令和7年国勢調査の確定値で、65歳以上が総人口に占める割合(高齢化率)は29.4%になった。ただし高齢化の問題は、高齢者が増えることそのものではない。支える側が足りなくなることである。
65歳以上の人口は2020年の3596万8868人から2025年の3614万1613人へ、5年で17万2745人しか増えていない。同じ5年で75歳以上は1856万9009人から2116万9152人へ260万143人増え、85歳以上も613万3873人から683万4349人へ70万476人増えた。増えているのは高齢者の数ではなく、高齢者の年齢である。そして年齢が上がるほど、支える手が必要になる。毎月の人口推計でも同じ方向が出ていたことは 75歳以上の人口2153万人、2026年4月時点で総人口の17.5% 65歳以上全体は1万9千人増で頭打ち 要介護認定率は65〜74歳4.3%に対し75歳以上31.0% で扱ったとおりだ。
以下は、その「支える手」が各分野でどれだけ足りていないかを、一次統計で順に追ったものである。制度、現場、家庭、家計、そして一人暮らしまで、同じ不足が形を変えて現れる。
需要は75歳を超えてから増える 認定745万人、費用は年12兆2208億円
高齢者の総数が頭打ちでも、介護の需要は増える。必要になるのが75歳を超えてからだからである。
厚生労働省の介護保険事業状況報告(令和8年7月暫定版)によると、要介護・要支援の認定者は745万人で、第1号被保険者3588万人に対する割合は20.4%だった。費用の側では、介護給付費等実態統計の令和7年度の費用額累計が12兆2208億円で、令和6年度から2826億円(2.4%)増えている。令和3年度は11兆291億円だったので、4年間で1兆円以上増えた。
内訳を見ると、サービスを受けているのは居宅が452万人、地域密着型が94万3千人、施設が97万3千人である。施設のうち介護老人福祉施設が58万6千人、介護老人保健施設が33万7千人、介護医療院が5万3千人を占める。月ごとの認定者数の動きは 要介護・要支援の認定者745万人、1年で13万6803人増 65歳以上の20.4%が認定 85歳以上では59.7%、要介護5だけ654人減、年度ごとの費用額と都道府県別の状況は 介護サービスの費用、2025年度は12兆2208億円で4年続けて増加 利用者は685万1600人 1人あたり月額は鳥取23万3600円、埼玉19万6900円 にある。
つまり冒頭の「75歳以上が5年で260万人増えた」という数字は、そのまま認定者と費用の増加につながる。65歳以上という区分で人口が横ばいに見えても、制度の負担は増え続ける。制度の仕組みそのものは 要介護・要支援の認定は721万人、65歳以上の19.7% 介護保険の仕組みを数字で押さえる 総費用14.3兆円は保険料と公費が半分ずつ、自己負担は原則1割 で整理した。
支える人は増えない 介護の有効求人倍率3.98倍に対し全職業計は1.10倍
需要が増える一方で、供給は増えていない。しかもこの分野は、人を減らして回すことができない。
令和8年版厚生労働白書によると、2025年度の有効求人倍率は全職業計が1.10倍だったのに対し、介護関係職種は3.98倍だった。看護関係職種は2.10倍、障害福祉関係職種は3.28倍である。不足しているという事業所側の実感も数字に出ている。厚生労働省の労働経済動向調査(2026年2月)は、労働者数が「不足」と答えた事業所の割合から「過剰」と答えた割合を差し引いた値を労働者過不足判断D.I.として調べている。この値が大きいほど、足りないと答えた事業所が多いことになる。「医療,福祉」では正社員等が56、パートタイム労働者が34だった。全産業をまとめた調査産業計は正社員等が49、パートタイム労働者が28で、医療・福祉はどちらも上回っている。白書そのものの内容は 令和8年版厚生労働白書を公表 介護職の有効求人倍率3.98倍、病院の58.0%が経常赤字 テーマは「医療・介護・福祉の現場で働くこと」 にまとめた。
人が採れなければ、受け入れられる人数がそのまま減る。介護保険の施設では利用者3人に対して介護・看護職員1人という配置が運営基準で定められているためである。白書は、人手不足の深刻化が各事業所の提供内容と提供量を制約し、地域全体の提供体制に影響を及ぼすおそれがあると書いている。採用の現場で何が起きているかは 介護職の人材紹介手数料は平均59万7千円 医師は107万8千円で1年に25万4千円上昇 紹介で入った介護職の19.9%が6か月以内に離職 に詳しい。
給付の内容と単価は3年ごとの介護報酬改定で見直され、いまは令和9年度の改定に向けた議論が進んでいる。サービスの再編も論点に上がっている(夜間対応型訪問介護は2027年3月末で廃止 統合先の定期巡回に24時間対応を評価する新報酬案 グループホームは3ユニットの夜勤2人体制を拡大案)。
家庭の支え手も高齢になっている 75歳以上同士の介護が37.1%
不足は制度の外でも起きている。家庭で介護を担う人も、同じように高齢になっているからである。
