情報通信研究機構(NICT)は10月22日、チップの上面から直接光を取り出す「トップエミッション型」の深紫外LEDを、高い効率で動かすことに世界で初めて成功したと発表した。現在実用化されている深紫外LEDは、すべて基板側から光を取り出す「フリップチップ型」で、チップを上下反転して支持基板に接合する工程が欠かせない。新しい構造ではこの工程が不要になり、同じ材料で作った従来型と比べて、供給した電力を光に変える効率(電力変換効率)が約35%高かった。研究したのは未来ICT研究所の井上振一郎室長らのグループで、成果は米化学会の学術誌「ACS Photonics」に掲載された。
電極を輪の形に刻み、上面から光を取り出す
深紫外LEDの発光層は、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)という半導体でできている。発表によると、従来のフリップチップ型は、発光層で生まれた光を基板の裏側から取り出す。そのためにLEDチップを裏返し、配線を施した支持基板(サブマウント)に精密に位置を合わせて、はんだや突起状の電極(バンプ)で接合する。この工程が製造を複雑にし、コストを押し上げてきた。さらに、半導体層とサファイア基板の境目では屈折率の差によって光の一部が反射して素子の中に閉じ込められ、外へ出る光が減るという問題もあった。
チップの上面から光を出せば、裏返して接合する工程は要らなくなる。それでも実現しなかったのは、深紫外の波長では光を通す透明な電極材料が存在しないためだ。電流を流し込むのに必要なp型電極と、その下のp型半導体の層(コンタクト層)が深紫外光を強く吸収してしまい、上面から効率よく光を取り出すことは「極めて困難」だったと、NICTは説明している。
研究グループは、p型電極とコンタクト層を同心円状の細い輪(マイクロリング)の形に微細加工した。電極を輪にして隙間を空けることで、上面で光が吸収されるのを抑えながら、電流を十分に流し込めるようにした。さらに、電極の隙間の部分に、酸化ハフニウム(HfO2)でナノメートル(10億分の1メートル)単位の細かな凹凸を作った。この「ナノ光取出し構造」は、素子の表面で光が全反射して内側に戻るのを抑え、光が外へ出られる角度の範囲を広げる働きをする。
波長275ナノメートルで電力変換効率6.5%
試作した素子は、波長275ナノメートルの深紫外光を発した。発表によると、電気効率は85%、外部量子効率(注入した電子のうち光として外へ取り出せた割合)は7.5%、電力変換効率は6.5%だった。電力変換効率は、LEDに供給した電力(電流×電圧)のうち、光として外に出てくる割合を示す。
比較のため、研究グループは同じ半導体の基板(エピウェハ)と同じ電極の構造を使って、従来のフリップチップ型も作り、同じ条件で測った。電流を流したときの電気的な特性は両者で同程度だったが、新しい素子は光出力が大幅に上がり、電力変換効率は従来型より約35%高かった。発表文はこの差を相対値で示しており、従来型の電力変換効率の値そのものは本文に書かれていない。
NICTはこの成果を、これまで両立が難しかった「低コスト化」と「高効率化」を同時に達成できる次世代の深紫外LEDにつながるものだと位置づけている。論文の題は「High-Efficiency Top-Emitting AlGaN-Based Deep-Ultraviolet Light-Emitting Diodes」で、電子版は米国東部時間の10月21日に掲載された。同誌の補助表紙(Supplementary Cover)にも選ばれたという。
深紫外LEDとは 水銀ランプの代わりの光源
紫外線のうち、波長280ナノメートル未満の光は「UV-C」に分類される。NICTの用語解説によると、この波長の光はオゾン層ですべて吸収されるため、太陽光には含まれず地表に届かない。生物のDNAやRNAはこの波長の光をよく吸収するため、照射すると塩素などの薬剤を使わずに細菌やウイルスを殺菌・不活性化できる。太陽光が混じらないことを利用して、光で信号をやり取りする無線通信にも使える。
