東京都千代田区は10月27日、区内のマンション開発事業に参加する分譲事業者に対し、購入者が引き渡しを受けてから原則5年間は転売できない特約を付けることなどを要請した。区が個別の事業について要請するのは初めて。自民党の住宅土地・都市政策調査会も10月21日、価格高騰の抑制に向けた議論を本格的に始めた。国土交通省の調査では、東京23区の新築マンションのうち1年以内に売買された割合は、2024年に9.7%となり、前年の5.7%から上がった。
千代田区、不動産協会に続き事業者へ直接要請
要請の相手は、都市開発諸制度などを活用して区内で進むマンション開発事業に参加する分譲事業者。区は個別の事業名と事業者名を公表していない。内容は2点で、購入者が引き渡しから原則5年間は転売できないように特約を付けること、同じ建物で同一名義の者が複数の物件を購入するのを禁止することを求めた。
区は2025年7月18日、業界団体の不動産協会に同じ趣旨の要請をしている。このときの対象は、総合設計などの都市開発諸制度を活用する事業と市街地再開発事業のうち、これから許認可などを受ける事業で販売するマンションだった。今回の要請について区は、その趣旨を具体的な開発事業でも徹底させ、実効性のある取り組みにつなげるものと説明している。
区は背景として、都心部で新築マンションの価格上昇が中古住宅や賃貸住宅の家賃にも及び、住み替えようとする子育て世帯が区内での居住の継続を断念する状況が生じていると説明した。投機目的の取引が増えれば、居住実態のない住戸が増えて管理組合の運営に支障が出るとの懸念も挙げた。あわせて、空き家の改修やオフィスの住宅転用によるアフォーダブル住宅の供給も進めるとしている。
自民調査会、区長と学識者、業界団体から聴取
自民党の発表によると、調査会(会長・松島みどり衆院議員)は10月21日の会議で、樋口高顕・千代田区長、中城康彦・明海大学大学院不動産学研究科長、不動産協会から意見を聞いた。党は、いずれも価格高騰の抑制には投機目的の短期売買の解消が必要との認識で一致したとしている。松島会長は「マンションに住みたい人がちゃんと購入できる社会をつくっていかなければならない」と述べた。
樋口区長は、区独自の調査で、登記簿上の「所有者の住所」と「当該マンションの住所」が一致しない新築分譲マンションが7割に上ったと報告し、「投機目的の取引が行われていると考えられる」と述べた。中城氏は、短期の譲渡益への重課税や、投機的な取引を思いとどまらせる特別税の導入を提案し、不動産登記制度の厳格化なども必要だとの見解を示した。不動産協会は、物件の引き渡しまでの売却活動の禁止や購入戸数の上限の制限を会員各社に要請したと説明した。
党はマンション価格の上昇の要因として、資材費や人件費などの供給コストの上昇に加え、投機を目的とした短期売買などを挙げている。党が公開している記事の範囲では、調査会が提言をまとめる時期や具体策の内容は確認できていない。全文は機関紙「自由民主」のインターネット版に掲載されており、本紙はこの部分を確認できていない。
調査会の議論の経緯は、政府答弁書、不動産の「三為取引」で説明不足の契約の効果「裁判所が判断」 見解示さずでも触れた。
23区の短期売買9.7%、新宿区は20.0%
議論の土台となる国交省の調査は、法務省から受け取った不動産登記の情報と民間の価格データを使い、2018年1月から2025年12月までに登記された三大都市圏と地方4市の新築マンション約57万戸を分析した。9月15日に公表した。短期売買は、保存登記から1年以内に移転登記がなされたものと定義している。
新築マンションの短期売買割合(%)
2023年2024年
数値で見る(単位: %)
| 項目 | 2023年 | 2024年 |
|---|---|---|
| 東京都 | 5.2 | 8.8 |
| 23区 | 5.7 | 9.7 |
| 都心6区 | 7.1 | 12.1 |
| 千代田区 | 4.9 | 5.1 |
| 新宿区 | 4.1 | 20.0 |
| 渋谷区 | 10.0 | 15.2 |
2024年の割合は東京都が8.8%、23区が9.7%、都心6区が12.1%で、中心部ほど高い。ただし区ごとの差は大きく、都心6区でも新宿区の20.0%に対し、千代田区は5.1%、文京区は1.7%だった。都心6区の外でも葛飾区は26.5%、墨田区は17.0%と高い。国交省は、その年にどのようなマンションが供給されたかによって割合は大きく変動すると注意を促している。
23区の専有面積40平方メートル以上の物件では、1棟あたりの保存登記が100件以上の大規模マンションの割合が9.0%で、それ以外の2.9%を上回った。2024年は上半期に供給された大規模マンションの短期売買が全体の数字を押し上げ、下半期は短期売買の数も割合も減った。