2025年国民生活基礎調査によると、要介護者等と同居する主な介護者の年齢の組合せは、60歳以上同士が79.0%、65歳以上同士が61.9%、75歳以上同士が37.1%で、いずれもおおむね上昇傾向にある。要介護者から見た同居の主な介護者の続柄は、配偶者が22.5%で最も多く、子が18.2%だった。介護時間が「ほとんど終日」に達する人は15.8%おり、そのうち64.6%が配偶者である。要介護3以上になると「ほとんど終日」が最も多い区分になる。
なぜ配偶者が担うと高齢になるのかは、要介護者等の年齢を見ると分かる。最も多い年齢は男性で85〜89歳、女性で90歳以上である。その配偶者が介護を担えば、担う側も80代から90代に入る。前の節で見た「現場の人手が足りない」という状態は、家庭に代わりを求めても埋まらない。年次推移は 老老介護、75歳以上同士が37.1%で2001年以降で最高 2025年国民生活基礎調査 終日介護する人の64.6%は配偶者 で追った。
足りない分は本人が埋めている 毎月4万2434円の赤字と、働く943万人
制度の支えと家族の支えが足りない分は、本人が埋めている。貯蓄の取り崩しと、働き続けることである。
家計調査の2025年平均で、65歳以上の夫婦のみの無職世帯は、実収入25万4395円、可処分所得22万1544円に対して消費支出が26万3979円だった。差額分は4万2434円で、平均消費性向は119.2%になる。実収入のうち社会保障給付が22万8614円で、割合は89.9%である。単身の無職世帯では実収入13万1456円、可処分所得11万8465円に対し消費支出14万8445円で、消費性向は125.3%とさらに開く。内訳は 高齢夫婦の無職世帯、手取り22万1544円に支出26万3979円 毎月4万2434円の赤字 収入の89.9%が年金など社会保障給付 にまとめた。
毎月の不足を貯蓄で埋めきれない分は、働いて補うことになる。統計トピックスNo.149によると、65歳以上の就業者は943万人で、就業者全体に占める割合は13.8%と過去最高になった。働く人の7人に1人以上が65歳以上である。ただし雇われて働く65歳以上のうち76.1%が非正規の職員・従業員で、収入の安定という面では弱い。雇用の形と年齢別の内訳は 65歳以上の就業者943万人で22年連続増 働く人の7人に1人 雇われて働く高齢者の76.1%が非正規 にまとめた。
943万人という数字は、高齢者の意欲の表れとしてだけ読むと実態を見落とす。毎月4万2434円の赤字を埋める手段でもある。高齢者をどの年齢から高齢者と呼ぶか、制度ごとの年齢区分をそろえるべきかという議論も、この延長にある(「高齢者の定義」制度横断で総点検へ 上野厚労相が検討表明 医療・介護・雇用で異なる年齢区分、引き上げも視野)。
その「本人」が一人になる 2040年に単身高齢世帯1041万
自力で埋めるという前提も、これから崩れる。一人で暮らす高齢者が増えるためである。
国立社会保障・人口問題研究所の日本の世帯数の将来推計(令和6年推計)では、世帯主が65歳以上の単独世帯は2020年の738万世帯から2040年に1041万世帯へ増える。全世帯に占める割合は13.2%から18.6%になる。厚生労働省が市町村向けのセミナーで示した資料は、同じ2040年までに生産年齢人口が7509万人から6213万人へ減り、高齢者人口が3603万人から3928万人へ増えるという対比を並べている。支える人が減り、支えられる人が増え、しかもその多くが一人で暮らす。
一人で暮らすと、入院の手続や亡くなった後の事務を家族に頼めない。社会福祉法の改正でその支援が第二種社会福祉事業に位置づけられ、相談先として地域包括支援センターが明確化されたのは、この前提の変化に制度を合わせたものである。経緯は 身寄りがない高齢者の入院手続・死後事務の支援、第二種社会福祉事業に位置付け 相談は地域包括支援センターの対象に明確化 単身高齢世帯は2040年に1041万へ に書いた。住まいの側では有料老人ホームに登録制が入り、系列の介護事業所の利用を入居条件にする「囲い込み」の禁止と前払金の保全が論点になっている。施行は2027年12月で、既存のホームには1年の移行猶予がある(有料老人ホームの登録制、施行は2027年12月 既存ホームの移行猶予は1年で2028年12月まで 入居者紹介業者の優良認定制度は2027年度に運用開始)。前払金の保全措置がない施設への指導が改善につながっていない状況は 有料老人ホーム、前払金の保全措置がない施設が25か所 13か所に指導したが改善はゼロ 未届の施設は568か所で全体の3.1% で報じた。
買い物や通院の移動も自分で担うことになる。75歳以上に義務づけられている運転技能検査に「方向変換」を加える改正案が出ており、その根拠として、検査に合格した人の事故率が検査の対象にならない高齢者の2倍以上であることが示されている(75歳以上の運転技能検査に「方向変換」追加へ 警察庁が改正案 合格者の事故率は検査対象外の高齢者の2倍以上)。
相談できる相手が家にいない 消費生活相談の37.7%が65歳以上、人口比は29.4%
