障害者手帳を持たない難病患者の就労をめぐり、政府は10月23日、長妻昭衆院議員の質問主意書に対する答弁書を衆議院に送った。手帳の無い難病患者を障害者雇用率に数える制度は労働政策審議会で検討しているが、制度化の時期は「現時点でお示しすることは困難」と答えた。指定難病に当たらない患者を含めた全国調査や、国の機関で難病患者を試行的に雇うことは「考えていない」とした。働く意欲のある難病患者を「RDワーカー」と呼んで社会に広める案には「慎重な検討が必要」と答えた。

手帳が無いと雇用率に数えられない

企業や国・自治体には、従業員の一定割合以上の障害者を雇う義務がある。この障害者雇用率に数えられるのは、原則として身体障害者手帳などの手帳を持つ人に限られる。厚生労働省が9月15日の労働政策審議会障害者雇用分科会に出した資料は、手帳が「職業生活における制限の程度」を直接評価しているためと説明している。

難病は完治が難しく、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返すものが少なくない。長妻氏は質問主意書で、身体障害者手帳の認定基準との関係で手帳を取れない難病患者が多く、雇用率制度の対象にならないことが就労の課題になってきたと指摘した。そのうえで、短時間勤務や在宅勤務が広がり、配慮があれば働ける患者も少なくないとして、就労の実態把握、社会の理解、雇用率制度の見直しの3点について政府の見解を求めた。

手帳を持たない難病患者の扱いは、分科会資料によると平成24年(2012年)から10年以上、検討課題として持ち越されてきた。2026年2月6日にまとまった厚労省の研究会報告書は、手帳の無い難病患者について、本人の申請を受けて医師の意見書なども踏まえ、個別に就労の難しさを判定し、一定の水準にあれば「まずは、実雇用率において一定の算定を可能とする」との方向を示した。答弁書は、この方向を分科会での「議論のたたき台」として示したと説明している。

働く難病患者は7割、希望者は2割強

答弁書は、手帳の無い難病患者の就労実態の数字として、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が2021〜23年度に行った「難病患者の就労困難性に関する調査研究」を引いた。軽症者や指定難病以外の患者も含め、18〜65歳の難病患者に支援機関を通じてインターネットで回答を求めた調査だ。

回答した難病患者4523人のうち、自営や会社・官公庁などに雇われて働いている人(休職中を含む)は3160人で69.9%だった。就職活動中・職業訓練中の人と、仕事をしていないが可能なら働きたい人を合わせた「就労希望者」は1017人で22.5%だった。手帳を申請したが認められなかった人と申請していない人に限ると、働いている人は2591人、就労希望者は690人だった。

職場への配慮の伝え方も示した。手帳を持ち、最近5年ほどの間に一般企業で働いた経験のある難病患者611人のうち、必要な配慮を会社や職場に伝えている人は73%だった。伝えていないが必要だと思う人は21%いた。

ただ、長妻氏が尋ねた「指定難病患者のうち」働いている人の数と割合は、調査研究が指定難病患者に限った集計をしていないため「把握していない」と答えた。手帳を持たず、指定難病にも当たらない希少疾患などの患者の人数も、医療費助成の認定を受けた人以外は「把握する仕組みはない」とした。

全国調査も個人票への項目追加も否定

長妻氏は、指定難病の医療費助成の申請に使う診断書「臨床調査個人票」に、職種や勤務時間、職場の配慮など就労の共通項目を設けるよう求めた。答弁書は、個人票の項目は疾患ごとの特性に応じて厚生科学審議会の部会などの審議を経て決めるもので、個人情報保護法が利用目的の範囲を超えた保有を禁じていることも前提にしているとして、共通項目を設けることは「考えていない」と答えた。疾病によって就労の項目が無い個人票があることは「事実」と認めた。

指定難病に当たらない希少疾患・難治性の慢性疾患の患者を対象にした全国調査も「考えていない」とした。調査研究で指定難病以外の患者も含めて就労状況や離職理由、必要な配慮を把握したことを理由に挙げた。

一方で、長妻氏が例に挙げた線維筋痛症、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群、脳脊髄液減少症などの患者について、症状によって就労に困難を抱える人が「いる可能性はある」と認めた。手帳や指定難病の対象かどうかにかかわらず、長期にわたり職業生活に相当の制限を受ける人は、障害者雇用促進法上の障害者として職業リハビリテーションの対象になるとも説明した。

