会計検査院は、新型コロナウイルスと物価高への対応で国が交付した臨時交付金を積み立てた県の基金について、13県が使用見込みのない残高計49億6103万円を保有していたとして、10月15日に総務相へ改善の処置を要求した。検査院は国庫への返納手続きをとらせることなどを求めており、この案件は11月5日に高市首相へ手渡された令和7年度決算検査報告に載った。最多は鹿児島県の12億3267万円で、茨城、長崎を合わせた3県で全体の約64%を占める。
融資の保証料と利子を補う基金
対象になったのは、2種類の臨時交付金である。新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金は令和2年度から4年度に計18兆3259億円、物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金は5年度から8年度に計6兆6631億円が補正予算などで措置された。合わせると24兆9890億円になる。
自治体は実施計画を作って内閣府の確認を受け、交付金は総務省から受け取る。使い方には単年度の事業のほか、交付金を原資に基金を積み立て、複数年度にわたって取り崩す事業がある。今回問題になったのは後者だ。
基金の主な使い道は、信用保証料の補助と利子補給である。金融機関から融資を受けた事業者が本来負担する信用保証料を信用保証協会が減免し、自治体が減免分の全部か一部を協会へ支払う。支払額は、対象の融資の債務残高の平均に、自治体が定めた補助率を掛けるなどして算定される。融資の元本は通常、毎年返済されるので、支払額も年を追って小さくなる。
基金には2つの要件が付いていた。積み立てた年度の末までに対象の融資契約を結ぶことと、原則として積み立てた年度を含めて6か年度後の年度末(基金の終期)までに基金を廃止することである。令和4年度に積み立てた分の終期は9年度末、6年度の分は11年度末になる。複数の年度に積み立てた県では、終期も年度ごとに分かれる。
融資契約を年度末までに結ぶ決まりのため、融資額はその時点で確定する。検査院はこの点を根拠に、積み立てた年度ごとに将来の使用見込額を算出でき、返納の要否も検討できると指摘している。
18県を検査、13県で残高の73%に使い道なし
検査院は、4年度から6年度の事業で積み立て、終期が9年度末以降の基金残高を持つ18県を調べた。30事業で、7年度末の基金残高は計95億1356万円、うち交付金を充てた額は86億6963万円だった。総務省、内閣府本府と7県を実地で検査し、18県全てから調書の提出を受けた。
埼玉、富山、長野、岡山、沖縄の5県は、7年度末の残高計18億7140万円を終期までに全額使う見込みなどとしていた。残る13県は全額を使う見込みがないとしていた。
検査院は各県が算出した8年度以降の使用見込額を基に、残高から使用見込額を引き、今後の利息収入などの見込みを足して、使用見込みのない残高を算定した。13県の23事業の残高は計76億4216万円(交付金充当額は67億9823万円)で、このうち49億6103万円に使い道が無かった。積み立てた年度の末に確定した融資の合計額が、積み立ての際に見込んだ額を下回ったことなどが原因である。
| 県 | 基金残高 | 使用見込みのない残高 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 鹿児島 | 15億2534万円 | 12億3267万円 | 80.8% |
| 茨城 | 11億2551万円 | 10億8306万円 | 96.2% |
| 長崎 | 14億4451万円 | 8億4742万円 | 58.7% |
| 広島 | 7億8403万円 | 6億5448万円 | 83.5% |
| 宮崎 | 6億9629万円 | 5億1868万円 | 74.5% |
| 島根 | 2億3292万円 | 2億1775万円 | 93.5% |
| 熊本 | 2億1213万円 | 1億7931万円 | 84.5% |
| 静岡 | 9613万円 | 8384万円 | 87.2% |
| 福岡 | 4億1238万円 | 7698万円 | 18.7% |
| 三重 | 1億7593万円 | 3498万円 | 19.9% |
| 山形 | 2712万円 | 1696万円 | 62.6% |
| 高知 | 5943万円 | 855万円 | 14.4% |
| 宮城 | 642万円 | 629万円 | 98.1% |
| 計 | 67億9823万円 | 49億6103万円 | 73.0% |
