国連人権理事会の独立国際事実調査団は、イランに関する報告書を9月14日付で人権理事会に提出し、2026年2月28日にイラン南部で起きた空爆2件について、米国が実施したと信じるに足る「合理的根拠がある」と認定した。調査団は2件をいずれも国際人道法が禁じる無差別攻撃にあたるとし、「戦争犯罪」を構成すると結論づけている。
調査団は2022年に人権理事会が設置した独立機関で、国連職員ではない専門家で構成される。任期は決議S-39/1により第67会期末まで延長された。今回の報告書(文書番号A/HRC/63/61)は、9月7日から10月9日まで開かれている第63会期の議題4に提出された。イラン内外の73人(男性39人、女性32人、少年2人)への聞き取りに加え、衛星画像や検証済みの映像、兵器の専門家の分析を組み合わせてまとめられている。
小学校に2発 156人のうち120人が児童
1件目は、ホルモズガン州ミナブにあるシャジャレ・タイエベ小学校への攻撃だ。6〜13歳の男女が通う学校で、2月28日の午前10時半から11時半ごろに被弾した。学校は革命防衛隊の海軍施設に隣接し、最も近い軍事施設との距離は約72メートルだったが、2013〜16年ごろに築かれた壁で完全に仕切られ、公道に面した独自の門を持つ別の敷地として機能していた。外壁には子ども向けの壁画が描かれ、校名の看板と遊具もあった。調査団は「攻撃時に学校が軍事目的で使われていたことを示す情報はない」としている。
遺族や生存者の証言では、学校は短い間隔をおいて2回撃たれた。1発目が下の階に当たったため校長と教職員が児童を上階の礼拝室へ移動させたところ、2発目がその上階を直撃したという。調査団は、隣接する軍事施設への攻撃の巻き添えや誤射ではなく、校舎自体が着弾点として狙われたと判断した。
ミナブのエブラヒム・タヘリ検事は4月9日、死者の最終集計を156人と発表している。内訳は児童120人(男子73人、女子47人)、教職員26人(全員女性)、保護者7人、スクールバスの運転手1人、近くの薬局の技師1人。地元の赤新月社の関係者は、負傷者が別に110人いたと地元メディアに語った。兵器の専門機関は、現場から回収された残骸の写真と映像の機影から、使われたミサイルを米国製のトマホーク巡航ミサイル(RGM/UGM-109)と特定した。
タングステン弾18万個をまく「空中炸裂」ミサイル
2件目は同じ日の午後5時10分ごろ、ファルス州ラメルド市のスポーツ施設で起きた。検証済み映像には、施設と隣接する住宅街・小学校の真上でミサイルが空中で爆発し、屋根一面に破片が広がる様子が写っている。
使われたのは米国製の精密打撃ミサイル(PrSM)とみられる。着弾前の上空で起爆し、約18万個のタングステン弾を広範囲にまき散らす兵器で、地表に無数の小さな穴を残すのが特徴だ。米中央軍(CENTCOM)は3月4日、イランでの作戦でPrSMを実戦で初めて使ったと公表している。調査団は、映像に写る機影の特徴と空中起爆の様子、現場の穴だらけの被害状況がPrSMの特性と一致すると分析した。
ラメルド郡スポーツ青少年局のジャバド・マンスーリ局長によると、死者は22人(女性10人、男性12人)。女子児童2人と男子児童2人、自宅前で遊んでいた2歳の女児が含まれる。イランの国営通信は、22人のうち16人が施設近くの住宅街で亡くなったと伝えた。地元当局は負傷者を100人以上としており、民間人被害を専門に調べる団体は170人近いと報告している。
米中央軍は3月31日、ラメルドへの攻撃への関与を否定し、映像に写る兵器はイランの巡航ミサイル「ホベイゼ」に近いと主張した。調査団はこれに対し、ホベイゼには三角形の翼と機体下部の大型ターボジェットエンジンがあり、PrSMとは外観が明確に異なるとする専門家の分析を採用している。調査団は6月16日と24日に米政府へ情報提供と面会を求める書簡を送ったが、報告書をまとめる時点まで回答はなかった。
イラン政府の弾圧も「人道に対する罪」
報告書は米国だけを対象にしたものではない。2025年12月28日に始まった抗議デモは全31州・200以上の都市に広がり、当局は1月8日午後8時ごろから全国のインターネットと携帯通信を予告なく遮断した。通信の遮断は5か月を超え、全国規模としては記録上最長になった。
イラン政府は2月上旬、死者を3038人、負傷者を2万5000人とする公式の数字を示している。調査団は、信頼できる団体が集めた犠牲者名簿と政府の名簿が一致せず、政府側の集計に場所・性別・年齢の内訳がないことから、実際の数はこれを大幅に上回るとみている。ある人権団体は、殺害された子ども少なくとも221人の氏名を集め、うち6人が10歳未満、2人は2歳だったとした。
死刑の適用も広がった。イランは2026年に入って安全保障に関わる罪で少なくとも58人の死刑執行を公表し、そのうち29人が今回の抗議デモに関連する。5人は公開処刑だった。女性5人と少年3人を含む70人以上が、なお死刑判決または執行の差し迫った危険にあるという。調査団は、殺人・拘禁・拷問などが文民に対する広範かつ組織的な攻撃の一部として行われたとして、「人道に対する罪」にあたると認定した。
「合理的根拠」は有罪認定ではない
調査団が使う「信じるに足る合理的根拠」は、国連の調査機関が共通して用いる立証の基準で、刑事裁判の有罪認定に必要な水準より低い。調査団は裁判所ではなく、個人を訴追する権限も持たない。今後、国際刑事裁判所や各国の司法が実際に立件するかどうかは別の問題になる。
調査の制約も報告書自身が認めている。イラン政府は2022年の設置以来、一度も入国を認めていない。調査団が送った47件の情報提供要請のうち34件は未回答のままだ。米国とイスラエルへの照会にも回答がない。加えて、米国の懸念を受けて主要な衛星画像事業者が紛争地の画像提供を制限したこと、国連全体の採用凍結で事務局の充足率が6割を超えないことも、調査を妨げた要因として挙げられている。
米国とイスラエルによる2月28日の空爆は、米国とイランが核開発をめぐる交渉を続けるさなかに始まった。世界保健機関の地域事務局によると、イラン保健省の集計で4月7日時点の民間人死者は2362人、負傷者は3万2314人にのぼり、避難した人は320万人を超えた。調査団は報告書で、紛争当事国に敵対行為の即時停止を、加盟国には恒久的な和平に向けた外交努力と、迫害の危険にさらされた人々への人道ビザや一時保護の提供を求めた。任期は第67会期末まで残っており、条件が整えば民間人と民用物への被害についてさらに事案を調べる方針だ。
