「棚田百選」が51.2%で突出し、「棚田オーナー制、棚田トラスト制」が19.0%、「インターネットを含む棚田米などの農産物や加工品の販売」が18.6%、「棚田に関するふるさと納税・棚田保全協力金などの募金」が15.6%。これに対し「つなぐ棚田遺産」は5.7%、「棚田カード」は1.5%だった。「知っているものはない」が33.7%ある。

この二つの名前の差には経緯がある。農林水産省の説明によると、同省は平成11年に優れた棚田134地区を「日本の棚田百選」として認定した。認定から20年以上が過ぎ、担い手の減少や農家の高齢化で従来のような保全活動が難しくなったことから、同省は改めて優良な棚田を認定する取組を始め、令和4年3月25日に271地区を「つなぐ棚田遺産~ふるさとの誇りを未来へ~」として認定した。後継の取組が始まって4年半たつが、名前は前の取組ほど広まっていない。

「有名でなくても残したい」が61.5%で最多

棚田を将来に残していきたいかを一つだけ選んでもらったところ、最も多かったのは「知名度は高くないが、地域で守ろうと頑張っている棚田は残したい」の61.5%だった。「全ての棚田を残したい」は12.2%、「一部の有名な棚田だけは残したい」は7.8%で、この三つを足すと81.5%になる。

残したいとは言い切らなかった人もいる。「残っていてほしいと思うが、荒れてしまうのは仕方ない」が15.1%、「棚田が全てなくなっても構わない」が1.3%、無回答が2.1%だった。

残したい理由を複数回答で聞くと(該当者1225人)、「先祖が作り、守ってきたものだから・頑張っているところを応援したいから」が53.7%で首位。次いで「棚田で農業が営まれるところで土砂崩れや洪水が防止でき、地下水が作られるから」が48.8%、「澄んだ空気や水、四季の変化などが癒しや安らぎをもたらすから」が45.2%、「農地や農産物がきれいな景色を作るから」が43.3%、「田畑や水路が多様な生き物のすみかになるから」が41.9%と続いた。「水田が周りの空気を冷やし暑さを和らげるから」は20.2%、「五穀豊穣のお祭りなど地域の伝統文化を伝えるから」は15.8%だった。景観や防災といった、米づくりそのものから離れた働きを挙げる人が多い。

支援の担い手は「国」68.1%、「企業・団体」も46.1%

棚田を維持・管理・保全するために誰の支援が必要かを複数回答で聞くと、「国による支援」が68.1%で最も多かった。「都道府県による支援」が60.7%、「市町村による支援」が50.2%と、行政への期待が上位を占める。

ただし行政だけではない。「地域貢献事業を行う企業・団体による支援」が46.1%、「棚田を守りたい人による支援」が38.0%と、民間や個人を挙げた人も4割前後いた。「支援の必要はない」は1.2%にとどまった。回答の合計は270.1%で、1人あたり平均2.7個を選んだ計算になる。

同じ調査では、傾斜地などで農業を続ける集落に交付金を配る制度の認知度も聞いており、中山間地域等直接支払制度を「知らなかった」85.4% 内閣府の世論調査 令和7年度は2万1664協定に498億8300万円を交付 支援は「農産物を買って」が52.4%、「税金で」は38.1%でその結果を扱っている。棚田でも中山間地域の制度でも、国の仕組みそのものは広く知られていない点が共通している。

制度の側は増えている

そもそも棚田とは何か。農林水産省は、山の斜面や谷間の傾斜地に階段状に作られた水田を棚田と呼び、傾斜が20分の1以上のものとしている。地形的に生産条件が悪く維持に多大なコストがかかるため、人口減少と高齢化で全国各地の棚田が荒廃の危機に直面している、というのが同省の現状認識である。

これを受けて令和元年に施行されたのが棚田地域振興法で、棚田を核とした地域振興を通じて棚田を次の世代に引き継ぐことを掲げる。法律に基づき国が指定する「指定棚田地域」は、令和元年12月27日の最初の公示から積み重なり、内閣府地方創生推進事務局によると令和8年8月現在で42道府県の751地域にのぼる。直近の公示は令和8年8月24日である。農林水産省は令和8年度に、農山漁村振興交付金のなかに棚田地域振興対策推進事業を新たに設けた。

制度と指定地域は増えているが、世論調査が示したのは、その入口にある取組の名前がまだ届いていないという現実である。調査は全国の18歳以上の日本国籍を有する3000人を対象に、7月30日から9月6日まで郵送法で実施し、1503人から回答を得た(回収率50.1%)。速報値は8月28日までに到着した調査票で集計したもので、内閣府は回収数や回収率を含めて確報段階で修正される可能性があるとしている。属性別の結果やクロス集計は確報で公表される。