JR東海が公表しているリニア中央新幹線・品川―名古屋間の総工事費の見通しは、2025年10月29日に示した11兆円が最新だ。11月4日に再増額の検討が一部で報じられたが、同社のニュースリリース一覧と中央新幹線のページには、11月5日午前の時点で総工事費を改めるお知らせは載っていない。11兆円は、計画の認可時に見込んでいた5.52兆円の約2倍にあたる。

5.52兆円から11兆円へ、2度の見直し

中央新幹線は、超電導リニアで東京と大阪を結ぶJR東海の計画で、まず品川―名古屋間(線路延長285.6キロ)の建設を進めている。国土交通相から土木構造物を中心とする工事実施計画(その1)の認可を受けたのは2014年10月だ。電気設備などを含む(その2)の認可を受けた2018年3月の段階でも、総工事費は5.52兆円と見込んでいた。

1度目の見直しは2021年4月で、7.04兆円に増やした。理由は難工事への対応(0.5兆円増)、地震対策の充実(0.6兆円増)、発生土の活用先確保(0.3兆円増)だった。2023年12月には、総工事費を7.04兆円とする工事実施計画(その3)と変更の認可を受けている。

2度目が2025年10月29日のお知らせで、見通しは約4兆円増の11.0兆円となった。車両費を含み、山梨リニア実験線の既設分は除く。同社は取締役会の決議を経て公表した。線路延長で割ると、1キロあたり約385億円になる。

リニア品川―名古屋間の総工事費の見込み(兆円)

0510155.522018年7.042021年11.002025年
出典: JR東海「中央新幹線品川・名古屋間の総工事費に関するお知らせ」(2021年4月27日、2025年10月29日)
数値で見る(単位: 兆円)
項目兆円
2018年5.52
2021年7.04
2025年11.00

同社の中央新幹線のページに載る工事実施計画の概要では、工事予算は2023年12月の認可を反映した7兆482億円のままだ。11兆円は、別に掲げた総工事費のお知らせで示された見通しという位置づけになる。工事の完了の予定時期も、同じ概要で「2027年以降」と記されている。

増額分の約4分の1は将来への備え

2025年の増額の内訳は次の通りだ。最も大きいのは物価等の高騰で、資材と労務費の上昇を反映した。

区分 増額 主な内容
物価等高騰の影響(現在の水準が続く場合) 1.3兆円 鋼材、コンクリート、銅、アルミ、建設発生土の受け入れ費用、労務費の上昇
物価等高騰の影響(将来のリスクへの備え) 1.0兆円 今後の労務費上昇や物価高騰で工事費がさらに上がるリスクに備えた額
難工事への対応 1.2兆円 山岳トンネルの対策追加、高架橋の基礎変更、名古屋駅・品川駅の地下工事の強化
仕様の深度化 0.4兆円 シールドトンネルの下部構造の見直し、機械・電気設備の仕様見直し
2025年10月の総工事費見直しの増額内訳(合計は約4兆円)出典: JR東海「中央新幹線品川・名古屋間の総工事費に関するお知らせ」、2025年10月の決算説明会資料

難工事の中身は具体的だ。山岳トンネルでは、これまで掘った区間で当初の想定より脆い地山が現れ、対策を足した結果、掘削の断面が大きくなって建設発生土の処理費も増えた。今後掘る区間でも同じ対応を見込んでいる。名古屋駅では軟弱な地盤への対策と、地盤を押し上げる水圧への対策を強化した。品川駅では東海道新幹線の駅などを支える構造を、地震への備えとして見直している。

物価高騰分のうち1.0兆円は、すでに起きた上昇ではなく、将来のリスクに備えて積んだ額だ。11兆円には、今後の物価上昇の一部があらかじめ織り込まれている。

資金は営業キャッシュフローと約2.4兆円の調達

JR東海は工事費に充てる資金について、営業キャッシュフロー(本業で生み出す現金)を主体とし、不足分を資金調達で補う方針を示している。2025年10月の試算では、開業時期を便宜上2035年と仮置きし、資金調達の金利を3%とした。毎年の営業キャッシュフローに加えて社債と借入で約2.4兆円を調達すれば、建設資金を確保でき、健全経営と安定配当を続けられるという。決算説明会資料では、投資済みの2兆円を除く約9.0兆円を2025〜2035年度の中央新幹線建設費としている。

