日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟国が、サイバーセキュリティ政策をすり合わせる「日ASEANサイバーセキュリティ政策会議」の第19回会合が10月27、28の両日、タイの首都バンコクで開かれた。総務省、内閣官房の国家サイバー統括室、経済産業省が29日に連名で結果を公表した。各国の今後の取り組み方針を共有し、共同のサイバー演習や重要インフラ防護のワークショップなど8分野の協力の成果を確認した。そのうえで、官民を含めた日ASEAN間の連携を一層強めることで合意した。第20回は来年10月ごろに日本で開く予定だ。
議長は日本とタイ、日本からは4府省が出席
3府省の発表によると、会議の議長は日本とタイの両国が務めた。日本側の議長は笹川平和財団上席フェローの髙見澤將林氏。タイ側は国家サイバーセキュリティ庁のティーラウット・ウィッタヤコーン代理局長と、同庁スペシャルエキスパートのシリネート・ラックウォン氏が務めた。
出席したのは、ASEAN加盟国のサイバーセキュリティを担う省庁と情報通信を担う省庁、ASEAN事務局、日本の国家サイバー統括室、総務省、外務省、経産省だ。政府の情報システムを守る部署、通信事業を所管する部署、産業界のセキュリティを所管する部署、外交を担う部署が、それぞれの立場で同じ席に着く構成になっている。
議長を日本と開催国が共同で務める形は、近年の会合で続いている。2025年10月に東京で開いた第18回は日本とラオスが、2024年10月にシンガポールで開いた第17回は日本とシンガポールが議長を務めた。日本側は3回とも髙見澤氏だ。
2日間の会合では、各国のサイバーセキュリティ政策の方向性について情報を交換した。日ASEANで進めている協力活動の成果を確かめ、今後の協力のあり方を話し合った。発表は議論の個別の中身や、新たに合意した事業の名前には触れておらず、共同声明の添付も無い。
協力は演習・相互通知・便覧など8分野
今回、成果を確認した協力活動は次の8分野だ。いずれも前年の第18回で合意したものになる。
| 協力活動 | 主な中身(第17回の発表による) |
|---|---|
| 日ASEANサイバー演習 | 情報連絡演習と机上演習 |
| 共同相互通知 | 他国での侵害を検知した際に知らせ合う |
| 重要インフラ防護ワークショップ | 電力・通信などの防護を議論 |
| 政策便覧の策定 | 各国の最新の取り組みを整理 |
| 共同意識啓発 | 学生向けビデオコンペ |
| 産学官連携 | 民間団体の連携組織の活動 |
| 能力構築 | 人材育成の研修 |
| ワーキンググループ運営 | 第19回発表では中身の記載無し |
出典: 総務省・国家サイバー統括室・経済産業省「第19回 日ASEANサイバーセキュリティ政策会議の結果」、総務省「第17回 日ASEANサイバーセキュリティ政策会議の結果」
それぞれの中身は、2024年の第17回の発表が詳しい。演習は、日ASEANで決めた情報共有の標準運用手順書に沿い、大規模なサイバー攻撃が起きたと想定して連絡を回す「情報連絡演習」と、その振り返りやAIなどの技術の進展を踏まえた政策の備えを議論する「机上演習」の2本立てだ。2025年からこの新しい方針で実施することが第17回で承認された。
相互通知は、ある国が他国に関わる侵害を見つけたときに知らせ合う仕組みだ。第17回では、共有する情報の種類や標準の書式についての検討結果が報告された。政策便覧は、ASEAN加盟国と日本のサイバーセキュリティの最新の取り組みを整理した資料だ。第17回では2024年版の策定結果が報告され、2025年版の策定方針が承認された。
重要インフラとは、電力、通信、金融、交通など、止まると市民生活や経済に大きな影響が出る社会の基盤を指す。2024年8月には大阪でワークショップを開き、サイバー危機の下での重要インフラ防護と、工場や発電所の制御システムを守る「OTセキュリティ」を主題に、7人の講演者が各国の取り組みを紹介した。
