令和8年版防衛白書によると、海上自衛隊が2025年4月から11月の約7か月にわたって行った「令和7年度インド太平洋方面派遣(IPD25)」で、派遣部隊は22か国を訪問し、27件の共同訓練と3件の親善訓練を実施した。訪問先には、海自として初めての派遣となったサモア独立国、ツバル、ナウル共和国が含まれる。
インド太平洋方面派遣(IPD)は、海自が艦艇と航空機をインド太平洋地域へ長期間送り出し、寄港先の国や同じ海域に艦艇を出している各国海軍と共同訓練を重ねる取り組みだ。海上幕僚監部が派遣前の2025年4月15日に公表したお知らせは、目的を「海上自衛隊の戦術技量を向上させ、各国海軍等との相互理解の増進、信頼関係の深化及び連携の強化を図り、地域の平和と安定に寄与する」と説明している。
護衛艦4隻と輸送艦、潜水艦を7か月間送り出した
海上幕僚監部のお知らせによると、派遣期間は2025年4月21日から11月21日までで、部隊は水上・航空・潜水艦の各部隊に分かれていた。第1水上部隊が護衛艦「やはぎ」、第2水上部隊が輸送艦「おおすみ」、第3水上部隊が護衛艦「いせ」と「すずなみ」、第4水上部隊が護衛艦「あけぼの」で、第1航空部隊はP-1哨戒機1機、潜水艦部隊は潜水艦数隻だった。このほか、船に立ち入って積み荷を調べる派遣立入検査隊と、派遣施設隊も編成されている。
白書が示した規模は護衛艦4隻、輸送艦1隻、哨戒機1機、潜水艦数隻で、お知らせの編成と一致する。一方、訪問国の数は、お知らせの時点では23か国を予定していたが、白書が実績として記したのは22か国だった。
派遣中に参加する主な訓練として、お知らせは米比主催の多国間共同訓練「バリカタン25」、米豪主催の「タリスマン・セイバー25」、米軍主催の「パシフィック・ヴァンガード25」、日米印豪の「マラバール25」、英空母打撃群との共同訓練、「パシフィック・パートナーシップ2025」などを挙げていた。
島嶼国11か国と二国間訓練
白書によると、IPD25部隊の一部は、ミクロネシア連邦、ソロモン諸島、ナウル共和国、マーシャル諸島共和国、キリバス共和国、トンガ王国、ツバル、パプアニューギニア独立国、サモア独立国、パラオ共和国、フィジー共和国の11か国と二国間共同訓練を実施した。白書はこれを「太平洋島嶼国との連携強化」と位置づけている。
相手国の事情は、日本や米国とは大きく異なる。白書は、太平洋島嶼国のうち軍隊を有している国はフィジー、パプアニューギニア、トンガの3か国に限られると記している。軍を持たない国との「共同訓練」は、海軍同士の戦闘訓練というより、海上での捜索救助や災害対応、寄港を通じた交流といった性格が強くなる。
白書は島嶼国が「国土が狭く分散している」「国際市場から遠い」「自然災害や気候変動などの環境変化に脆弱」という困難を抱えているとし、これらの国が気候変動を安全保障上の唯一かつ最大の脅威と位置づけていると説明している。日本にとっては、広い排他的経済水域を持つ水産資源の供給地であり、エネルギー資源の輸送ルートにあたる地域でもある。
中国・米国・豪州が相次いで協定を結ぶ海域
白書は、太平洋島嶼国が従来オーストラリア、フランス、ニュージーランド、英国、米国と深い関係を持ってきた一方、近年は中国のアプローチが活発化し、大国間の地政学的競争が顕在化してきていると分析する。
具体例として、2022年4月に中国がソロモン諸島との間で、中国の警察・軍の派遣や艦艇の寄港・補給が可能となる内容を含むとされる安全保障協力協定を締結したこと、2023年5月に米国がパプアニューギニアとの間で、同国の港湾や空港に米軍がアクセス可能となる内容を含むとされる防衛協力協定に署名したことを挙げている。
オーストラリアも2023年にパプアニューギニアと安全保障協定、ツバルとファレピリ連合条約を、2024年にはナウルと経済・安全保障に関する条約をそれぞれ締結し、2025年10月にはパプアニューギニアとの間で相互防衛条約にあたるプクプク条約に署名した。白書は、これによって両国の関係を同盟に格上げすることで合意したとしている。
IPD25が初めて訪れたサモア、ツバル、ナウルは、いずれもこの競争の只中にある国だ。訪問国を増やす方向の派遣は、装備や予算の多寡とは別の、寄港と訓練の積み重ねによる関与にあたる。日本の防衛費の水準そのものについては、白書の国際比較で日本の国防費は892億ドル、対GDP比1.28% 主要9か国で下から2番目 一人当たりは約7万円で米国の3分の1以下 令和8年版防衛白書と示されている。一方、こうした長期派遣を支える人員の面では、自衛官の充足率88.1% 定員24万7154人に対し現員21万7701人 最前線を担う「士」は57.8%にとどまる 令和8年版防衛白書という制約も抱える。
防衛白書は防衛省が毎年公表する年次報告書で、令和8年版は2026年7月に発行された。IPD25の実績は第Ⅲ部の「同志国との訓練・演習など」に、太平洋島嶼国の情勢は第Ⅰ部の「大洋州」の章に記載されている。
