国家公務員の月給とボーナスを引き上げる一般職給与法の改正案は10月30日、衆議院本会議で全会一致により可決され、11月4日に参議院内閣委員会へ付託された。人事院の試算では、行政職の職員の年間給与は平均で26万7000円増え、739万円になる。参議院の議案情報には、11月5日現在で委員会と本会議の議決がまだ記されていない。

月給は平均1万5056円増、初任給は9500円の引き上げ

法案の正式名は「一般職の職員の給与に関する法律等の一部を改正する法律案」(閣法第2号)で、内閣が10月9日に提出した。提出の理由には、人事院が8月7日に国会と内閣へ出した勧告を挙げている。政府は同じ10月9日に、勧告どおり改定すると閣議で決めた。

人事院は令和8年4月分の給与を民間と公務で調べ、役職や勤務地など条件の同じ者どうしを比べた。公務が民間を下回った差(官民較差)は1万5056円、率で3.51%である。内訳は俸給が1万1179円、後述の広域異動手当が2376円、俸給の改定に連動する諸手当の増減が1501円となっている。

事務系の職員に適用する行政職俸給表(一)の平均改定率は3.3%だ。職務の級ごとにみると、1級は4.0%、2級は3.6%、3級は3.4%、4級は3.1%、5級から10級は3.0%で、下の級ほど率が高い。人事院は、定期昇給分を加えたモデル試算で月収が約4.9%改善するとしている。

初任給は一律に9500円上がる。総合職試験(大卒程度)は25万1500円(3.9%増)、一般職試験(大卒程度)は24万1500円(4.1%増)、一般職試験(高卒者)は20万9800円(4.7%増)になる。法案の別表にある俸給表にも同じ額が載っている。行政職俸給表(一)の職員の平均月額は、42万8451円から44万3507円へ上がる。全職員の平均月額は改定前で43万9356円で、内訳は国家公務員の平均給与月額43万9356円 前年の42万4979円から1万4377円増 うち8万3099円は手当で、最も大きいのは地域手当の4万5518円で取り上げた。

職員の例 年齢 改定前の年間給与 改定後の年間給与 増える額
地方機関の係員(高卒初任給) 18歳 331万9000円 348万7000円 16万8000円
地方機関の係員(大卒初任給) 22歳 384万4000円 401万4000円 17万円
地方機関の係長 35歳 506万6000円 525万9000円 19万3000円
本府省の課長補佐 35歳 832万円 861万円 29万円
本府省の課長 50歳 1447万3000円 1488万3000円 41万円
行政職全体の平均 - 712万3000円 739万円 26万7000円
事務次官 - 2523万9000円 2609万円 85万1000円
人事院のモデル給与例(勧告の前と後)

出典: 人事院「本年の給与勧告のポイントと給与勧告の仕組み」

ボーナスの増額分は今年の12月期に上乗せ

ボーナスは年間4.65月分から4.70月分へ増える。公務の4.65月分に対し、民間の直近1年間の支給割合は4.72月分だった。増やす0.05月分は、在職期間に応じて支給する期末手当と、勤務成績を反映する勤勉手当に0.025月分ずつ振り分ける。

6月期はすでに支給済みのため、今年度は増額分を12月期にまとめて上乗せする。一般の職員の場合、12月期の期末手当は1.2625月分から1.2875月分へ、勤勉手当は1.0625月分から1.0875月分へ上がる。法案は第1条でこの12月期の割合を定め、第2条で2027年4月以降の割合に改める。来年度からは6月期と12月期がそろって期末手当1.275月分、勤勉手当1.075月分になる。

月給の改定は、法案の第1条による改正後の規定を令和8年4月1日にさかのぼって適用する。附則第4条は、改正前の規定で支払った給与を改正後の給与の「内払」とみなすと定める。4月以降に受け取った額は前払いの扱いになり、改定後の額との差だけを受け取る仕組みである。

差額の大きさは職員によって違う。大卒初任給の例では俸給が月9500円増えるので、俸給だけを単純に計算すると、4月から11月までの8か月分は7万6000円になる。ただし、差額を払う日は法案に書かれていない。自衛官の給与法案の差額は自衛官の俸給引き上げ、差額支給はいつ 2士は25万300円、4月にさかのぼり 給与法案が衆院通過で取り上げた。

このほか、宿日直手当の上限は通常の勤務で1回4700円から5000円に、医師と歯科医師の勤務で2万2500円から2万4000円になる。医師と歯科医師に払う初任給調整手当の上限は、月41万7600円から41万8600円へ上がる。

転勤に2つの手当、月4万3000円までの転居手当を新設

今回の法案で月給の次に大きい変更は転勤の手当である。人事院は勧告で、近年は職員が転勤を敬遠する傾向が高まっていると述べ、それでも全国規模で適正な人員配置を続ける必要があるとした。

まず、官署の間の距離に応じて俸給などに上乗せする広域異動手当の割合を上げる。60キロ以上300キロ未満は5%から8%へ、300キロ以上は10%から16%へ改める。この部分も4月にさかのぼって適用する。

