内閣府政府広報室は10月2日、「農山漁村に関する世論調査」の速報を公表した。傾斜地などで農業を続ける集落に交付金を配る中山間地域等直接支払制度について、「知らなかった」と答えた人は85.4%にのぼった。制度が始まったのは平成12年度(2000年度)で、今年度が27年度目にあたる。

「言葉と内容の両方を知っていた」は4.6%

質問は、制度の内容を文章で示したうえで知っていたかを尋ねる形をとった。「中山間地域において、集落などを単位に、農用地を維持・管理していくための取決めを締結し、それにしたがって農業生産活動などを行う場合に、交付金を交付する制度です」と説明したうえで、4つの選択肢から1つを選ばせている。

結果は「言葉と内容の両方を知っていた」が4.6%、「言葉だけは知っていた」が8.4%、「知らなかった」が85.4%、無回答が1.7%だった。知っていた人は、言葉だけの人を含めても13.0%にとどまる(本紙で合算)。

調査は全国の18歳以上で日本国籍を持つ3000人を対象に、7月30日から9月6日まで郵送法で行われた。回答は1503人から得られ、回収率は50.1%。ただし今回の数値は速報で、8月28日までに届いた調査票だけを集計している。内閣府は、属性別の結果やクロス集計は確報の段階で公表するとし、回収数や回収率を含む速報の数値は確報で修正される可能性があると注記している。

この制度の認知度は、前回調査では尋ねていない。令和3年6月の「農山漁村に関する世論調査」の調査項目は「農村地域について」「都市地域と農山漁村地域の交流、農山漁村地域への滞在などについて」「農山漁村地域への移住について」の3つで、直接支払制度は入っていなかった。

2万1664の協定に498億8300万円 協定数は1年で2782減った

知られていない制度の規模は小さくない。農林水産省農村振興局が8月に公表した令和7年度の実施状況(令和8年3月31日現在)によると、交付金が交付された協定は2万1664で、うち集落協定が2万1069、認定農業者らが結ぶ個別協定が595。交付総額は498億8300万円で、これは国費・都道府県費・市町村費の合計である。集落協定に491億9600万円、個別協定に6億8600万円が配られた。

交付の対象になった農用地は58万3605ヘクタールで、市町村が制度の対象として計画に書き込んだ70万8116ヘクタールの82.4%にあたる。協定を結んだ人は集落協定だけで44万6666人おり、その92%が農業者・農業法人・農業生産組織で占められている。1つの集落協定あたりの平均は参加者21人、交付面積27ヘクタール、交付金額234万円。交付金を配った市町村は991で、制度を使うための促進計画を作った1043市町村の95%にあたる。

もっとも、規模は縮んでいる。前年度(令和6年度)の協定数は2万4446で、1年間で2782減った。交付面積も61万7525ヘクタールから3万3920ヘクタール減り、交付総額は531億7100万円から32億8800万円減っている。交付市町村も1003から991へ12減った。令和7年度は5年ごとに切り替わる対策の区切りで、第6期対策(令和7〜11年度)の初年度にあたる。協定は5年以上続ける約束で結ぶため、期の切り替わりで更新をやめる集落が出る。

国の予算で見ると、令和8年度の中山間地域等直接支払交付金は284億6000万円で、前年度と同額だ。内訳は交付金本体が275億6000万円、都道府県・市町村の推進体制を強化する推進交付金が9億円。農水省はこの対策の目標として、耕作放棄を防ぎ、中山間地域などの農用地8万4000ヘクタールの減少を防止することを令和7年度から令和11年度までの期間で掲げている。

交付単価は傾斜の度合いと地目で分かれる。10アールあたりで、田は急傾斜(20分の1以上)が2万1000円、緩傾斜(100分の1以上)が8000円。畑は急傾斜(15度以上)が1万1500円、緩傾斜(8度以上)が3500円である。水路や農道の管理など農業生産活動を続ける活動だけを行う場合は単価の8割(基礎単価)、これに加えて複数の集落協定の連携などを盛り込んだ計画を作る場合は10割(体制整備単価)が交付される。令和7年度に体制整備単価に取り組んだ集落協定は1万4205で、集落協定全体の67%を占めた。棚田地域振興法に基づく計画の対象になる棚田には、10アールあたり1万円の加算もある。

