学術出版社との集団交渉を担う国内のチーム「OASE+(オーエイス・プラス)」と学術出版大手エルゼビアは、2027年から2029年までの3年間を対象とするRead and Publish契約(転換契約)に合意した。エルゼビアが10月26日に発表し、OASE+も30日に公式サイトで知らせた。対象の論文誌では、誰でも無料で読めるオープンアクセスの形で公開できる論文数の年間上限をなくす。対象の機関は初めて大学以外へ広げ、国立研究開発法人を含める。
年間上限をなくし、公開は研究者の判断に
発表によると、2027年から、契約機関の研究者は契約条件に基づき、対象の「Core Hybrid(コア・ハイブリッド)ジャーナル」で、年間の本数の上限なくオープンアクセス出版ができる。Core Hybridは、購読を基本としながら、著者が論文ごとにオープンアクセスを選べる論文誌を指す。
公開するかどうかの判断は「研究者と研究内容に委ねられる」とした。エルゼビアは、研究者が助成機関や所属機関のオープンアクセスの要件に、より確実に対応できるようになると説明している。
エルゼビアのCell Pressの論文誌についても、同じ考え方の別契約で合意した。購読モデルのCell Press Hybridジャーナルを購読する機関は、購読する誌名の範囲で閲覧とオープンアクセス出版ができ、こちらも年間の上限を設けない。期間は同じ2027年から2029年までとなる。
OASE+の告知によると、合意の日付は本体の契約提案が9月2日、Cell Pressが10月2日だった。OASE+代表の重田育照・筑波大教授は発表の中で「Core Hybridジャーナルにおいて件数の制限なくオープンアクセス出版ができることとなり、またCell PressもRead and Publish契約が可能になったことを喜ばしく思います」と述べた。研究の発信力を巡っては、Top10%補正論文数、日本は世界13位 2022〜24年平均3163本 政府は2035年に「3位」目標で日本の論文の位置を伝えている。
「読む費用」と「出す費用」を一つの契約に
Read and Publish契約は、研究機関が出版社に払ってきた購読料をもとに、論文をオープンアクセスで出版するための論文掲載料(APC)を一体にした契約を指す。
二つの費用は、これまで支払い元が分かれていた。総合科学技術・イノベーション会議の有識者議員が2023年10月にまとめた「基本的な考え方」によると、購読料は大学の図書館費から、APCは研究者の研究費から払うことが多く、統一的な対応が難しいという。
同じ文書は費用の上昇も示している。電子ジャーナルの購読料は5年間で1.1倍、9年間で1.3倍となり、APCは5年間で2.0倍、9年間で5.5倍に増えた。上位3社で国内の海外ジャーナル購読費の約5割を占めるとし、海外の有名誌では100万円を超えるAPCを求められる場合もあると記している。
文部科学省の令和7年度「学術情報基盤実態調査」では、令和6年度の大学の図書館資料費は757億円だった。このうち電子ジャーナルと電子書籍の経費は433億円で前年度より19億円増え、紙の図書と雑誌の経費は200億円で10億円減った。
政府方針から生まれた集団交渉
背景には、統合イノベーション戦略推進会議が2024年2月16日に決めた「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」がある。2025年度から新たに公募する対象の競争的研究費について、受給者に、論文と根拠データを掲載後すぐに機関リポジトリなどへ載せるよう義務づけた。対象には科学研究費助成事業(科研費)などが入る。
義務の中身はリポジトリなどへの掲載で、著者の最終稿も対象となる。一方、関係府省の申し合わせは、即時公開ができない理由の選択肢の一つに「既存の研究費を圧迫しない範囲での転換契約やAPC支払いの活用が困難」を挙げている。
基本方針は、学術出版社に対する大学主体の集団交渉の体制づくりを国が支援し、研究コミュニティの経済的負担の適正化を図るとも定めた。これを受けて発足したのがOASEで、2025年12月に、大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)との共同参画によるOASE+へ移った。JUSTICEの登録は2026年9月10日現在で561館に上る。
エルゼビアとの現行の枠組みは、JUSTICEと結んだ2024年から2026年までのもので、重田氏は「パイロット提案」と呼ぶ。今回の合意はこの枠組みを発展させたものとなる。OASE+の公式サイトのニュース欄に載る出版社との合意は次のとおりで、古川俊治科学技術政策担当相が挙げた3社はいずれも3年の提案で合意した。
| 出版社 | 合意日 | 提案期間 |
|---|---|---|
| Springer Nature | 2025年8月28日 | 2026〜2028年 |
| Taylor & Francis | 2025年9月22日 | 2026〜2028年 |
| Wiley | 2026年8月31日 | 2027〜2029年 |
| ACS(米国化学会) | 2026年8月31日 | 2027〜2029年 |
| Elsevier | 2026年9月2日 | 2027〜2029年 |
| Elsevier(Cell Press) | 2026年10月2日 | 2027〜2029年 |
出典: OASE+ 公式サイトの各告知
167機関が関心、契約は機関ごとに判断
合意は機関の契約そのものではない。エルゼビアによると、10月21日時点で167機関が関心を表明した。関心を表明した機関がすべて直ちに契約するわけではなく、各機関が条件を確認して可否を個別に判断し、開始時期も機関によって異なる。契約を望む機関はOASE+を通じて関心を表明する必要がある。OASE+の告知は、対象として大学・大学校、大学共同利用機関、国立研究開発法人を挙げている。167機関の内訳は、確認した資料には書かれていない。
対象の拡大について、エルゼビアは「公的資金による日本の研究基盤の相当部分が契約の対象となります」と説明している。
現行の規模を示す数字もある。JUSTICEの合意提案一覧(2026年6月15日付)では、エルゼビアのScienceDirectの契約機関数は、購読の提案が140、Read and Publishの提案が79だった。
3年の提案は年ごとに提案書が示される。OASE+は2026年8月、Taylor & FrancisとSpringer Natureの2027年向け提案書を関心表明機関限定ページで公開し、いずれも昨年合意した3年提案の2年目だと説明した。
大学の側の方針づくりも進む。文科省の同じ調査で、オープンアクセスの方針を定めている大学は298大学(36.5%)となり、前年度より83大学増えた。
大臣「値上げに抑えられている」、契約額は確認できず
古川担当相は11月2日の記者会見で、今回の合意を「喜ばしいことだと純粋に思っております」と述べた。大学教授だった経験から、シュプリンガーネイチャー、エルゼビア、ワイリーの3社の論文誌を読まなければ研究水準についていけなかったと振り返り、「購読料が極めて高く、言ってみると向こうの言い値になっていた」と説明した。
そのうえで、個社や一つの大学の力では抑制できず、団体で交渉する形がOASE+で取れるようになったと指摘した。3か年の合意によって「一定のレベルのもちろん値上げに抑えられている」と述べ、「より交渉力を強めていきたい」とした。
ただし、提案の条件はOASE+の関心表明機関限定ページに置かれており、公開資料では契約金額も値上げ幅も確認できていない。現行の枠組みの上限が何本だったのかも、確認した資料には書かれていない。基本方針が掲げた経済的負担の適正化がどこまで進むかは、公開資料からはまだ判断できない。
