総務省は5日、災害時に自治体が開設する「臨時災害放送局」と、催事に合わせて開く「イベント放送局」について、無線設備の操作に必要な資格を緩める電波法施行令の改正政令を公布した。6日に施行された。これまでの第二級陸上無線技術士以上から、地域のコミュニティFM局と同じ第二級陸上特殊無線技士以上へ広げる。総務省の事前評価書によると、対象となる資格の保有者数は9万5783人から172万4056人に増える。

被災地の自治体が開くFM局

臨時災害放送局は、暴風や豪雨、地震などの災害が起きたときに、被害の軽減に役立てるため被災地の自治体などが開設する臨時のFM放送局である。阪神・淡路大震災の経験を踏まえて1995年2月に制度化された。開設の際は「臨機の措置」として口頭で申請し、免許を受けられる。放送できる番組は、被災者への支援や救援活動の円滑な実施に必要な範囲に限られる。

総務省の検討チームが2025年9月にまとめた報告によると、これまでに55局が開局し、避難所の情報やライフラインの復旧情報を伝えてきた。ただ報告は、2024年の能登半島地震をはじめ、近年の災害では開局していないと記している。その要因の一つに挙げたのが、操作に必要な資格を持つ人員の確保の難しさだった。

設備そのものは国が用意している。関東総合通信局の手引きによると、同局は設備を2式備蓄して市町村などに無償で貸与でき、災害が広域に及ぶ場合は全国の総合通信局など11局所から機材を移送する。これに対し、設備を操作する有資格者と、番組を担うスタッフの確保は開設する自治体の役割となる。

高知県は2025年3月の検討チームの会合に、県内の香南市と黒潮町が臨時災害放送局を整備しているものの利用実績は無いとする資料を出した。放送中は高い資格を持つ人が常駐しなければならず、整備の「ハードルが高い」と説明している。香南市は、無線従事者の支援を受けるため地元のケーブルテレビと協定を結んでいた。

除外の一文を削り、操作できる資格を4種類追加

改正の中身は短い。電波法施行令第3条第2項第6号は「コミュニティ放送局」を定義しており、その中の「ただし、同法第八条に規定する臨時かつ一時の目的のための放送であるものを除く」という但し書きを削った。これにより、コミュニティ放送の区域で受信されることを目的とする臨時災害放送局とイベント放送局は、施行令の上でコミュニティ放送局として扱われる。

コミュニティ放送局は1992年1月に制度化された市区町村単位のFM局で、2026年1月1日現在、47都道府県で342事業者が放送している。その操作資格は、2019年の施行令改正で先に緩和された。周波数や出力の調整の自動化が進み、外部の操作だけで動かせるようになったことが理由である。臨時の局だけが除外されて、上位資格のまま残っていた。

その結果、同じ機材を使っていても資格が分かれる状態が続いた。検討チームの報告は、コミュニティ放送局の設備を災害時に臨時災害放送局として使う場合、諸元が変わらなくても、コミュニティ放送局の資格では操作できないと指摘している。

日本コミュニティ放送協会が検討チームに示した資料には、2016年の熊本地震で熊本シティエフエムが4月18日から30日まで通常放送を休み、熊本市を主体とする臨時災害放送局に切り替えた例が載っている。運営は同社が担い、費用は熊本市が負担した。協会は、地域内で資格者を確保するのが難しいとして要件の緩和を求めてきた。

資格 保有者数 国家試験手数料 改正前 改正後
第一級総合無線通信士 1万465人 2万6000円 操作可 操作可
第一級陸上無線技術士 5万3973人 1万8800円 操作可 操作可
第二級陸上無線技術士 3万1345人 1万6400円 操作可 操作可
第二級総合無線通信士 1万7019人 2万3300円 不可 操作可
第三級総合無線通信士 3万353人 1万5000円 不可 操作可
第一級陸上特殊無線技士 25万7437人 7200円 不可 操作可
第二級陸上特殊無線技士 132万3464人 6900円 不可 操作可
臨時災害放送局を操作できる資格(保有者数は2026年5月現在、手数料は2026年10月の予定額)出典: 総務省「規制の事前評価書」

関東の調査、上位資格がいる自治体は2〜3団体

緩和の根拠として総務省が示した数字は二つある。一つは年齢だ。これまで操作できた上位3資格の保有者のうち、50歳以上70歳以下が約6割を占める。

もう一つは、関東管内の263自治体を対象に2024年11月に行ったアンケートである。回答率は77%だった。第一級陸上無線技術士の保有者がいる自治体は3、第二級陸上無線技術士は2にとどまり、第二級陸上特殊無線技士の保有者がいる自治体は101あった。

