総務省消防庁は9月25日、林野火災の空中消火で消火剤を使うときの運用方法を確かめる検証を、岩手、栃木、山梨、長野、愛知、愛媛、福岡の7県で実施すると発表した。9月30日の岩手県釜石市を皮切りに11月まで順次行う。使うのは消火性能を持たない「ダミー剤」で、水と混ぜてヘリコプター用の消火バケットへ送り、上空から散布するまでの一連の手順を確かめる。消防庁は、大規模な林野火災への対応力を高めるための取り組みだと説明している。
水と混ぜ、ヘリのバケットへ送って散布する
検証で使うダミー剤は、実際の災害で使う消火剤とは別物で、消火性能はない。ただし消火剤と同じく粉末状で、水と混ぜたときに粘り気が出る性質を持たせてある。消防庁は、①水とダミー剤を混ぜる②ヘリコプター用の消火バケットへ送液する③ヘリコプターから空中に散布する——の三つを実施し、実際の災害でどう運用すればよいか、運用上どのような課題があるかを確かめるとしている。
裏を返せば、今回確かめるのは薬剤を現場へ届けるまでの段取りであって、薬剤そのものの消火効果ではない。混ぜる作業をどこで誰が行うのか、粘り気のある液体をバケットへどう送り込むのか、散布時にヘリの運航へどう影響するのか。こうした実務面の詰めが、空中消火に消火剤を持ち込むうえでの前提になる。
雨天の場合や、ヘリコプターが災害対応で出動した場合は、検証を中止することがある。混合と送液だけを実施し、空中散布は見送る場合もあるという。
日程は9月30日の岩手から11月6日の愛媛まで
公表された日程と場所は次の通り。
- 岩手県 9月30日午前10時〜正午 釜石市平田第5地割・平田公園多目的広場(予備は同日午後と10月1日)
- 長野県 10月2日午前9時〜正午 下高井郡山ノ内町夜間瀬・よませ温泉スキー場
- 栃木県 10月6日午前10時〜正午 塩谷郡塩谷町・西古屋ダム近辺(予備は同日午後1時〜3時)
- 山梨県 10月20日午後1時〜4時30分 南巨摩郡富士川町天神中條・殿原スポーツ公園
- 福岡県 11月2日午前11時〜午後2時 嘉麻市牛隈・福岡県消防学校
- 愛媛県 11月6日午前9時30分〜午後0時30分 松山市大浦・北条スポーツセンター内野球場周辺
愛知県は日時・場所とも調整中としている。
出発点は3370ヘクタールが焼けた大船渡の火災
きっかけは2025年2月26日に岩手県大船渡市で発生した林野火災だ。延焼範囲は約3370ヘクタールに達し、1964年以降で最大となった。焼損した建物は住家が90棟、住家以外が136棟。2月26日に覚知され、3月9日に鎮圧、4月7日に鎮火した。
消防法第35条の3の2に基づく消防庁長官の調査では、まきストーブの煙突から出た火の粉が原因となった可能性が相対的に高いとされたが、具体的な発火源の特定には至らなかった。延焼が広がった要因としては、2月の月降水量が観測史上最少で林野の可燃物が乾いていたことと、火災初期に最大瞬間風速18.1メートルの強風が吹いたことが挙げられている。樹木の先端まで燃え上がる樹冠火と飛び火が起き、その後はリアス海岸の複雑な地形と局地的な風に乗って多方面へ広がった。
岩手県では今年4月にも大規模な林野火災が起きている。大槌町の林野火災、出火原因は2件とも「不明」 消防庁長官の調査報告書 1708ヘクタールが焼け、住家の焼損は3棟の通りで、今回の検証の初日に選ばれた釜石市は、大船渡市と大槌町の間に位置する。
一般的な活用は2027年の火災期に向けて具体化
大船渡の火災を受け、消防庁と林野庁は共同で検討会を開き、2025年8月に報告書を公表した。報告書は「消火薬剤の効果的な活用の検討」を今後の対策の一つに掲げ、二段構えの工程を示している。まず2026年の火災期に向けて、散水できる場所が限られる残火処理などでの活用要領を明確にする。そのうえで、空中消火を含む一般的な活用については、個別の消火薬剤の有効性や、健康・環境への影響の評価方法とともに2026年中をめどに具体化し、2027年の火災期に備えるとした。今回の検証は、この後半部分の作業にあたる。
前半の工程はすでに動いている。消防庁は今年6月30日に最終改正した通知「林野火災の予防及び消火活動について」で、消火剤の効果的な活用方策を全国の消防機関などに示した。報告書はまた、米国農務省が消火薬剤について認証済み製品のリストを公表している例にも触れており、どの薬剤を使ってよいかを国として整理する必要性を示している。
空中消火を担うのは消防防災ヘリだけではない。自衛隊の災害派遣は令和7年度339件で過去10年最少 8割超が離島からの急患輸送 山火事対応は39件で5年最多の通り、自衛隊の山火事対応は令和7年度に39件と5年で最も多かった。消火剤を使う空中消火の手順が固まれば、関係機関が同じ段取りを共有できるかどうかも問われることになる。
