国民民主党の玉木雄一郎代表は4日、全日本海員組合の第87回定期全国大会に出席して挨拶し、イランでの武力衝突とホルムズ海峡の事実上の封鎖に触れた。党の発表によると、玉木氏は「今回の事態を一過性のものとせず、航行の安全と船員の皆さんの安全確保に向けて、体制やルールをしっかりと整備していきたい」と述べた。海員組合は3月、ペルシャ湾に日本関係船舶59隻が留まり、1,400人以上の船員が乗っていると公表していた。
挨拶で触れた安全、手取り、人材
党の発表から、挨拶の内容を順に示す。玉木氏は冒頭、日本は四方を海に囲まれた海洋国家で、エネルギーや食料など多くの物資が船で運ばれていると指摘した。そのうえで「船員の皆さんがいなければ船は動かず、船員の皆さんがあってこそ日本の経済は動いていると言っても過言ではない」と述べた。
ホルムズ海峡については、日本関係船舶の安全確保と船員の早期救出を政府に要請したことに触れ、海員組合から寄せられた情報が対応につながったとして謝意を示した。関係国や国際社会と連携し、地域の平和と安定、航行の安全の回復に取り組む考えも示した。
次に手取りの問題を取り上げ、「懸命に働いて所得が増えても、税金や社会保険料の負担が重ければ、手元に残る所得は増えない」と述べた。長期間地元を離れて働く外航船員の実情に触れ、住民税の軽減措置の拡充などを進める考えを示した。外航船員は、外国との間を行き来する船で働く船員を指す。
最後に、若い世代の船員の確保、労働環境の改善、十分な休息と休暇、家族と過ごす時間の確保に取り組む必要性を挙げた。「日本の海を守ることは、日本の人々の暮らしを守ること、そして、日本の海を守るためには、まず船員の皆さんの安全と生活を守らなければならない」と結んだ。
組合が3月に公表した59隻
玉木氏が言及した問題の規模は、海員組合が3月の公表資料に示している。組合の3月19日のプレスリリースによると、2月28日(現地時間)に米国とイスラエルがイランへの大規模な軍事攻撃を実施し、イラン側が海峡の通峡を阻害する措置を取ったため、海峡は事実上封鎖された状態となった。すでにペルシャ湾に入っていた船は湾内に留まらざるを得なくなった。
組合が示した日本関係船舶は59隻で、日本籍船5隻を含む。乗っている船員は日本人24人を含む1,400人以上だった。組合はこの時点で、封鎖から間もなく3週間になると説明し、各船が24時間体制の当直で警戒を続ける一方、食料、水、燃料などの船内の備蓄を節約していると記した。
59隻という数には内訳がある。組合の3月27日の資料によると、日本船主協会が公表した隻数は45隻で、これに日本の海運会社が所有する14隻を加えたものが59隻だ。
組合は政府への働きかけも公表している。経過は次のとおりだ。
| 日付 | 動き |
|---|---|
| 3月2日 | 組合が国土交通相に、航行船舶の安全確保を申し入れ |
| 3月6日 | 政府と民間の「中東地域の安全に関する官民連絡会議」で、陸路での退避経路の確保、物資の供給体制、正確な情報提供を要請 |
| 3月19日 | プレスリリースで59隻と1,400人以上を公表。国民民主党、中道改革連合、立憲民主党、公明党などにも同様の要請を重ねたと説明 |
| 3月23日 | 国民民主党が木原稔官房長官に提言を手渡す |
出典: 全日本海員組合「イラン情勢を踏まえた船員の安全確保について」、国民民主党の発表
国民民主の提言は国籍を問わない保護を要求
国民民主党は3月23日、政府に提言を手渡している。党の発表によると、玉木氏はこの日、木原官房長官に対し、政府の発表にある45隻ではなく、協会に加入していない船を含む59隻と、外国人船員を含む約1,430人のすべてを対象に対応するよう求めた。木原氏は「非常に時宜を得たタイミングでの提言に感謝する。提言内容については同意するものが多く、59隻を対象として取り組んでいきたい」と答えた。
