総務省は10月9日、「海底ケーブル等の地方分散によるデジタルインフラ強靱化事業」で、国際海底ケーブルの分岐支線・分岐装置の設置などを手がける民間事業者4社を助成先に採択したと発表した。採択されたのはソフトバンク(北海道苫小牧市)、アイ・ピー・エス(和歌山県和歌山市沖)、アイ・ピー・エス・プロ(和歌山市)、四国電力(徳島県阿南市、阿南市沖)。財源は2025年度(令和7年度)補正予算に計上された400億円で、基金を通じて事業費の一部を助成する。

採択されたのは3地域・4社

助成を実際に出すのは、総務省の補助を受けて「デジタルインフラ整備基金(特定電気通信施設等整備推進基金)」を設けた一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)だ。CIAJが2026年6月5日から7月6日まで公募し、申請内容を審査したうえで4社を選んだ。総務省の事業ページでは、この公募を5回目と位置づけ、対象を「水底線路陸揚局整備事業および水底線路整備事業(国際海底ケーブル分岐支線・分岐装置等)」としている。

発表は採択した事業者名と実施場所だけを示しており、それぞれの事業費や助成額、どの国際ケーブルに接続するかは書かれていない。今後はCIAJと各社の間で所要の手続きを経て、事業が始まる。

分岐支線・分岐装置とは、海の中を通る国際ケーブルの本線から枝を出し、本線の陸揚げ地点とは別の場所へ回線を引き込むための線と装置を指す。海底ケーブルを陸に上げて国内の通信網とつなぐ建物は「陸揚局」と呼ばれる。分岐を設ければ、新たにケーブルを丸ごと1本敷かなくても、1本の国際ケーブルを複数の地点に陸揚げできる。

なぜ「房総・志摩以外」なのか

総務省は事業の概要資料で、特定の地域に集中している海底ケーブルなどのデジタルインフラは、災害を想定した場合に「我が国にとって大きな脆弱性の要因」になっていると説明している。そのうえで、災害時の国内通信の耐災害性を強める(冗長性を確保する)海底ケーブル網の整備を支援するとしている。

助成の対象地域は設備ごとに決められている。国際海底ケーブルの分岐支線・分岐装置と国内海底ケーブルは「房総・志摩以外の陸揚げ地域」。千葉県の房総半島と三重県の志摩半島を外した場所でなければ助成を受けられない。データセンターや陸揚局は東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)と大阪圏(大阪府、京都府、兵庫県)以外が対象で、大阪圏でも日本海沿岸の陸揚局舎は対象に含める。

助成率は分岐支線・分岐装置と国内海底ケーブルが事業費の5分の4、データセンターや陸揚局が2分の1で、海の中のケーブルの方が高い。

今回採択されたアイ・ピー・エスは、7月2日に公表した適時開示資料で、総務省が2025年6月に策定した「デジタルインフラ整備計画2030」が、データセンターの東京圏・大阪圏への集中、国際海底ケーブルの太平洋側への集中、陸揚局の房総半島と志摩半島への集中を課題として挙げていると説明していた。陸揚局は関東では千葉県と茨城県への分散が進みつつある一方、関西では三重県への集中が続いているとしている。

和歌山と苫小牧、各社が示していた計画

アイ・ピー・エスは同じ7月2日の資料で、和歌山県に国際海底ケーブルの陸揚局を新設し、同社が参画する日本とフィリピンを結ぶ新しい国際海底ケーブル「Candle」の支線を引き込む計画について、事業化を前提とした検討を本格化すると取締役会で決めたと発表していた。陸揚局は子会社のアイ・ピー・エス・プロの新規事業とし、特定の通信会社に依存しない「オープンアクセス型」で運営する方針を示している。投資額はケーブル支線と陸揚局・関連設備を合わせて総額約230億円規模を想定し、「公的支援制度の活用」も含めて事業の枠組みを検討するとしていた。和歌山を選んだ理由として、大阪圏の主要なデータセンター集積地につなぎやすい地理的条件を挙げている。

総務省の発表は事業の中身に触れていないが、採択された2社と実施場所(和歌山市、和歌山市沖)はこの計画と一致する。

ソフトバンクは2025年7月4日、前の公募で国際海底ケーブル分岐支線・分岐装置の事業が採択されたと発表し、アジアと米国を結ぶ国際海底ケーブル「E2A」の陸揚げ拠点を北海道苫小牧市と福岡県糸島市に新設するとしていた。既存の「ソフトバンク丸山国際中継所」(千葉県南房総市)に加えて拠点を分散し、国際通信網の強靱化を図るという。総務省がまとめた採択実績でも、2023年度補正予算分(2025年7月採択)として同社の「福岡県糸島市・糸島沖、北海道苫小牧沖」が載っている。今回の採択地は「北海道苫小牧市」で、前回の「苫小牧沖」とどう関係するのかは、総務省の発表からは確認できない。

四国電力の阿南市・阿南市沖の事業について、同社のプレスリリース一覧には10月13日時点で関連する発表は見当たらなかった。

基金は2021年度から積み増し、データセンターから衛星まで

デジタルインフラ整備基金は、2021年度(令和3年度)補正予算の500億円で始まった。CIAJの説明によると、その後、2023年度補正予算で305億円(自動運転向けのインフラ整備と国際海底ケーブルの多ルート化)、2024年度補正予算で120億円(データセンターの地方分散)、2025年度補正予算で400億円(今回の海底ケーブルの地方分散)と、低軌道衛星インフラ整備事業(J-LEO)の1500億円が積み増された。

これまでの採択はデータセンターが中心だった。総務省の採択実績によると、2022年6月の第1弾では北海道石狩市、福島県白河市、京都府相楽郡、大阪市、奈良県生駒市、島根県松江市、福岡市の7件、2025年9月の採択では北海道稚内市、秋田県男鹿市、栃木県栃木市、福井県美浜町、香川県坂出市、鹿児島県薩摩川内市の6件が選ばれている。データセンターの地方分散については、総務省が電力の余る地域へ計算処理を移す実証も進めている(AIの計算を電気の余る地方へ 総務省の分散データセンター実証7件が始動 三鷹・札幌・広島を光で結ぶ検証も)。

総務省の事業ページでは、2026年3月27日から6月30日まで、国内海底ケーブルと陸揚局を対象にした第4回公募も実施したとしている。第6回以降の公募は、詳細が決まり次第CIAJのウェブサイトなどで知らせるという。