資格の保有者がいる自治体の数(関東管内)(団体)

三陸特147二陸特101一陸技3二陸技2
三陸特は第三級陸上特殊無線技士、二陸特は第二級陸上特殊無線技士、一陸技は第一級陸上無線技術士、二陸技は第二級陸上無線技術士。三陸特は今回の緩和の対象外出典: 総務省「規制の事前評価書」
数値で見る(単位: 団体)
項目団体
三陸特147
二陸特101
一陸技3
二陸技2

評価書は最も多い第三級陸上特殊無線技士の147団体も並べているが、今回操作が認められた資格にこの級は含まれない。緩和で新たに開設できるようになる自治体の手がかりとなる数字は、第二級の101団体である。

職員に受験させる費用も下がる。国家試験の手数料は第二級陸上無線技術士の1万6400円に対し、第二級陸上特殊無線技士は6900円で、評価書は自治体が補助する場合の負担が9500円減るとしている。外部に委託していた運用費用を削減できる可能性にも触れたが、金額には換算していない。

意見21件、修正は新旧対照表の誤記だけ

総務省は9月5日から10月9日まで意見を募集し、個人20件と日本コミュニティ放送協会の計21件が寄せられた。多くは賛成で、自治体で臨時災害FM局を担当しているという個人は、これまで職員だけでは運用できない課題が残っていたと述べた。修正は、個人が指摘した新旧対照表の誤記の1件だけだった。

反対や懸念もあった。現役の地方公務員という個人は、イベント放送局の緩和には賛成しつつ、災害時に質の悪い局が乱立して他の通信に影響するおそれがあるとして、講習の受講を条件にする案を出した。総務省は、免許の際に他の無線局の運用に影響を与えないよう放送区域などを審査すると答えた。

出力を巡る指摘もあった。ある個人は、第二級陸上特殊無線技士の操作範囲は50W以下なのに臨時災害放送局の設備は100W以下だとして、矛盾を問うた。コミュニティ放送局の出力は原則20W以下と定められている。総務省は、コミュニティ放送局の無線設備の外部の転換装置を操作する範囲には空中線電力(アンテナへ送る電力)の制限が無く、臨時災害放送局も同じ扱いになると回答した。出力は放送区域をカバーする必要最小限の値を指定する。

新たな資格者に認められるのは、電波の質に影響を及ぼさない外部の操作に限られる。総務省によると、外部の転換装置とは電源の入切や周波数の切り替えの装置などを指す。電波の質とは周波数のずれや不要な電波の強さの許容値のことで、影響の有無は「実際に操作する無線従事者が最終的に判断する」と説明した。

すでに開設している局は上位資格者を選任済みのため、追加の配置は要らない。無線従事者の制度全体は、9月に設けられた総務省の作業班で別に検討が続いている。業界からの要望は無線従事者資格、区分の集約や「3時間で駆けつけ」緩和を要望 総務省作業班で6団体が伝えている。

172万人は「動ける人」の数ではない

今回の改正は理にかなっている。同じ機材を動かすのに、平時は第二級陸上特殊無線技士で認められ、災害時には上位資格を求める理由は、機器の自動化が進んだ後では説明が難しかった。被災地の住民に情報を届ける手段を増やす判断として評価できる。

ただ、172万人は資格ごとの保有者数を足した数字であり、災害時に現地で操作できる人の数ではない。資格は一度取れば生涯有効で、保有者数は無線の業務に就いている人の数を示すものでもない。ある個人は意見募集で、実際に配置できる人数や地域の偏り、能登半島地震での影響を定量的に示すよう求めた。総務省は、網羅的、定量的に示すことは困難だと回答している。

検討チームの報告も、資格を開局が進まない要因の「一つ」と位置づけ、運営スタッフの確保や周波数の事前通知を別に挙げた。資格を緩めただけで開局が増えるとは限らない。協定で要員を決めている自治体の数は、今回確認した公表資料からは分からなかった。

総務省は周知を予定しているが、市区町村の防災担当者向けに書かれた関東総合通信局の手引きは、11月7日時点で本文も問22の答えも上位資格が必要と記したままである。住民に情報を届ける側の立場からは、改正に合わせて早く改めるべきではないか。事後評価は施行後おおむね5年以内に、選任届の集計などで行うとしている。意見募集では個人が開局までの時間も把握するよう求め、総務省は「今後の評価の参考」とすると答えた。国が機材を備蓄している以上、次の災害で開局までにどれだけかかったかを測り、公表すべきではないか。