金額が最も大きい鹿児島県は、4年度に積み立てた分だけで11億4627万円ある。茨城県も4年度分が10億7209万円を占め、残高の96.2%に使い道が無い。検査院が問題にしたのは基金の規模であり、報告に不正な支出や目的外の使用を指摘する記述はない。
昨年の指摘で様式を変えても確認できず
検査院がこの基金を取り上げたのは初めてではない。国会の要請を受けて参議院に出した7年12月の報告で、都道府県の基金全般について基金規模の妥当性を十分に確認するよう求め、この臨時交付金の基金についても、29県で返納の必要性を検討する余地があったと記していた。
当時の総務省の基金管理運営要領が示す「保有割合」の式にも欠点があった。年度末の基金残高を、それまでに積み立てた額で割るもので、値は必ず1未満になる。使い切れるかどうかを判断する指標にならないと検査院は指摘した。
総務省は8年3月、残高を次年度以降の使用見込額で割る式を新たに設け、自治体に周知した。ただ、積み立てた年度ごとの記載は求めなかった。18県の7年度分の状況報告書を見ると、15県が各年度分を合算した残高を記載していた。終期が年度ごとに異なるのに年度別の数字が分からず、新しい式も指標として機能しない状況だった。
総務省は13県が使用見込みのない残高を持っていることを把握しておらず、返納もさせていなかった。
一方の県の側にも事情がある。総務省は6年5月の事務連絡で、余剰金が生じる見込みなら終期前でも返納を検討するよう依頼していた。だが13県は、この事務連絡の主な目的は調査表の提出依頼だと受け止めていた。要領に終期前の返納が明記されていないこともあり、13県は検討を行わず、終期前に返す予定もないとしていた。検査院は原因として、13県の理解が十分でない点に触れたうえで、基金を管理する総務省の検討と周知が十分でなかったことを挙げた。
検査院が求めた3つの処置
会計検査院法第36条は、検査の結果、法令や制度、行政に改善を要する事項があると認めるとき、検査院が主務官庁などに意見を表示し、または改善の処置を要求できると定めている。同じ法律は、この規定で要求した事項とその結果を検査報告に載せることも定めており、総務省の対応は今後の報告でも確かめられる。
検査院が総務相に求めた処置は次の3つである。
1つ目は状況報告書の見直しだ。自治体が毎年度提出する報告書に、積み立てた年度ごとの支出額、次年度以降の支出見込額、年度末の残高などを記載させる。2つ目は基金管理運営要領の改正で、使用見込みのない残高は終期前でも返納の必要性を検討すると明記し、自治体に改めて周知する。3つ目は13県への対応で、終期までの使用見込額を確認したうえで、使用見込みのない残高の返納手続きをとらせる。
令和7年度決算検査報告の全体像は令和7年度決算検査報告、指摘金額1445億円で前年度の2.7倍 中小機構の案件が約6割で、同じ総務省の交付に関する指摘は震災復興特別交付税、1県15市町村に17億9261万円過大交付 精算漏れを検査院指摘で扱っている。
総務省がいつまでに要領を改めるかは、処置要求の本文には書かれていない。藤井総務相の11月6日の閣議後会見の概要にも、この件への言及はなかった。同じ会見で藤井総務相は、この冬の電気・ガス料金支援の対象にならない特別高圧電力やLPガスなどへの支援について、重点支援地方交付金による対応を関係省庁と調整していると述べている(LPガス・灯油の冬の負担軽減、交付金で検討 藤井総務相表明 夏の追加額1000億円を参考に)。
返すべき金を把握する仕組みが先に要る
緊急時の資金繰り支援で、融資の需要を多めに見込んで積み立てたこと自体は責められない。終期が来れば残りは国庫へ返納する定めで、金が消えるわけでもない。
問題は、融資額が確定した時点で余りを計算できたのに、その作業をする仕組みが無かったことだ。13県の交付金充当分の73%に使い道が無く、このままなら、最も遅いもので11年度末まで県の基金に留まる。その間、国費は事業にも国の財政にも使われない。
総務省の対応は公金の管理として不十分である。昨年12月の報告で課題を示され、様式を改めながら、積立年度ごとの記載は求めなかった。終期前の返納の検討も調査表の提出依頼などの事務連絡で伝えただけで、要領には書かなかった。指摘額は交付金全体から見れば小さいが、同じ指摘を受けた後でなお過大かどうかを確認できなかった点は、金額の大小で軽くならない。
交付金の原資を負担する納税者の立場に立てば、総務省は13県の返納額と時期を県ごとに示し、要領の改正と報告書の様式変更を、物価高対策の新たな交付金の配分より前に済ませるべきではないか。新たな国費を配る省が、前に配った国費の余りを把握できないままでは、次の配分の規模が妥当かどうかも説明できないからだ。