買い手の内訳では、23区の短期売買の8割以上が法人による取引だった。法人の占める割合は、ここ2年は減る傾向にある。国外に住所がある者の短期売買の割合は2024年に5.7%で増加の傾向があるものの、同年上半期の前回公表値からは減った。都心6区で国外の居住者が2億円以上の高額物件を活発に短期売買している傾向は、特に見られないとした。
新築の取得に占める国外居住者の割合は、2025年に23区で2.8%、都心6区で5.9%となり、2024年の1.6%、3.2%から上がった。都心6区は2025年上半期の6.7%からは下がっている。一方、都心6区で2018年以降に完成した40平方メートル以上の物件は、7割以上を新築の購入者が現在も保有している。
区が示した「7割」は所有者の住所と物件の住所の不一致を数えた値で、国の調査の短期売買割合とは数えている対象が異なる。住所の不一致は、それだけでは転売の有無を示さない。
業界は影響「ごく限定的」、引き渡し後の制限で隔たり
不動産協会は2025年11月25日、対策を公表した。価格上昇の主な要因は土地代や建築費の高騰と、供給戸数の減少に対して実需が強い需給の状況にあるとし、「投機的な取引の影響はごく限定的」との認識を示す一方、投機目的の短期転売は「決して好ましいことではない」とした。
| 項目 | 千代田区の要請 | 不動産協会の対策 |
|---|---|---|
| 転売 | 引き渡しから原則5年間禁止する特約 | 契約から引き渡しまでの売却活動を禁止 |
| 購入戸数 | 同一建物で同一名義の複数購入を禁止 | 1物件の購入戸数と登録戸数に上限(複数戸の場合もある) |
| 名義 | 要請の項目にない | 申込みの名義で契約・引き渡し・登記を徹底 |
| 実施の判断 | 区が事業者に要請 | 会員各社が判断 |
出典: 千代田区プレスリリース(令和8年10月27日)、不動産協会「分譲マンションの投機的短期転売問題にかかる取組みについて」
最も大きな違いは、引き渡しの後を縛るかどうかにある。協会は、所有権が移った後は契約義務の違反を把握しても「『契約を解除して引渡しをしない』という履行を担保できる手段は既に事業者にはなく」、最悪の場合は民事訴訟に訴えるしかないと説明した。憲法の財産権の保障にも触れ、慎重に考えるべき問題だとしている。
協会は自らの対策について、区の要請内容を現実的に修正・発展させたもので、大きくは要請の趣旨とも合致すると位置づけた。住友不動産、三井不動産など正副理事長会社の8社が先行して導入を決め、2026年3月12日付の事業計画では、導入する会員企業は「着実に拡大しつつあり」と記している。今回の区の要請は、協会の対策が出た後も5年間の転売禁止を改めて求めた形になる。
短期売買が価格をどれだけ押し上げたかは、国も示していない。金子恭之国土交通相は2025年11月の前回調査の公表時に、「今回の調査のみで短期売買による影響を特定することは困難」と述べた。9月の調査でも、国交省は前回から大きな傾向の変化は見られなかったとしている。
価格そのものを追う国の統計は止まっている。不動産価格指数のマンション(区分所有)は、2010年平均を100として2025年12月に225.1となり、前年同月の207.7から上がったが、この月の分を最後に新しい値が出ていない。国交省は算出プログラムの不具合を理由に2026年1月分以降の公表を延期し、10月29日には10月30日に予定していた分の延期も告知した。
税で抑える案、短期売買の8割超は法人
調査会で中城氏が提案した重課税について、現行の税制を見ると、個人が土地や建物を売った場合、売った年の1月1日時点の所有期間が5年以下なら所得税30%と住民税9%、5年を超えれば所得税15%と住民税5%がかかる。短期の売却はすでに長期の約2倍の税率になっている。千代田区は2025年7月の要請の際、短期で転売した場合の譲渡所得税の引き上げなどを国や都に求める方針も示していた。
ただ、この税率は個人の譲渡に適用されるものだ。国交省の調査では23区の短期売買の8割以上を法人が占めるため、個人の譲渡所得の税率を上げるだけでは、短期売買の多くに及ばない。
国会には、この点を個人と法人に分けて定める法案が出ている。国民民主党が提出し、10月5日に衆院国土交通委員会に付託された法案で(空き家への新税と2年以内転売への重課を求める法案、衆院国交委に付託 税率は数字が入っていない)、要綱は取得から2年以下の住宅を売った個人の所得を分離して課税し、法人には通常の法人税とは別の課税を行う方式などを挙げている。
自民党の調査会がこうした税の案を取り上げるかどうかは、公開された記事からは確認できていない。区の要請に分譲事業者がどう応じるかも、区が事業者名を公表していないため、現時点では確認できない。