この波長域の光源には、これまで主に水銀ランプが使われてきた。ガラス管に水銀の蒸気を閉じ込めて放電させる仕組みで、殺菌や半導体の製造などで広く用いられている。しかし水銀は人の健康や環境に有害で、2017年に発効した「水銀に関する水俣条約」のもとで、使用をなくしていく国際的な取り組みが進んでいる。深紫外LEDは水銀を含まず、小型で、低い電圧で動き、寿命も長いことから、水銀ランプに代わる光源として期待されている。
一方、深紫外LEDには効率の低さという弱点がある。NICTは、AlGaN系深紫外LEDの高効率化・高出力化を阻む要因の一つとして、発光層で生まれた光のうち外に取り出せる割合(光取出し効率)が極めて低いことを挙げている。今回の素子でも、電力変換効率6.5%は、供給した電力の大部分が光にならないことを意味する。今回の成果は、この取り出しの問題に、製造工程の簡略化と同時に手を付けたものといえる。
出力競争から装置化へ、NICTの10年余りの歩み
井上室長らのグループは、深紫外LEDの研究を長く続けてきた。2015年4月には光出力90ミリワット超、17年4月には波長265ナノメートル・1チップで150ミリワット超と、当時の世界最高出力を相次いで発表した。17年の発表時点で、従来の深紫外LEDの光出力は高いものでも数十ミリワット程度だったという。
その後は、殺菌の装置としての使い方へ研究の重心を移した。22年10月には、LEDチップを多数並べて光出力8ワット超を出す小型のハンディ照射機を発表した。25年2月には旭化成と共同で、鉄道車両用の空気殺菌モジュールを開発し、実際に営業運転する車両に載せて1か月間試験した。水銀ランプを使ったモジュールと比べ、殺菌に要する電力を40%以上減らせたとしている。この事業は環境省が主管し、総務省が連携する委託事業の一環だった。
25年11月には、コンサートホール規模の空間を殺菌するシステムを発表した。光を上の空間だけに当て、送風で空気を循環させる方式で、実際に熊谷文化創造館さくらめいと(太陽のホール、容積9200立方メートル)に設置した。試験用のウイルスを99.9%不活性化するのに要する時間は、水銀ランプを使った場合の150分に対し、深紫外LEDのシステムでは42分と見積もった。
| 発表時期 | 主な内容 |
|---|---|
| 2015年4月 | 光出力90ミリワット超、当時の世界最高 |
| 2017年4月 | 波長265ナノメートル・1チップで150ミリワット超 |
| 2022年10月 | 光出力8ワット超の小型ハンディ照射機 |
| 2023年11月 | レンズを使わずに光の広がる角度を制御 |
| 2025年2月 | 鉄道車両用の空気殺菌モジュール、水銀ランプ比で電力40%以上減 |
| 2025年11月 | コンサートホール規模の空間殺菌、99.9%不活性化に42分 |
| 2026年10月 | チップ上面から光を出す高効率な素子、電力変換効率約35%向上 |
普及に向けて残る課題
これまでの成果は、主に「どれだけ強い光を出せるか」と「装置としてどう安全に使うか」に向けられてきた。今回の発表は、LEDそのものの作り方を変えて、製造工程を減らしつつ効率を上げる方向の成果になる。NICTは今回の成果を、殺菌や医療などでの深紫外LEDの普及を加速させる技術と位置づけている。鉄道車両やホールでの実証を経て、次は光源そのものを安く作れるかが問われる段階に入る。
ただし、今回示されたのは研究段階の素子の性能である。発表文には、製品化の時期や、量産を担う企業との連携については書かれていない。従来型と比べた製造コストがどれだけ下がるかも、具体的な数値では示されていない。光出力の絶対値や素子の寿命についても、発表文の本文では触れていない。
NICTは今後、深紫外光デバイス技術の研究開発と社会実装に向けた取り組みを進めるとしている。殺菌・浄化、医療、食品衛生、半導体製造、情報通信の各分野で、水銀ランプからの置き換えがどこまで進むかは、効率の向上に加えて、量産時の価格と寿命を示せるかにかかる。