次に、2027年4月1日に「転居手当」を新設する。転居の経済的な負担を軽くする手当はこれまで単身赴任手当で、単身赴任でない職員は対象にならなかった。法案は単身赴任手当のうち距離に応じた加算額を廃止し、その分を分離・再編して転居手当とする。単身赴任手当の基礎額の月3万円は残す。

新しい手当は、異動前の住居から60キロ以上離れた官署へ移って転居し、新旧の住居の間も60キロ以上離れた職員が対象で、原則として異動から3年間支給する。法案が定める月額の上限は4万3000円で、単身赴任手当を受ける職員は10万5000円となる。具体的な額は人事院規則で定めるが、人事院は勧告で次の案を示している。

新旧の住居の距離 単身赴任の職員(月額) それ以外の職員(月額)
60キロ以上100キロ未満 1万1000円 6000円
300キロ以上500キロ未満 3万円 1万3000円
500キロ以上700キロ未満 4万1000円 1万8000円
1100キロ以上1300キロ未満 7万円 2万9000円
2500キロ以上 10万5000円 4万3000円
転居手当の支給額の案(主な距離区分)

出典: 人事院「令和8年 報告文・勧告文」別表第7

人事院の例では、東京から大阪へ異動すると年額で約22万円、単身赴任者は約49万円になる。附則の経過措置により、2024年4月2日以降に異動して転居した職員も、2027年4月以降、通算して3年を経過する月まで対象になる。すでに転勤している職員も、この範囲なら新しい手当を受けられる。

年7日の無給休暇を新設、自治体の手当にも及ぶ

勤務時間法の改正も同じ法案に入っている。2027年4月1日に、理由を問わず年7日取れる「年次無給休暇」を新設する。休暇の時期は各省各庁の長の承認を受ける形で、公務の運営に支障がある場合などを除き、長は承認しなければならない。給与は勤務しなかった1時間ごとに減額する。

人事院は、親の介護に至る前の体調の変化や、災害による住居の損壊などで、既存の休暇を使い切った職員の備えと説明している。時間単位の使い方としては、いわゆる「小1の壁」や、妊娠の初期と後期の体調の変化に直面した職員が、一定の期間だけ短時間勤務をする例を挙げた。休日に勤務した職員の代休も見直す。現在の代休日を廃止して「休日勤務代休時間」を設け、休日の勤務が1日に満たなくても代休を指定できるようにする。

法案は自治体の職員にも及ぶ。附則は地方自治法第204条第2項を改め、自治体が条例で支給できる手当に広域異動手当と転居手当を加える。2027年4月1日の施行である。

自治体の給与改定も国の法改正を基準に動く。総務省は10月9日の副大臣通知で、改定の時期は国の給与法の改正を待つことを基本とするよう求め、給与条例の改正を議会で十分審議するよう要請した。地方自治法第179条に該当する場合を除き、首長の専決処分で改正しないことも求めている。

全会一致の法案、参院は支給日より前に結論を出せるか

衆議院では10月22日に内閣委員会へ付託され、10月28日に可決された。同じ日の委員会では、人事院勧告と特別職の給与法案なども合わせて扱われ、審議は全体で4時間19分だった(首相の俸給月額を215万8000円に 特別職給与法改正案が衆院通過、議員の閣僚は歳費のみ)。質疑の中身は、11月7日時点で会議録を確認できていない。10月30日の本会議では、自由民主党・無所属の会、中道、日本維新の会、国民民主党・無所属クラブ、参政党、チームみらい、日本共産党、志士の会が賛成し、反対の会派は記録されていない。

残る手続きは、参議院の内閣委員会と本会議での可決、そして公布である。法律は公布の日に施行する。人事院規則によると、12月期のボーナスの基準日は12月1日、支給日は12月10日だ。国会の会期は10月5日の召集から69日間で、延長が無ければ12月12日に終わる。

前年の改正法は12月8日に提出され、16日に成立し、公布は24日だった。支給日の後である。今年の提出は10月9日で、前年より2か月早い。公布が支給日より前なら、法律の上では12月期に改定後の月数を適用できる。各府省の支給の準備が間に合うかどうかは確認できていない。

この法案で参院に残る論点は、金額より時期だと本紙は考える。人事院の勧告文が述べるとおり、勧告制度は国家公務員の労働基本権を制約する代わりの措置である。職員は自らの給与を労使の交渉で決められず、国会の議決を待つことになる。衆院で反対の会派は無く、支給日までの期間も前年より長い。公布が支給日より遅れれば、各府省は差額を計算し直して別に払うことになり、国の法改正を待つ自治体の条例改正も遅れるおそれがある。給与を交渉で決められない職員の立場に立てば、参院は12月10日より前に結論を出すべきではないか。

国家公務員の給与は税金で賄う。増額の根拠は民間の4月分の給与との比較であり、民間が上げた分を公務に反映する仕組みである。一方、国費の総額は法案の条文、内閣人事局の法案概要、人事院の勧告資料には書かれていない。

人材の確保は国の仕事の水準を決める。川本裕子人事院総裁は8月7日の談話で、総合職試験の申込者が前年より約10%増えたと述べる一方、幹部職員の人事制度の見直しが急務だとした。転勤の手当は、全国に職員を配置する国の行政を保つための手段であり、この法案の中でも国の機能に関わる部分といえる。