防衛省は11月5日、50代半ばで定年を迎えて退職した自衛官が、いったん再就職した後も65歳になるまで国から就職の援助を受けられるようにするため、自衛隊法施行規則の改正案と、援助の運用を定める事務次官通達案を公表し、意見募集を始めた。これまで国の援助は定年退職の「際」に限られていた。再就職先を離れた元自衛官が申請すれば、防衛相が援助するかどうかを決め、一般財団法人自衛隊援護協会が職業紹介を担う。意見は12月4日まで受け付け、2027年1月1日の施行を予定している。
「離職に際して」だけだった援助を65歳まで延ばす
根拠になるのは、2026年7月3日に公布された防衛省設置法等の改正法(令和8年法律第53号)だ。自衛隊法65条の10は現在、「防衛大臣は、若年定年等隊員の離職に際しての離職後の就職の援助を行う」と定めている。改正後は「防衛省令で定めるところにより」との文言が入り、援助の対象に「離職後その年齢が六十五年に達するまでの間の就職の援助」が加わる。
政府は法案を国会に出した際の提出理由に、組織の改編などと並べて「若年定年により退職する自衛官に対する再就職の援助の拡充」と「若年定年退職者給付金の支給水準の引上げ」を挙げていた。今回の省令案と通達案は、このうち再就職の援助について、申請の手続きと運用の細部を決めるものである。
「若年定年」は自衛官に特有の仕組みだ。自衛隊の精強さを保つため、自衛官の定年は一般職の国家公務員の65歳より早い。自衛隊法施行令の別表第九によると、1等陸佐(1佐)は58歳、2佐と3佐は57歳、1尉から1曹までは56歳、2曹と3曹は55歳で定年を迎える。将と将補は60歳である。
| 階級 | 定年 |
|---|---|
| 将・将補 | 60歳 |
| 1佐 | 58歳 |
| 2佐・3佐 | 57歳 |
| 1尉〜3尉・准尉・曹長・1曹 | 56歳 |
| 2曹・3曹 | 55歳 |
令和8年版防衛白書は「多くの自衛官が56歳で退職するなか、再就職や再々就職・収入に不安を感じさせないようにすることが自衛官の確保にとっても重要な課題である」と書いた。定年は2028年から2032年にかけて全階級で2歳ずつ引き上げる予定だが、それでも65歳には届かない。
対象は定年退職者など5類型 前の勤め先の「離職証明」を添えて申請
省令案が援助の対象とする「若年定年制自衛官等」は、定年が65歳未満の自衛官と、定年後に再任用された自衛官のうち任期の終わりが65歳より前の人を指す。将と将補は除かれる。20代から30代半ばで任期を終える任期制自衛官は、今回の65歳までの援助の対象に入っていない。
通達案は、援助を受けられる人をさらに5つに絞っている。①定年で退職した人②国家公務員退職手当法に基づく早期退職の募集に応じ、認定を受けて退職した人③組織や定員の改廃で職が無くなり免職された人④定年後の再任用の任期が満了して退職した人⑤防衛省の退職管理基本方針に基づく募集に応じて退職した人である。
申請の手順は省令案に書かれている。元自衛官は所定の申請書に、直前の勤め先が発行する離職の理由の証明書と、防衛省が発行する在職の証明書を添えて防衛相に出す。解雇や免職で辞めた場合は、その理由も証明書に書いてもらう必要がある。労働基準法22条は、退職する労働者が請求すれば、使用者は退職の理由などを記した証明書を遅滞なく交付しなければならないと定めており、防衛省は意見募集の参照条文にこの条文を付けている。
申請書は自衛隊援護協会を通じて陸・海・空の各幕僚長に届く。幕僚長は内容を確認し、援助するのが適当かを判断する。通達案は援助しない場合として、直前の再就職先を「自己の責めに帰すべき重大な理由」で解雇・免職された場合と、各幕僚長が適当でないと認める場合を挙げた。援助を受けるのをやめるときは、届け出の書式も用意される。
職業紹介は援護協会に委託 職業訓練も受けられる