提言は「人命は政治判断を待たない」と書き、日本関係船舶を支えているのは多くの外国人船員だとして、政府に対し、従来の「邦人保護」の枠組みにとどまらず、すべての乗組員の安全確保を最優先にするよう求めた。柱は次の4本だ。
- 関係国との外交交渉で、ホルムズ海峡の航行の自由を確保する
- 官邸主導のホットラインを作り、情報を一元化し、水、食糧、薬品を補充する
- 国籍の区別なく全乗組員を対象に退避計画を策定し、避難拠点を確保する
- 船員の退避後の船舶を保全するため、最低限の保全要員の配置や遠隔監視などを支援する
10月の地区大会でも「滞留」に言及
3月から半年が過ぎても、組合はこの問題を現在の課題として扱っている。組合の機関紙の10月25日号によると、10月1日の神戸地区大会で議長を務めた関西地方支部長は「いまだに日本関係船舶がホルムズ海峡から出られず滞留をしているほか、世界各地で紛争が発生しており、外航船員を守る活動が必要である」とあいさつした。関東地区大会でも、議長の関東地方支部長がホルムズ海峡をめぐる情勢を挙げ、「船を動かしているのは船員である」と述べた。
地区大会では第82年度の活動方針案が議論された。機関紙によると、地区大会で採択された修正案などは、11月4日から開かれる定期全国大会に上程される。
一方で、いま何隻がペルシャ湾に留まっているのかは確認できていない。組合のサイトのお知らせで本紙が確認できた隻数の公表は3月が最後で、4日の党の発表にも隻数や救出の進み具合の記載は無い。
審議中の法案は輸送と保険が対象
玉木氏の言う「体制やルール」の中身について、党の発表は法案名も項目も挙げていない。外航船員の住民税の軽減も、対象や額は書かれていない。党の政策集には住民税の控除額を178万円まで引き上げるとの項目があるが、船員に限った記述は無い。手取りをめぐる党の法案は、国民民主党の対案、所得税の控除178万円を恒久化 現行法は2028年分から最大168万円にで扱った。
海峡の封鎖を受けた立法としては、政府が10月13日に閣議決定した3法案が、衆議院の議案一覧で審議中となっている。内容は原油調達多角化など資源3法案を閣議決定 ホルムズ迂回に交付金、再保険停止は政府が肩代わりに詳しい。
指定水路法案の目的は、指定水路を通る原油などの輸送が著しく困難になったときに、国内の石油製品の供給への影響を軽くすることだ。指定水路は「代替の水路」を通るのが難しい狭い水路として政令で定めるとしており、条文に海峡の名は無い。もう1本の保険の法案は、外国政府などが再保険の引き受けを禁じた場合に、貨物保険と船舶保険の保険会社へ政府が交付金を出す制度を設ける。残る1本はエネルギー・金属鉱物資源機構法の改正案だ。
3法案の条文に「船員」の語は見当たらない。3法案が扱うのは油の輸送と保険、資源機構の業務で、組合と国民民主党が3月に求めた退避計画や避難拠点は、条文の対象になっていない。玉木氏の述べた整備が退避や避難の仕組みまで含むのかは、4日の党の発表からは分からない。
玉木氏が挨拶で触れたとおり、エネルギーや食料の多くは船で運ばれており、海上輸送の確保は日本の国益そのものだ。3法案は航路と保険の制度を整えるが、船を動かす人の退避は対象にしておらず、成立してもこの部分は手当てされない。59隻に乗っていた1,400人以上のうち日本人は24人で、国籍を問わない備えが欠ければ、輸送の担い手を守る手順は定まらない。木原氏が同意するものが多いと答えた3月の提言を土台に、全乗組員の退避計画と避難拠点の位置づけを定めるべきではないか。湾内に留まった船員の立場から見れば、それが「体制やルール」の中身になる。
