大阪府と大阪市が特別区の制度案を話し合う「副首都・大阪にふさわしい大都市制度協議会」は5日、大阪市役所で第12回の会合を開いた。事務局の副首都推進局は、大阪市を廃止して4つの特別区を置いた場合の財政シミュレーションを資料で示し、10年間どの区でも「収支不足は発生しない」とした。大阪維新の会は、特別区の名称案を委員提出資料として出した。いわゆる大阪都構想の、3度目の住民投票に向けた制度設計である。市のページに第12回の議事録は6日未明の時点で載っておらず、当日の発言は確認できていない。

4区とも10年間の黒字を見込む

試算は、特別区の設置日を2031年(令和13年)1月と仮定し、その後の10年間を見た。前回の特別区設置の準備期間が約4年だったことを踏まえた日付だ。資料は「一定の前提のもとに行った粗い試算」であり「相当の幅をもって見る必要がある」と断っている。

4区を合わせた歳入は2031年度の9480億円から2040年度の1兆1903億円へ、歳出は8731億円から1兆1034億円へ増える。歳入から歳出と設置コストなどを引いた収支差は、2031年度が666億円、最も小さい2037年度でも492億円だった。

年度 歳入 歳出 収支差 活用可能財源(累計)
2031 9,480 8,731 666 3,450
2032 9,714 9,076 565 4,015
2033 9,961 9,351 541 4,555
2034 10,204 9,635 503 5,058
2035 10,492 9,914 517 5,575
2036 10,735 10,186 494 6,069
2037 11,014 10,470 492 6,561
2038 11,302 10,651 598 7,159
2039 11,598 10,839 707 7,866
2040 11,903 11,034 818 8,684
特別区全体の財政シミュレーション(単位は億円。収支差は設置コストなどを差し引いた額)出典: 第12回協議会 資料1「財政シミュレーション(一般財源ベース)」

「活用可能財源」は、各区が裁量で使える財源の累計を指す。大阪市の財政調整基金から引き継ぐ2783億円を出発点に、毎年の収支差を積み上げた額で、10年後に8684億円となる。引き継ぐ額は、2026年度末の基金残高見込み3098億円から、設置までの収支233億円の減と、大阪府へ移す82億円を引いて算出した。

区ごとの結果は次の通りで、4区とも収支差は10年間黒字のまま推移する。

区 2031年度の収支差 10年間の最小 2040年度の収支差 引き継ぐ基金 2040年度の累計
第1区 113 76 135 518 1,475
第2区 192 156 270 700 2,578
第3区 163 123 200 681 2,141
第4区 197 126 211 884 2,490
特別区ごとの財政シミュレーション(単位は億円)出典: 第12回協議会 資料1「財政シミュレーション(一般財源ベース)」

区の間の差は、財政調整という仕組みで埋める。法人市民税や固定資産税などをいったん大阪府の収入とし、事務の分担に応じて府と特別区に配分する制度で、試算では財源の75.1%を特別区へ配分すると固定した。

前提は成長率3%とIR納付金

結果を左右する前提は2つある。1つ目は成長率だ。資料が引く内閣府の7月の試算には3つのシナリオがあり、名目成長率は成長戦略実現ケース①が3%台半ば、②が3%前後、現状投影ケースが2%前後となっている。資料は、特別区の設置で広域行政が一元化されれば「現在よりもさらに高い成長の持続的な実現が見込まれる」としたうえで、「固く見積もること」として②を採用した。設置前は現状投影ケース、設置後は②を当てる。根拠の一つとして、大阪市の税収が2014年度から2025年度に年平均2.9%増えたことも載せている。

歳出の側も同じシナリオで見込んでいる。賃金は3%程度上がるとして人件費を置き、公債費は名目長期金利3%台半ばに0.5%を加えて計算した。成長率を高く見れば、支出も増える前提だ。

2つ目が、歳入に毎年入る650億円である。内訳は「IR納付金等」の500億円と「決算改善」の150億円で、10年間で6500億円になる。IRは統合型リゾートを指す。特定複合観光施設区域整備法は、カジノ事業者がカジノの粗収益の15%を認定都道府県等へ納めると定めている。資料はこの500億円を「仮置き」と記し、積算の根拠は示していない。決算改善は、予算より決算の収支がよくなった額で、2013年度以降のうちコロナ禍の2020〜22年度を除く10年間の中央値を参考に見込んだ。

収支差の10年間の合計は5901億円で、この650億円の積み上げを下回る。本紙が資料の数字で単純に引き算すると、650億円を除いた収支差は2031年度が16億円、2032〜38年度の7年間はマイナス52億〜158億円、2039年度が57億円、2040年度が168億円となり、10年間の合計はマイナス599億円になる。IR納付金等の500億円だけを除くと、マイナスは2036年度の6億円と2037年度の8億円の2年で、ほかの8年は3億〜318億円のプラスだった。この計算は資料にはなく、他の項目が連動して変わる分は入っていない。

大阪市のままの場合の見通しとして、市が2026年2月に出した財政収支概算もある。市全体の一般会計を見たもので、2031年度は154億円、2035年度は248億円のマイナスだ。市税の伸びは名目成長率おおむね1.2%の「過去投影ケース」で置き、前提の説明にIR納付金の記載は無い。対象の範囲も前提も異なるため、特別区の試算と単純には比べられない。