試算の結果は、名古屋開業の翌年度で営業収益1兆6400億円、経常利益650億円、長期債務残高7.1兆円だった。総工事費を7.04兆円とした2021年の試算では、新規の調達は約1兆円で、建設に充てられる資金の累計が工事費を上回る時期の翌年度について、経常利益2400億円、長期債務残高6.0兆円と見積もっていた。2つの試算は前提も時期の置き方も異なるが、調達額は約1兆円から約2.4兆円へ、長期債務残高の想定は6.0兆円から7.1兆円へ増えた。

足元の数字を見ると、2026年9月末の長期債務残高は4兆7345億円で、うち3兆円は鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)から借り入れた中央新幹線の建設資金だ。この資金を分別管理する信託の残高は、3月末の8495億円から6243億円へ減った。4〜9月の取り崩しは2251億円で、前年同期の1566億円を上回っている。

一方、試算が2026年度以降の前提に置いた運輸収入1兆4900億円に対し、同社が10月28日に示した2027年3月期の単体の運輸収入の予想は1兆5940億円で、前提を1040億円上回る。連結の経常利益の予想も6530億円から7150億円へ引き上げた。同社は、健全経営と安定配当を続けられないと想定される場合には工事のペースを調整する考えも示している。

静岡工区は未着手、開業時期は示さず

2026年9月末時点の進捗は、用地取得が約85%、発生土の活用先の確定が約85%だ。10月28日の決算短信によると、南アルプストンネル山梨工区で本坑の品川方が貫通し、第一首都圏トンネル梶ヶ谷工区では都市部のトンネルとして初めて非常口となる立坑の間がつながった。

開業時期の見通しは示されていない。2025年10月のお知らせは、静岡工区のトンネル掘削工事に着手の見込みが立たないことを理由に、現時点では見通せないとした。2035年はあくまで試算のための仮置きだと同社は断っている。

静岡工区では動きもある。同社は5月に大井川流域8市2町の首長との意見交換会を開き、5月と6月に流域と静岡市で説明会を実施した。7月には県の自然環境保全条例に基づき、本体工事に係る自然環境保全協定を静岡県と結んだ。決算短信は、早期着手に向けて準備を進めるとしている。

工事を担う建設会社の側では、品川駅・名古屋駅の工事を巡る談合事件で、国交省関東地方整備局が鹿島建設と大成建設に営業停止を命じた(鹿島建設と大成建設の営業停止はいつまで 11月7日から2027年3月6日の120日間、民間の土木工事)。

利用者に関わる点では、同社は2025年10月のお知らせで、インフレの影響を強く受ける場合には鉄道の運賃・料金への価格転嫁が必要になるとの考えを示した。JR西日本と連名で2026年10月16日に発表した「のぞみ」「みずほ」の指定席特急料金の改定は、2027年7月1日購入分から東京―名古屋を580円、東京―新大阪を700円引き上げる。ただ、この発表は理由にインフレに伴うコスト上昇を挙げ、使い道を安全性の向上やサービスの改善としており、中央新幹線には触れていない。

中央新幹線の価格について、試算は「のぞみ」指定席に700円を上乗せした額を便宜上置いた。価格を1000円上げるごとに年約300億円の増収を見込むが、具体的な運賃・料金は開業が近づいた時点で決めるとしている。

再増額なら、備えの1兆円はどう扱うのか

総工事費の見通しは、2014年の認可から約11年で2倍になった。建設資金には鉄道・運輸機構からの借入金3兆円が入り、同社自身が運賃・料金への価格転嫁に言及している。見通しを改めるのであれば、説明の責任は額の公表だけでは果たせない。

11兆円にはすでに将来の上昇に備えた1.0兆円が含まれている。運賃・料金を負担する利用者の立場に立てば、再び増やす場合、JR東海はこの備えをどう使い、なぜ超えるのかをまず数字で示すべきではないか。約2.4兆円としてきた資金調達額と7.1兆円としてきた長期債務残高がどう変わるか、開業時期の見通しとあわせて同時に示すべきではないか。工事費と開業時期が切り離されたままでは、利用者も沿線自治体も投資家も計画の全体を評価できない。