単身世帯への手当や給付金、介護保険で借りる車椅子の費用の全額公費負担、精神障害者保健福祉手帳の申請要件の撤廃、大学入学共通テスト検定料の無料化など、5つの「公助」を求めた質問に、政府は10月30日付の答弁書で、新たな支援や制度の改正をいずれも示さなかった。車椅子、手帳、検定料の3点は「考えていない」と明記した。参議院の奥田ふみよ議員が10月20日に提出した「公助を求める国民の声に関する質問主意書」への回答で、内閣総理大臣の高市早苗氏の名前で参議院議長の関口昌一氏に送られた。

「公助」を求める声を5問に

質問主意書は、国会議員が内閣に文書で質問し、内閣が閣議決定を経た答弁書で答える仕組みだ。奥田議員は主意書の冒頭で、政府や行政の支援が不足している、または全くないことで苦しむ人から「公助」を求める声を集めて紹介してきたと述べ、寄せられた声をもとに次の5問を出した。

  1. 独身で一人暮らしの世帯(離別・死別を含む)の家計負担が、他の世帯の1人当たりと比べてどの程度重いかを調べているか。負担軽減の手当や給付金を支給すべきではないか
  2. 公務員として農業・漁業に従事する人の数と割合。すべての農業・漁業者に公務員並みの安定した雇用・収入・社会保障を提供すべきではないか
  3. 介護保険で、要介護度にかかわらず車椅子のレンタル費用を全額公費で負担すべきではないか
  4. うつ病の人が手帳を申請するには初診から6か月以上たつ必要がある。この要件を撤廃し、医師の診断書があればすぐ申請できるようにすべきではないか
  5. 共通テストの検定料を無料にし、私立大学の受験料も公費で引き下げるべきではないか

参議院の記録では、主意書は10月20日に提出され、26日に内閣へ転送された。答弁書は30日に受領された。答弁書の番号は内閣参質二二二第一一号。

単身世帯は月17万3042円、2人以上は1人当たり10万9408円

1問目について、答弁書は「一人当たりの家計負担」の意味が明らかでないとして一概には答えられないとしたうえで、総務省の家計調査(令和7年平均)の1か月当たりの数字を示した。

区分 単身世帯 2人以上の世帯 2人以上の世帯の1人当たり
消費支出(全世帯) 17万3042円 31万4001円 10万9408円(平均2.87人で割った額)
非消費支出(勤労者世帯) 7万2643円 12万1493円 3万7967円(平均3.20人で割った額)
1か月当たりの消費支出と非消費支出(家計調査・令和7年平均)出典: 内閣参質二二二第一一号の答弁書

非消費支出は、所得税や住民税などの直接税と社会保険料など、消費に回らない支出を指す。答弁書は、2人以上の世帯の額を平均世帯人員で「単純に割って算出」したと断っている。この数字で比べると、単身世帯の消費支出は2人以上の世帯の1人当たりの約1.6倍、勤労者世帯の非消費支出は約1.9倍になる。

一方、単身世帯への手当や給付金については、その「具体的に意味するところが必ずしも明らかではない」とし、支給するかどうかは答えなかった。代わりに、高市首相が10月8日の参院本会議で、中東情勢が物価や経済に与える影響を注視し、「予備費の活用も含め、必要な時にはタイミングを逸することなく」対応すると述べたことを挙げた。翌9日には、物価高対策として「租税及び社会保険料による負担の軽減のための飲食料品に係る消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の支給に関する法律案」を今国会に提出したと記した。奥田議員は10月5日にも、食料品減税の後の消費税率を問う主意書を出している(政府答弁書、食料品減税後の増税案「提案されたことはない」 将来の税率「検討していない」)。

車椅子レンタル「全額公費は考えていない」 農漁業者の人数は示さず

3問目の車椅子について、答弁書はまず介護保険の仕組みを説明した。要介護認定や要支援認定を受けた人が福祉用具の貸与を受けると、居宅介護サービス費や介護予防サービス費が支給される。貸与は、認定の結果と本人の希望などを踏まえて作るケアプラン(居宅サービス計画・介護予防サービス計画)に基づいて提供される。

そのうえで、介護保険の費用は「社会連帯と相互扶助の理念」に基づき、利用者負担、保険料、公費を組み合わせて賄う社会保険方式をとっていると述べた。指定事業所から借りる車椅子は保険給付の対象になるが、費用は利用者も負担する。この「制度の趣旨」を踏まえ、要介護度にかかわらず全額を公費で負担することは考えていないと結論づけた。

介護保険法は、居宅介護サービス費の額を原則として費用の100分の90と定めている(41条4項)。所得が一定以上の人はこの割合が100分の80などに下がり(49条の2)、自己負担が増える。

2問目の農業・漁業については、「日本で公務員として農業・漁業に従事する者」の意味が明らかでないとして、人数と割合を答えなかった。公務員並みの雇用と収入を求める部分も一概に答えられないとし、食料・農業・農村基本法と水産基本法の条文を引いて、農林水産省としては「効率的かつ安定的な」農業経営と漁業経営を育てることが重要だと考えているとした。

手帳の「初診から6か月」は症状の安定を見込んだ期間

4問目の精神障害者保健福祉手帳は、精神障害のある人が都道府県知事に申請して交付を受ける。答弁書によると、申請時に出す医師の診断書は「初めて医師の診療を受けた日から起算して六月を経過した日以後」のものに限ると、精神保健福祉法の施行規則で定めている。

答弁書は、この期間について、知事が手帳を交付する際の審査のために「精神障害の状態が安定する期間を勘案して設けている」と説明した。そのため、要件をなくして診断書があればすぐ申請できるように制度を改正することは考えていないと答えた。

施行規則23条2項は、申請に添える書類を、医師の診断書か、精神障害を理由とする障害年金などを受けていることを証明する書類の写しのどちらかとしている。6か月の要件がかかるのは診断書で申請する場合だ。質問は、うつ病で収入が途絶えたまま治療費を払いながら6か月を過ごすのは難しいと訴えていたが、答弁書は審査の考え方を述べるにとどめ、その間の生活費や治療費の支援には触れていない。

共通テスト検定料は法令で徴収、私大の受験料は「設置者が判断」

5問目について、答弁書は、共通テストは大学入試センターが各大学と共同で実施し、検定料は大学入試センター法と同センターに関する省令に基づいて出願者から徴収していると説明した。そのうえで、無料にすることは考えていないと答えた。省令18条4項は検定料の額を、3教科以上を受ける場合は1万8000円、2教科以下は1万2000円と定めている。

私立大学の受験料を公費で引き下げる案については、その意味が明らかでないとしつつ、文部科学省は私立学校振興助成法に基づいて私立大学の経常的経費の一部を補助してきたと述べた。受験料は、入学者選抜にかかる費用や、この補助を含めた収入の状況も踏まえて「各私立大学の設置者が判断すべきもの」とした。

5問のうち3問は「考えていない」と退けた。残る2問は、質問の言葉の意味が明らかでないとして直接答えず、首相の答弁や法律の条文を挙げた。単身世帯の家計の数字は示したが、それをもとに支援が必要かどうかの判断は示さなかった。