設置コストは初期624億円、毎年80億円

設置にかかる費用は第11回協議会(10月20日)で示された。事務局の説明によると、一時的なイニシャルコストは約624億円、毎年のランニングコストは約80億円で、前回協定書と比べそれぞれ2.6倍、102.7倍になる。イニシャルコストの約9割はシステム改修費の約561億円が占める。内訳は、イニシャルコストが特別区全体で約548億円、大阪府で約77億円、ランニングコストが特別区全体で約51億円、大阪府で約29億円だ。

今回の試算では、設置前の2028〜30年度に585億円の影響額を見込んだ。設置後は2031年度の83億円から2040年度の52億円まで毎年計上している。特別区全体の毎年の費用では、システムの運用経費の増加分が58億円で最も大きい。

庁舎は新設しない案だ。第1区と第4区はそれぞれ約1万3000平方メートルの執務室が不足するが、事務局は中之島庁舎を使って補えると説明した。

第11回では、この費用の説明の仕方も議論になった。議事録によると、藤田あきら委員(維新)は、大阪市のままでは2033〜35年度に年250億円規模の赤字が見込まれる点を挙げ、制度を変えた場合の利点とともに、市のままの場合の見通しも市民に示すよう要望した。紀田馨委員(維新)は、府市一体の行政が制度として固定されることが費用に見合う利点だと述べている。

区名案は淀川など4つ、協定書の後に3度目の住民投票

維新の名称案は、4区を次のように名付ける。維新は、党のホームページで3度の市民アンケートを実施し、街頭アンケートや世論調査も行ったうえで、各特別区選出の議員の会議で決めたと説明している。市民の意向を踏まえた案という位置づけだが、資料の表題の通り維新の案であり、協議会の決定として示されたものではない。

区 名称案 現在の行政区 人口 本庁舎
第1区 淀川区 此花・西淀川・淀川・東淀川 52万7671人 現淀川区役所
第2区 北区 北・都島・福島・旭・城東・鶴見 71万4116人 中之島庁舎
第3区 中央区 中央・西・港・大正・浪速・住之江・西成 68万3773人 現中央区役所
第4区 天王寺区 天王寺・東成・生野・阿倍野・住吉・東住吉・平野 88万3064人 現天王寺区役所
4特別区の区割り案と名称案(人口は2025年10月1日現在の国勢調査速報集計)出典: 第12回協議会 資料2、協議会だより第1号、第11回協議会 議事録

住所の扱いについては、事務局が議論用の資料を出した。現在の行政区名に住民の愛着があるとして、特別区名と町名の間に行政区名を入れるのを原則とする。東淀川区菅原は「淀川区東淀川菅原」、西成区天下茶屋は「中央区西成天下茶屋」となる。特別区名と同じ現在の淀川区・北区・中央区・天王寺区と、方位と紛らわしい西区は行政区名を入れない。同じ漢字が連続する場合も入れないため、住之江区住之江は「中央区住之江」となる。

事務分担では、道路と公園の案が変更された。変更後の案は、4車線以上で地域間を結ぶ道路などを大阪府の所管とし、鶴見緑地、大阪城、長居など規模の大きい公園に加え、大阪・関西万博の跡地の記念公園の管理も府が担うとしている。

協議会は大都市法に基づいて6月に設置された。委員は知事、市長と府議会、市会の議員の計13人で、議員11人は全員が維新だ。藤田委員は第11回で、都構想に否定的な会派は今回参加していないと述べた。8月7日の第5回で区割り案を決めている。

今後は協定書案をまとめ、府議会と市会がともに承認すれば、大阪市の有権者による住民投票に進む。法律は有効投票の過半数の賛成を求めている。投票の日程は今回の資料に示されていない。

過去2回はいずれも反対が賛成を上回った。2015年5月17日は賛成69万4844票、反対70万5585票で、投票率は66.83%。2020年11月1日は賛成67万5829票、反対69万2996票で、投票率は62.35%だった。

今回の議論は、国の副首都構想と並行して進んでいる。協議会だより第1号によると、副首都法は指定要件の一つに「副首都の機能発揮に必要な地方行政体制」を挙げる。要件の数値は副首都の指定要件が決定 人口1.2%・経済2.1%は案のまま 人口基準は大阪・名古屋など5市で、法の施行は副首都法が10月30日に施行、首相が本部長の推進本部を設置 指定の考え方は11月中にで報じている。

有権者には厳しい前提の試算も要る

東京圏が機能を失ったときに代わりを務められる都市を持つことは、日本の国益に沿う。大阪市のままでも赤字の見通しがあるという指摘も、市の概算に裏付けがある。市民が判断するために、年度別、区別に数字を公表した点は評価できる。

ただ、この試算だけで投票に臨むのは、有権者にとって材料が欠ける。「固く見積もる」と書かれた成長率は、3つのシナリオの中間であり、市が自らの概算に使った水準を大きく上回る。IR納付金等は毎年500億円が「仮置き」のまま歳入に入り、この分がなければ2034〜37年度の収支差はマイナス8億〜プラス17億円まで縮む。

大阪市を廃止する判断の結果を負うのは、設置後の特別区の住民である。低い成長率なら歳出も減るため、結果がどう変わるかは計算してみないと分からない。現状投影ケースの指標はすでに資料に載っており、事務局が計算できない数字ではない。協定書の案を示すまでに、現状投影ケースの試算と、IR納付金等を除いた試算を並べて公表すべきではないか。賛否を決める大阪市の有権者の立場から、推進する側に問いたい。