社会の理解については、調査研究で「多くの事業所で、治療と仕事を両立させながら、働いている人が増えている」ことを「十分認識していた」と答えた事業所が24.4%にとどまったことを挙げ、事業主の理解は「十分に進んでいる」とまではいえないと認めた。今年2月の通達で難病の症状と配慮の例を示したことや、「合理的配慮指針事例集」第6版で事例を周知していることを挙げ、取り組みを強めるとした。

長妻氏は質問主意書で、働くことができ、働くことを望む難病患者を「RDワーカー」と呼んでその存在を社会に発信する取り組みがあると紹介した。「ヤングケアラー」のような呼称が課題の認知を広げたことを踏まえ、分かりやすい呼称を使った広報を国が行うよう提案した。答弁書は、呼称の認知度や、呼称が指す概念が正しく理解されるかという観点から「慎重な検討が必要」と答えた。

判定は都道府県労働局の審査委員会で 対象は試算で幅

雇用率に数える仕組みの中身は、分科会資料が示している。対象は障害者総合支援法の対象疾病で、答弁書によると376疾病(指定難病は348疾病)。判定の枠組みとしては、難病指定医による医療費助成の重症度判定をもとに、支援職による就労の難しさの調査結果などを判断材料とし、国が設ける審査委員会が合議で、手帳を持つ人と同等以上に就労が難しい人を判定する案を基本とした。審査委員会は医師や学識経験者、就労支援の関係者で構成し、各都道府県労働局に置く案だ。

判定の基準は、JEEDが2026年4月から2029年3月までの3か年で進める「難病患者の就労困難性の判定体系に関する研究」と、医師や難病の当事者団体などで国が設ける検討会で詰める案になっている。研究は調査項目の素案を作り、手帳を持つ患者と持たない患者の双方にモデル調査をして検証する計画だ。

対象者の数はまだ定まっていない。研究会で示された機械的な試算は、条件の置き方で大きく変わる。

雇用率の算定対象になり得る難病患者数の試算(人)

パターン12,800パターン227,600パターン365,400
出典: 厚生労働省「手帳を所持していない難病患者の位置付けについて」(第142回障害者雇用分科会資料1)
数値で見る(単位: 人)
項目人
パターン12,800
パターン227,600
パターン365,400

手帳を申請して認められず、仕事を探している人に絞ると約2800人。手帳の基準に当たらないため申請していない就職希望者を加えると約2万7600人、すでに働いているが就労の難しさが高い人まで含めると約6万5400人になる。分科会資料は、いずれも今取れるデータに基づく機械的な試算だと断っている。

分科会が10月21日の会合で配った今後の日程表は、この議題を「済」とし、制度の各論は続けて議論するとしている。同じ分科会では、精神・発達障害者の雇用率の算定や就労継続支援A型事業所の位置付けも議題に上ってきた(A型事業所をめぐる答弁は就労移行支援体制加算「形式的な移行を誘発しかねない」と答弁書 関係法人の除外は否定)。

国の試行雇用と自治体の検証も行わず

長妻氏は、制度化の前に国の機関で難病患者を非常勤職員として雇ったり、短時間勤務や在宅勤務、インターンシップを試したりして、配慮や勤務時間の知見をためるよう求めた。山梨県、千葉県、東京都、北海道などが手帳の有無にかかわらず難病患者を職員に採用する取り組みをしていることを挙げ、その応募者数や採用者数、定着状況を国が調べて制度設計に生かすべきだとも求めた。

答弁書は、雇用の際に必要な知見をためることは「有効」だと認めた。ただ、調査研究を通じて必要な情報を集めているとして、国の機関での試行も、自治体の取り組みの検証と共有も「考えていない」と答えた。自治体の取り組みは「承知している」としたが、応募者数や採用者数、定着状況は「把握していない」とした。

答弁から読み取れるのは、手帳の無い難病患者を雇用率に数える方向は固まりつつあるものの、判定の基準づくりに少なくとも2029年3月までの研究期間を見込み、それまでの間に国が自ら実態をつかむ手段は増やさないという姿勢だ。対象者の試算が約2800人から約6万5400人まで開いているのは、誰を数えるかの線引きが決まっていないためで、その線引きの根拠となるデータの取り方が、今後の検討会での論点になる。