第17回の発表で、前年の第16回で合意した協力として挙げていたのは7項目だった。2025年の第18回以降は、ここに「ワーキンググループ運営」が加わり8項目になっている。
2009年に「情報セキュリティ政策会議」として始まる
この会議は、サイバーセキュリティ分野で日本とASEAN諸国の連携を強めることを目的に、2009年から毎年ほぼ1回開いてきた。第1回は2009年2月24、25の両日、東京で開かれた。当時の名前は「日・ASEAN情報セキュリティ政策会議」で、出席者は日本とASEAN加盟10か国の経済・投資担当省庁と情報通信担当省庁の局長・審議官級だった。日本経済団体連合会や通信事業者なども加わった。
第1回の開催を知らせた総務省の発表は、目的として3つを挙げていた。ASEANに進出する日系企業が安全に情報をやり取りできる事業環境をつくること、企業活動を支える情報通信基盤の安全性と信頼性を高めること、各国の情報セキュリティの国家戦略を充実させることだ。日本企業の東南アジア進出を支える意味合いが当初から強かった。
開催地は、日本とASEAN側で交互に移してきた。総務省によると、第2回は2010年3月にバンコク、第3回は2011年3月に東京、第4回は同年11月にクアラルンプール、第5回は2012年10月に東京、第6回は2013年10月にマニラ、第7回は2014年10月に東京、第8回は2015年10月にジャカルタで開いた。近年も第16回が東京、第17回がシンガポール、第18回が東京、今回の第19回がバンコクと、交互の形が続いている。
2013年9月には、閣僚級で協力を話し合う「日・ASEANサイバーセキュリティ協力に関する閣僚政策会議」も東京で開いた。前年の日・ASEAN情報通信大臣級会合で、日ASEAN友好協力40周年の記念事業の1つとして開くことが決まったものだ。
日本側の主催者の名前も変わっている。2024年の第17回までは内閣官房の内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が総務省、経産省と並んで主催に名を連ねていたが、2025年の第18回と今回の発表では、内閣官房の担当は国家サイバー統括室となっている。
人材育成はバンコクの能力構築センターが拠点
協力の8分野のうち能力構築を担う拠点が、今回の会場と同じバンコクにある。2018年9月に開所した「日ASEANサイバーセキュリティ能力構築センター(AJCCBC)」だ。総務省によると、日本政府が拠出する日ASEAN統合基金(JAIF)の資金で、タイのデジタル経済社会省の傘下にある電子取引開発機構(ETDA)が人材育成の事業を運営する形で始まった。設置は2017年の日ASEAN情報通信大臣会合で合意していた。
設立時の計画では、ASEAN各国の政府機関でサイバー対策を担う職員らをセンターに集め、情報通信研究機構(NICT)が国内で手がける実践的サイバー防御演習「CYDER」を受講してもらうとしていた。総務省はその後もCYDERをはじめとする演習の教材を提供し続けている。CYDERは、行政機関や重要インフラ事業者のシステム担当者向けの体験型演習で、サイバー攻撃を受けた想定で対処の手順を身につける。
センターは2025年8月、バンコクのタイ国家サイバーセキュリティ庁(NCSA)の中に新しい施設を構えた。総務省は同月、18日に開所の式典を開き、同日から22日まで、NCSAと国際協力機構(JICA)の技術協力事業として第38回のサイバーセキュリティ技術演習を行う予定だと発表した。この演習に向け、総務省はランサムウェア(身代金要求型ウイルス)攻撃を想定した新しい教材を提供した。センターの発表によると、2025年8月時点で、ASEAN加盟国の専門家ら2000人超を事業の催しに受け入れた。
日本政府は、インド太平洋の各国とのサイバー協議を重ねている。10月には外務省のサイバー政策担当大使が日米豪印と日米比の会合に相次いで出席し、能力構築支援や重要インフラの防護も議題に上った(日米豪印と日米比、シンガポールでサイバー会合 同じ日に2つの枠組みで協議)。
第19回会合の発表は、次の第20回を来年10月ごろに日本で開く予定だとしている。
