外務省は10月2日、日米の科学技術協力の土台となっている「日米科学技術研究開発協力協定」の有効期間を無期限とする議定書に署名したと発表した。同日午後5時から東京で、茂木敏充外務大臣と訪日中のマイケル・クラツィオス米国大統領府科学技術政策局長兼大統領科学技術顧問が署名し、その後約20分間の会談を行った。1988年の署名以来、期限付きの延長を繰り返してきた枠組みが、期限のないものになる。
無期限化と、知的財産の附属書の改正
署名された文書の正式名称は「科学技術における研究開発のための協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定の有効期間の延長及び一部改正に関する議定書」。外務省の発表によると、今回の署名で協定の有効期間が無期限化され、あわせて「知的財産に対する権利に関する附属書」の改正などがなされた。外務省は、無期限化によって「両国政府間の科学技術協力の法的基盤がより強固なものとなり、各種協力事業のさらなる促進が期待される」としている。
政府間の科学技術協力協定は、個々の共同研究そのものを決めるものではなく、共同研究の実施や研究者の往来、設備の相互利用といった協力事業を進めるための共通ルールを定めた取り決めである。研究から生まれた特許などの権利を誰がどう持つのかを附属書で先に決めておけば、協力案件ごとに条件を交渉し直す必要がなくなる。逆に有効期間が切れれば、その共通ルールが失われる。
1月に9か月だけ延長、期限は10月19日だった
外務省が1月16日に発表した内容では、同協定の有効期間は2026年1月19日に満了することになっていた。このため同日、東京で大西洋平外務大臣政務官とアーロン・D・スナイプ駐日米国臨時代理大使が「有効期間を延長する議定書」に署名し、1月20日から9か月間の延長が決まった。単純に数えれば期限は10月19日で、今回の署名はその半月余り前にあたる。短い延長でいったんつないだうえで、期限そのものを外した形だ。
外務省は1月の発表でも10月の発表でも、延長期間を9か月とした理由や、無期限化に向けた交渉の経緯を説明していない。
1988年のサミットで署名、合同委員会は協定第5条が根拠
外務省の説明によると、この協定は1988年6月、G7サミットの際に竹下総理大臣とレーガン米大統領が署名したもので、以後も累次にわたる延長と改正を経てきた。両国の科学技術協力関係全般の政策枠組みを設定したもので、第5条で政府間の討議の枠組みとして閣僚級の「合同高級委員会」と「合同実務級委員会」を置くことを規定している。実務レベルの対話は1988年9月にワシントンD.C.で初めて開かれた。
外務省が「日米科学技術協力」のページに掲げる開催実績では、閣僚級の合同高級委員会は2023年5月の第15回(東京)、実務級の合同実務級委員会は2024年8月28日の第17回(ワシントンD.C.)が最後である。第17回は嘉治美佐子外務省科学技術協力担当大使とラヒマ・カンダハリ米国務省次官補代理が共同議長を務め、量子技術、フュージョン、AIなどの協力の進捗を確認したうえで、半導体研究と人材育成、研究セキュリティ、オープンサイエンス、北極域や海洋・大気の研究について意見交換した。この回の発表には「来年の開催を予定している」合同高級委員会への言及があるが、その開催を伝える発表は同ページに載っていない。今回の会談で両者は、次回の合同委員会の開催に向けた調整を始めることを確認している。
会談では「黄金時代」と「AI(SI)」
署名式後の会談で、茂木外相は改正された協定の下で科学技術分野における日米協力の「黄金時代」を実現していきたいと述べた。そのうえで、外務省の発表が「AI(SI(超知能))」と記す先端技術分野における日米の取り組みに触れ、インド太平洋地域でのこの分野の協力をさらに進めることへの期待と、グローバル・サウス諸国で「安全、安心、信頼できる」AI(SI)エコシステムを構築するための日米連携の重要性を強調した。これに対しクラツィオス局長は、科学技術分野での日米協力をさらに促進する重要性を強調し、具体的な協力を進めたいと述べたという。
「AI」に「SI(超知能)」を併記するこの書き方は、米国側が使う用語に合わせたものだ。米ホワイトハウスは9月25日のファクトシートで、米中首脳が「該当する新興技術を指すのに『人工知能』ではなく『超知能』という用語を使うことで合意した」と記し、新設した枠組みも「米中超知能(SI)対話」と呼んでいる。もっとも、米中首脳会談の成果、両政府の公表文が食い違う 同じ枠組みを米国は「超知能(SI)対話」、中国は「人工知能対話」と記す 石炭1000万トンとレアアースは中国側の8項目に無しのとおり、この呼び方は相手国の発表と必ずしも一致していない。日本側の今回の発表は「AI(SI(超知能))」と両方を並べる表記だった。
外務省は科学技術分野の外交に力を入れる姿勢を示している。9月25日には沖大幹外務大臣科学技術顧問らの出席で「科学技術外交推進会議」の第1回会合が開かれ、第7期科学技術・イノベーション基本計画で「戦略的科学技術外交の推進」が柱の一つとされていることを踏まえ、外交課題の解決に科学を活かす「外交のための科学」と、外交を通じて日本の科学技術力の向上を支援する「科学のための外交」の双方を進める重要性が確認されている。