一人暮らしが増えることの帰結は、消費者被害にすでに表れている。
国民生活センターによると、契約当事者が65歳以上の消費生活相談は2025年度に33万497件で、2024年度の30万4674件から約2万5800件増えた。2021年度の25万1848件から4年続けて増えている。相談全体に占める割合は37.7%である。
65歳以上は総人口の29.4%だ。それに対して相談では37.7%を占めており、人口構成だけでは説明がつかない偏りがある。相談が多いとされる不審な電話や身に覚えのない請求は、いずれも相手から接触してくる形のものである。前の節で見た「単身高齢世帯が1041万世帯へ向かう」という見通しは、そうした接触を受けたときに、その場で相談できる相手が家にいない世帯が増えることを意味する。年齢層別の中身は 高齢者の消費生活相談、2025年度は33万497件 前年度から2万5800件増 85歳以上は訪問販売が21.5%で最も多い、急増している手口の実例は 分電盤の「点検商法」相談が6,545件 1年で1,290件から5倍に 契約者の8割超が70歳以上、平均約18万円 にある。
秋田県の40.0%は、全国が令和52年に迎える38.7%を既に超えている
ここまでの不足は、全国で同時に起きるわけではない。地域差は程度の差ではなく、時間の差である。
国勢調査の結果では、高齢化率は秋田県が40.0%で最も高く、高知県36.9%、青森県36.3%が続き、45道府県が25%以上である。最も低いのは東京都の22.8%で、沖縄県24.5%、愛知県25.8%がこれに次ぐ。2025年は全47都道府県で65歳以上の割合が15歳未満の割合を上回った年になった。2020年と比べると、大阪府を除く46都道府県で65歳以上の割合が上がっている。都道府県別の数字は 65歳以上の割合は秋田40.0%・東京22.8% 令和7年国勢調査の実測で全国29.4% 47都道府県すべてで15歳未満を上回る に詳しい。
注目すべきは、秋田県の40.0%が、内閣府が令和52年(2070年)の全国値として推計している38.7%を既に上回っていることである。国全体が40年以上先に迎えるとされる人口構成が、秋田県ではすでに現実になっている。介護の人手、家計、単身化という前の節で見た不足は、秋田県や高知県で先に、より強く出る。制度を全国一律で設計するより、先に局面へ入った県で何が起きているかを見るほうが、対策の順序は決めやすい。
支える側は現役2.0人から1.3人へ この構造は令和52年まで続く
この不足は一時的なものではない。これから数十年にわたって深まり続ける。
内閣府の令和8年版高齢社会白書によると、65歳以上1人に対する15歳から64歳の人数は、昭和25年には12.1人だった。令和7年には2.0人になり、令和52年には1.3人になると見込まれている。65歳以上の人口そのものは令和25年に3953万人でピークを迎え、その後は減少に転じると推計されている。しかし人口が減っても高齢化率は上がり続け、令和52年には38.7%に達する。75歳以上の割合も25.1%になり、約4人に1人が75歳以上という計算になる。白書そのものの内容は 高齢化率29.4%で過去最高 令和8年版高齢社会白書、2070年には「2.6人に1人」が65歳以上 に書いた。
国際的に見ても日本の水準は高い。国勢調査の結果に添えられた比較では、2025年の65歳以上の割合は日本29.4%に対し、イタリア25.1%、ドイツ23.7%、アメリカ18.4%となっている(日本以外は国連の年央中位推計)。世界全体の動きは 60歳以上が2050年に21億人へ 国連「高齢者の日」テーマは「長寿の時代」 100歳以上は4倍超、アジア太平洋は65歳以上が19.4%に に書いた。
支える側の不足として見ると、打てる手は絞られる
ここまで並べた数字のうち、将来の値は推計だが、それ以外は公表済みの実測値だ。そこから見えることは一つしかない。高齢化の問題は、高齢者が増えることではなく、支える側が足りなくなることである。
この形で捉えると、打てる手は絞られる。支える人の数そのものは、生産年齢人口が2040年までに7509万人から6213万人へ減ることが決まっているため、増やせない。残るのは、1人あたりが支えられる量を増やすか、支えられる側を減らすかである。前者は現場の生産性と報酬の設計、後者は健康寿命を延ばし働き続けられる形を作ることにあたる。
いま実際に進んでいるのは後者だが、制度が用意した道としてではない。65歳以上の943万人が働き、夫婦のみの無職世帯は毎月4万2434円を貯蓄から取り崩している。本人の努力による穴埋めだ。そして単身高齢世帯が1041万世帯へ向かうという見通しは、その穴埋めが続かなくなる人が増えることを示している。貯蓄が尽きたときに頼る相手が家にいない。消費生活相談の37.7%が65歳以上という偏りは、その弱さが既に出ている一例である。
秋田県では、国全体が40年以上先に迎える人口構成がすでに現実になっている。何から手を付けるかを決めるなら、推計の先を見るより、先に局面へ入った県で何が足りていないかを見るほうが早い。