援助の実務は、防衛相が一般財団法人に委託できると省令案に定め、通達案がその法人を自衛隊援護協会と名指しした。各幕僚長は援助の事務を協会に委ね、必要と認めれば各幕僚長が自ら援助することもできる。
援助と認められた人には、職業訓練も用意される。通達案によると、各幕僚長は自ら、または部外に委託して職業訓練を実施でき、通信教育も含む。陸・海・空自衛隊の施設や器材を互いに使ったり、合同で訓練したりすることも認める。
これまでの援助の規模は防衛白書で分かる。2025年度に若年定年で退職した自衛官のうち、再就職の支援を望んだのは4062人で、このうち4027人の就職が決まり、決定率は99.1%だった。任期満了で退職した自衛官では、希望者730人のうち727人が決まった。2026年3月末には、退職自衛官692人が47都道府県と494市区町村の防災・危機管理部門で働いていた。
ただ白書は、定年後の収入の落ち込みも示している。退職自衛官の所得水準は「一般に、若年定年後に退職時の7割強に低下し、60歳時点でさらにその7割に低下する構造」だという。退職時の年収を100とすれば、定年後は70強、60歳以降は50前後になる計算だ。一方、国の援助は退職の時点に限られ、最初の再就職先を離れた後は対象から外れていた。白書は「年金受給開始年齢である65歳まで安心して社会で活躍できるよう」、2026年度中の制度整備を目指すと明記していた。
援助の実績は「人数」で毎年度公表
省令案は、援助の実施結果の公表にも項目を足す。現在の規則は、3佐以上で退職した人については氏名や離職時の年齢・職と階級、再就職先の名称と地位など7項目、1尉以下については在職していた機関と再就職先の名称、任期制自衛官は援助した人数を公表すると定めている。改正後は4つ目の区分として、65歳までの援助を実施した人数を加える。
公表は年度の終了後6か月以内に行う。規定どおりに運べば、2027年1月から3月までの援助の人数は、2027年9月末までに公表されることになる。
通達案は、各幕僚長が自衛隊援護協会と連携し、毎年5月末までに前年度の援助と職業訓練の実績を防衛相に報告するとも定めた。報告の書式には、60歳未満といった年齢区分ごとに、1佐から3曹までの階級と、農業から公務までの産業、管理的職業から運搬・清掃・包装までの職業を掛け合わせて人数を書き込む表がある。公表は人数だけだが、内部ではどの階級の人がどの業種に再就職したかを細かく集計する。
援助の細部は、通達案の第8で「各幕僚長が定める」とされた。援助を何回まで受けられるかといった定めは、公表された案の中には見当たらない。
これまでの自衛官の人材確保の取り組みは、自衛官の充足率88.1%、「士」は57.8%どまり 陸自が86.5%で最低 令和8年版防衛白書に詳しい。俸給の引き上げについては自衛官の俸給引き上げ、差額支給はいつ 2士は25万300円、4月にさかのぼり 給与法案が衆院通過で追った。
意見は12月4日まで e-Gov・メール・郵送で受け付け
意見公募要領によると、募集期間は11月5日から12月4日まで。提出は電子政府の総合窓口「e-Gov」の意見提出フォーム、電子メール、郵送のいずれかで受け付ける。e-Govの案件ページは、受付締切日時を「2026年12月4日0時0分」と表示している。郵送は12月4日までの消印があれば期限内として扱う。意見は日本語に限られ、個別の回答はしない。
所管は防衛省人事教育局人材育成課。省令は防衛省設置法等改正法の該当部分が施行される2027年1月1日に施行し、通達も同じ日から適用する予定だ。改正法には、若年定年退職者給付金の支給水準の引き上げも含まれる。白書によると、給付金は2026年度から2028年度にかけて段階的に引き上げ、2028年度からは再就職後の収入増が給付の減額に直結しないよう支給の制限を緩める。
国は、56歳前後で制服を脱ぐ自衛官の生活を、給付金と再就職の援助の2本立てで支える形をとってきた。今回の改正で、援助の期間は退職の時点だけから、年金を受け取り始める65歳までに広がる。
