文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は7月22日、日本のAI(人工知能)分野に投じられている研究開発費と、その担い手を集計した報告書を公表した。AI分野の研究開発費は2021年度の1744億円から2024年度は3235億円へと1.86倍に増えた。ただし研究開発費の総額に占める割合は、2021年度の0.9%から2022年度に1.4%へ上がったあと、2022年度以降は1.4%程度で横ばいが続いている。
報告書は「特定科学技術領域動向報告書 -AI(人工知能)- 研究開発インプット編」(DISCUSSION PAPER No.252)。著者は松本久仁子氏。数字の元になっているのは総務省の科学技術統計調査で、企業は資本金1億円以上の企業と大学等出資会社が対象となる。
増えたのは担い手の数で、1件あたりは3年前から動いていない
AI分野の研究を内部で実施している主体は、2021年度の839から2024年度は1145へ1.36倍に増えた。研究実施主体の総数に占める割合も7.7%から10.6%へ上がっており、AI研究に手を付ける組織そのものは着実に増えている。
伸びていないのは1組織あたりの金額だ。AI分野の1主体あたりの研究開発費は、2021年度の2.1億円から2022年度に2.8億円へ1.4倍になったあと、2022年度以降は増加傾向が見られない。AI分野以外と比べると約10分の1の規模にとどまる。報告書は、2022年度以降に増えた主体の多くを大学等が占めており、その研究開発費の規模が小さいことが原因だとみている。
額が大きいのは企業、比率で前に出ているのは公的機関 業種では電気・ガスが最高
内訳を見ると、担い手によって性格が違う。セクター別では、AI分野の研究開発費が最も大きく増えたのは企業で、2021年度から2024年度に2.3倍になった。AI分野の研究開発費全体に占める割合も、企業は2022年度以降65%を超える。大学等と非営利団体・公的機関はそれぞれ16%程度で並んでいる。
ただし、自らの研究開発費のうちどれだけをAIに振り向けているかで見ると、順序が入れ替わる。企業がAI分野に充てているのは研究開発費の総額の1%程度にとどまり、この比率が最も高いのは非営利団体・公的機関で、企業や大学等の2倍以上の水準にある。1主体あたりの金額でも非営利団体・公的機関が6億円程度で最も大きく、企業は2.4億円から4.2億円へ1.7倍に伸ばしたが届いていない。大学等は1億円の水準で横ばいだ。
2024年度にAI分野の研究を実施していた企業を業種別に見ると、情報通信業が39.0%で最も多い。次いで製造業32.0%、学術研究・専門サービス業12.5%、建設業7.6%で、上位4業種で約9割を占める。
ところが、その業種の研究実施企業のうち何割がAI研究に着手しているかで見ると、首位は電気・ガス・熱供給・水道業の36.4%になる。情報通信業は34.4%で2番目、企業数では2位だった製造業は3.8%にとどまる。製造業が数で多いのは、母集団となる研究実施企業全体の72.3%を製造業が占めているためだ。製造業の中でも差があり、鉄鋼業や生産用機械器具製造業などは9%程度に達する一方、食料品製造業と医薬品製造業は1%未満だった。
大学等と非営利団体・公的機関では、AI研究を実施する機関数は工学が300を超えて最も多く、全体の半数にあたる。研究開発費も工学が693億円で、大学等・非営利団体・公的機関の合計の64.2%を占める。大学等では工学分野の研究実施機関の45.6%がAI研究を実施していた。
資金調達した企業数は10番目、研究者の層では15番目
海外機関のデータを使った国際比較も載せている。スタンフォード大学の「The AI Index 2026」によると、2025年に新たに資金を調達したAI企業の数は米国が1953社で最も多く、2番目のイギリス172社の10倍以上にあたる。日本は56社で10番目だった。
一方、OECDのデータでAIスタートアップへのベンチャーキャピタル(VC)投資の件数を見ると、2025年の全体は約1万件で、米国3483件(34.4%)、中国2098件(20.7%)に次いで日本が637件で3番目に多い。件数では上位に入る。
研究者の層では順位が下がる。AI分野の著者・発明者数(2025年)で首位の米国は22万人、2位のインドは5万人、3位のドイツは4.8万人だが、日本は上位20か国の中でシンガポールと韓国に挟まれる15番目で、報告書も「シンガポールや韓国と同程度の規模」としている。ただし報告書は、非英語圏の国のデータは入手の制約により過小評価されている可能性があると注記している。研究の質をめぐる日本の位置についても、よく引用される論文の数、日本は世界13位 2022〜2024年平均で3163本 政府は2035年までに「世界3位」を目標にで同様の傾向が出ている。
企業がAIを実際に使っている割合(OECD、2023年)はOECD加盟国の平均が8.73%で、日本は9.2%で14番目。最も高い韓国は30.3%で、2位のデンマーク15.2%のほぼ2倍に達している。
AIは政府の重点6領域の1つ
AIは政府の集中投資の対象に位置づけられている。3月27日に閣議決定された第7期科学技術・イノベーション基本計画は、政策資源が有限であることを踏まえて「国家戦略技術領域」を6つに絞り込み、その1つに「AI・先端ロボット関連技術」を挙げた。ほかの5つは量子、半導体・通信、バイオ・ヘルスケア、フュージョンエネルギー、宇宙の関連技術だ。
同計画は支援措置として、研究開発税制に戦略技術領域向けの「戦略技術領域型」を創設し、既存の措置とは別枠の税額控除率・控除上限を設けるほか、3年間の繰越税額控除制度をつくるとしている。政府自身のAI関連予算も膨らんでおり、令和9年度の概算要求では政府のAI関連予算要求、2兆9392億円 今年度当初の5027億円から5.8倍 最大は経産省の基盤モデル開発8964億円となっている。今回の報告書は、その受け皿となる民間と大学の側について、主体の数は増えても1件あたりの投下額が2022年度以降動いていないという状況を示している。
