公立学校の非常勤の学校医、学校歯科医、学校薬剤師が公務で病気になったときの補償について、一部の病気に限って請求できる期間を2年から5年に延ばす改正案が、11月6日の衆院本会議の案件に載った。衆院文部科学委員会は10月30日に可決している。本会議の結果は、6日夜の時点で衆議院の議案審議経過の欄が空いており、確認できていない。

改正案が変えるのは時効の1条だけ

対象の法律は、1957年に定められた「公立学校の学校医、学校歯科医及び学校薬剤師の公務災害補償に関する法律」だ。現行の第9条は、補償を受ける権利は行使できる時から「二年間(障害補償及び遺族補償については、五年間)」行使しないと、時効で消滅すると定めている。

改正案が書き換えるのはこの第9条で、ほかの条文には手を付けない。療養補償、休業補償、介護補償、葬祭補償の4種は原則の2年を残す。そのうえで、原因となった病気が政令で定めるものであれば、この4種の期間を5年にする。障害補償と遺族補償の5年は変わらない。

療養補償は治療の実施か費用の支給、休業補償は療養で働けず収入を得られないときの補償を指す。介護補償は障害で介護を受けているときの補償で、葬祭補償は公務で亡くなったときに葬祭を行う人へ支払う。

仮に、対象の病気で療養補償を請求できるようになった時から数えると、これまで2年後に消えていた権利が5年後まで残る。請求できるようになったのが2028年5月なら、期限は2030年5月から2033年5月に移る計算だ。

対象の病気はこれから政令で決まる

5年になる病気について、改正案は「その性質上」補償の事由に当たるかどうかを「容易に判断することができない疾病として政令で定めるもの」と書くだけで、病名を挙げていない。公務が原因かどうかの見極めが難しい病気を、後から政令で指定する仕組みだ。

学校医らの政令の中身は、今回確認した法案と審議経過の資料には書かれていない。手掛かりになるのは、先行する制度の説明である。人事院は2026年の勧告で、国家公務員について「脳・心臓疾患、精神疾患等を想定している」とし、対象は「民間労働法制も踏まえて検討していく」と記した。総務省の概要は、地方公務員について脳・心臓疾患、精神疾患、石綿関連疾病を想定すると注記している。

施行日は2027年4月1日だ。附則の経過措置は、施行日より前に生じた、政令で定める病気に相当する病気による事故について、時効は「なお従前の例による」としている。施行前の事故が原因なら2年のままで、5年になるのは施行後の事故が原因の補償に限られる。

学校医らは学校の健康管理を担う非常勤

学校保健安全法の第23条は、学校に学校医を置き、大学以外の学校には学校歯科医と学校薬剤師も置くと定める。いずれも医師、歯科医師、薬剤師のうちから任命か委嘱を受け、学校の保健管理の専門的な事項について技術と指導に従事する。

仕事の中身は学校保健安全法施行規則に並ぶ。学校医は健康相談、保健指導、健康診断のほか、感染症の予防に関する指導と助言、校長の求めによる救急処置に当たる。学校歯科医は歯の検査、学校薬剤師は学校の環境衛生検査を受け持つ。

この人たちの公務災害を補償するのは、学校を設置する地方公共団体である。補償の法律の第2条は、地方公共団体が設置する学校の「非常勤」の学校医らの公務上の災害に対し、補償を行わなければならないと定めている。補償は療養、休業、傷病、障害、介護、遺族、葬祭の7種で、範囲と金額は政令の基準に従って各地方公共団体の条例で定める。学校医を辞めても、補償を受ける権利は影響を受けない(第8条)。

第4条には、この法律が国の制度の変更に合わせて動く理由が書かれている。政府は基準を定めるとき国家公務員災害補償法を参しゃくし、補償が、同じ学歴と経験年数を持つ常勤の国家公務員の医師らと「おおむね同程度」になるようにしなければならない。改正案の提出理由も「国家公務員災害補償制度が見直されることを踏まえ」と記している。

民間と公務員の制度を同じ日にそろえる

民間の労災保険では、同じ見直しが先に決まった。労働者災害補償保険法等の改正法は7月10日の参院本会議で可決され、7月17日に令和8年法律第60号として公布された。参議院の議案要旨によると、対象の病気について保険給付の時効を2年から5年に延ばし、一部を除いて2027年4月1日に施行する。

公務員の側は法律が別で、民間の改正だけでは変わらない。国家公務員と地方公務員の改正案は10月9日に提出され、いずれも10月30日の衆院本会議で全会一致で可決された。時効の見直しは、それぞれ遺族補償年金の見直しとともに盛り込まれている(国家公務員の遺族補償年金、夫にだけある年齢要件を撤廃へ、地方公務員の遺族補償年金、夫の年齢要件を撤廃へ 改正案が衆院通過)。学校医らの法案も同じ10月9日に衆議院が受理している。

制度 法案 時効の見直しの状況
民間の労災保険 第221回国会 閣法56 7月17日公布。2027年4月1日施行
国家公務員 第222回国会 閣法4 衆院可決。11月4日に参院内閣委員会へ付託
地方公務員 第222回国会 閣法5 衆院可決。参議院が10月30日に受理
公立学校の学校医ら 第222回国会 閣法8 10月30日に衆院文部科学委員会で可決。本会議の結果は未確認
公務災害と労災の時効を5年にする法改正の状況(11月6日夜時点)

出典: 衆議院の議案審議経過、参議院の議案要旨

学校医らの法案は10月27日に衆院文部科学委員会へ付託された。翌28日の委員会で関芳弘文部科学相が趣旨を説明し、委員会は30日に可決している。

6日の本会議の審議中継には、この法案が6件の案件の一つとして載り、発言者に鈴木憲和文部科学委員長の名がある。議案審議経過によると参議院は10月9日に予備審査の議案を受理したが、本付託の欄はまだ空いている。

成立した場合も、対象の病気は政令が出るまで定まらない。補償を行う義務を負うのは学校を設置する地方公共団体で、補償の認定などに異議があるときは、その地方公共団体の人事委員会か公平委員会に審査の請求をすることができる(第5条)。