外務省は10月9日、日本と英国の政府が科学技術協力の進み具合を確かめ合う「第13回日英科学技術協力合同委員会」を、同日に東京・霞が関の外務省で開いたと発表した。委員会の歴史で初めて双方の閣僚級が出席し、量子、AI(人工知能)、宇宙、研究セキュリティなど15分野の協力策をまとめたファクトシート付きの共同ステートメントを出した。
共同議長は両国外務省の科学担当、閣僚級は初めて
外務省の発表によると、合同委員会の共同議長は、日本側が川村裕・外務省科学技術協力担当大使、英国側がジョン・エドモンズ英外務・英連邦・開発省首席科学顧問兼リサーチ・エビデンス局長が務めた。両国の関係府省庁や研究機関の担当者が、対面とオンラインを組み合わせた形式で出席した。
会議の締めくくりには閣僚級のセッションが設けられ、日本側から古川俊治・内閣府特命担当大臣(科学技術政策)と関芳弘・文部科学大臣、英国側からクリス・マクドナルド・ビジネス・イノベーション・科学・貿易省閣外大臣(科学・イノベーション・投資担当)が加わった。共同ステートメントは、このセッションについて「日英科学技術協力合同委員会の歴史上初めて双方の閣僚級が出席するハイレベル・セッション」と記している。閣僚らは議論の概要の報告を受け、これまでの進み具合を確認したうえで、今後の協力の方向性を示したという。
同じ日の午前には、合同委員会に先立って「日英戦略的重要技術に関するラウンドテーブル」の第1回が開かれた。AI、量子、宇宙、エンジニアリング・バイオロジーの分野で活動する日英のスタートアップや大学などが、軍民両用の「デュアルユース」技術を含む最新の取り組みを紹介した。参加者は今後も二国間の対話の場などで、分野ごとに産官学で具体的な協力に向けた議論を続けることで合意した。
6月の首脳会談で打ち出した枠組みの「実行役」
今回の委員会は、6月に高市早苗首相が英国を訪れた際、ロンドンでの日英首脳会談で両首脳が打ち出した「日英フロンティア・テクノロジー・パートナーシップ(FTP)」のフォローアップとして開かれた。共同ステートメントは、合同委員会が科学・研究・イノベーションの目標に焦点を当てながらFTPの実現を支える二国間の枠組みの一つであることを再確認し、FTPに関わる項目の進み具合の確認や新しい機会の特定、具体的な実施の後押しを担うと明記した。
議論の土台として、日本側の第7期科学技術・イノベーション基本計画と「進化した自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」、英国側の2025年の科学技術フレームワークや産業戦略(Modern Industrial Strategy)が挙げられた。急速な技術の進展が国際秩序に大きな影響を及ぼしているとの認識の下で、「信頼できるイノベーション・エコシステム」をどう築くかを話し合ったとしている。
また、日本が欧州連合(EU)の研究開発支援の枠組み「ホライズン・ヨーロッパ」に準参加するための協定に署名したことを、委員会として歓迎した。両国はその下での共同研究に期待を示し、国内の連絡窓口どうしの連携を強める意志を確かめた。
日本は英国のほか、米国とも科学技術協力協定を結んでいる。日米は10月2日、科学技術協力の土台となる協定の有効期間を無期限とする議定書に署名している(日米の科学技術協力協定を無期限化 1月に9か月延ばしたばかりで、期限切れの半月前に署名 知的財産の附属書も改正)。
重点4分野は量子・AI・宇宙・研究セキュリティ
ファクトシートは、協力を進める15分野について目標と具体策を並べている。このうち「重点分野」とされたのは量子、AI・コンピューティング、宇宙、研究セキュリティの4つだ。
量子では、量子センシング、量子通信、量子コンピューターの研究開発で連携を深め、実用につながる使い道の開発を進める。日本の産業技術総合研究所の研究拠点や理化学研究所と、英国の国立量子コンピューティングセンター(NQCC)、国立物理学研究所(NPL)などの連携を挙げた。
AIでは、日本のAIセーフティ・インスティテュートと英国のAIセキュリティ・インスティテュートが、AIモデルの評価や情報共有などでの協力をさらに深める。日本で開かれるAIサミットの成功に向けて日英が連携することも盛り込んだ。文部科学省が3月に策定した「AI for Science」の戦略方針の下で、英国との共同研究や研究者の交流を進めるとしている。
宇宙では、1月に立ち上げが表明された「日英宇宙協議」の第1回協議を11月に開く予定と記し、宇宙安全保障や宇宙の持続可能性などを共通の優先事項に掲げた。研究セキュリティでは、重要技術や新しい技術を守るための実践例を共有し、重要技術の流出を減らす政策について同志国とも情報を共有するとした。
サイバー認証の相互承認、廃炉研究も
重点分野以外の11分野にも、生活や産業に近い項目が並ぶ。
サイバーセキュリティでは、日本の「JC-STAR」と英国のPSTI法の相互承認について、2025年11月に協力覚書を結び、2026年1月に運用が始まったことを踏まえ、「★2」以上の相互承認の可能性を探り続ける。さらに、2027年3月に日本で始まる予定のサイバーセキュリティ認証制度「SCS評価制度」と、英国の認証制度「サイバーエッセンシャルズ」について、将来の相互承認の可能性を議論していく。
原子力では、英国の工学・物理科学研究会議(EPSRC)と文部科学省が資金を出す「日英原子力研究プログラム2026」が6月に始まった。福島第一原子力発電所と英国のセラフィールドの廃止措置が抱える主な課題に取り組むことが目的だという。フュージョンエネルギー(核融合)では、6月に量子科学技術研究開発機構(QST)と英国原子力公社(UKAEA)が協力覚書に署名したことを歓迎した。
このほか、情報通信研究機構(NICT)とEPSRCによる次世代通信技術の共同研究公募が7月に始まり、採択されたプロジェクトは2027年に始まる見込み。農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)と英オックスフォード大学は、農薬や化学肥料を減らしつつ収量を保つ作物生産技術の共同研究を2026年度から始める。医療分野では、日本医療研究開発機構(AMED)と英国の研究機関が小児・若年者のがんの研究などで協力を続ける。
人材交流では、日本学術振興会(JSPS)の外国人研究者招へい事業で英国からの採用が2,500人を超えたことを踏まえ、英王立協会との覚書の締結を検討する。科学技術振興機構(JST)と英国研究・イノベーション機構(UKRI)は6月に初めての包括的な協力覚書を結んでいる。
1994年の協定に基づく会合、次回は2027年に英国で
合同委員会は、1994年6月に結ばれた日英科学技術協力協定の第4条に基づく政府間の枠組みだ。外務省によると、協定は1993年9月にメイジャー英首相が来日した際の首脳会談での合意をきっかけに協議が始まり、翌年に締結された。合同委員会は協定の実施に関わる政策について意見を交わし、協定に基づく活動や成果を検討する場で、日本と英国で交互に開いている。
外務省のページは開催の間隔を「およそ2年に1度」としている。直近では2016年11月に第10回をロンドンで、2021年10月に第11回をオンラインで、2023年12月に第12回をロンドンで開いた。今回は前回から2年10か月ぶりとなる。
共同ステートメントによると、日英は第13回の成果を確かめるため、次の合同委員会を2027年に英国で開くことで一致した。将来の協力の進め方を探るため、両国の研究資金の配分機関どうしの会合を2027年に開く計画も歓迎した。ファクトシートは、委員会がその内容のフォローアップを行い、産官学を巻き込んだセミナーや公開イベントなどの新たな取り組みを検討するとしている。