支援のあり方は「農産物を買って支える」52.4%、「税金で」38.1%

調査は、中山間地域の農業生産活動や住民の暮らしをどう支えるべきかも複数回答で聞いている。最も多かったのは「中山間地域に親しみを感じる国民が中山間地域を訪れたり、生産される農産物の購入を増やすことなどにより支援する」の52.4%。次が「中山間地域が発揮する機能の恩恵を受けている企業が生産される農産物の購入を増やすことなどにより支援する」の45.9%で、買って支える形が上位に並んだ。

税による支援、つまり直接支払制度のような仕組みを指す「国や地方公共団体を通じて、国民が等しく税金を負担することによって支援する」は38.1%で3番目だった。以下は企業の募金・寄付が34.6%、企業のボランティアが16.4%、国民のボランティアが13.0%、国民の募金・寄付が12.6%。「支援は必要ない」は1.5%にとどまった。

費用を誰が持つべきかという問いへの答えは、題材によって大きく振れる。同じ内閣府の世論調査でも、高速道路の維持費「通行料金でまかなうべき」が66.4% 5年前の62.9%から増加 内閣府の道路世論調査のとおり、道路については利用者が払うべきだという答えが3分の2を占めた。中山間地域では、利用者負担にあたる「農産物を買う」が最多で、税負担は4割に届かない。

施策の方向については、「経済性・効率性の向上に努めつつ、国土・環境保全などの機能も重視すべきである」が68.3%。「経済性・効率性の観点よりも機能を重視すべき」は20.3%、「機能よりも経済性・効率性を重視すべき」は7.7%だった。活力が低下した農村地域への関わり方では、「機会があればそのような地域や集落に行って協力してみたい」が65.2%、「地域のことは地域で行うべきであり協力したいとは思わない」が26.7%、「積極的に行って協力したい」が4.0%だった。

「多面的機能」も「農村RMO」も知られていない

知られていないのは直接支払制度だけではない。農業が食料生産以外に国土保全や雨水の貯留、景観形成などの働きを持つことを指す「農業の多面的機能」は、「知らなかった」が57.8%。「言葉と内容の両方を知っていた」は24.6%、「言葉だけは知っていた」は15.6%だった。令和3年6月の調査では「知らなかった」が69.9%だったので、今回の57.8%はそれを下回った。ただし選択肢の文言は前回が「知っていた」「内容も知っていた」で、今回の「言葉だけは知っていた」「言葉と内容の両方を知っていた」とは異なるため、内訳の単純な比較はできない。

地域の暮らしを住民が中心になって守る地域運営組織(RMO)は「知らなかった」が86.3%、その農村版である農村型地域運営組織(農村RMO)は88.5%。重要で伝統的な農林水産業を営む地域を認定する「農業遺産」も71.9%が知らなかった。一方で、農村RMOの活動のうち期待するものを聞くと「高齢者などの買い物を手助けする活動」が54.6%、「雑草を刈るなどして、農道や畑のまわりを守る活動」が52.5%と、半数を超える支持が集まった。組織の名前は知られていないが、その中身への期待は低くない。

棚田についても同じ傾向が出ている。棚田の振興の取組で「知っているものはない」が33.7%ある一方、将来に残していきたいかという問いには「知名度は高くないが、地域で守ろうと頑張っている棚田は残したい」が61.5%、「全ての棚田を残したい」が12.2%、「一部の有名な棚田だけは残したい」が7.8%で、残したいという答えが81.5%を占めた(本紙で合算)。維持・管理に誰の支援が必要かという複数回答では「国による支援」が68.1%で最も多く、都道府県60.7%、市町村50.2%と続いた。「支援の必要はない」は1.2%だった。

なお今回の調査には附帯調査があり、その結果は「生物多様性」の意味を知っている人は38.3% 4年前の29.4%から上昇 ただし「行動に移せていない」は33.7%から42.7%に増加 内閣府世論調査として9月25日に先に公表されている。調査の関係府省庁は農林水産省で、内閣府は調査の目的を「農山漁村に関する国民の意識を把握し、今後の施策の参考とする」としている。棚田の保全にも、中山間地域等直接支払制度の加算措置が使われている。