厚生労働省は9月18日、有料老人ホームに新しく導入する「登録制」について、登録の基準案を有識者検討会に示し、10月9日の第10回会合で取りまとめた。ホームと同じ系列の介護サービス事業所や医療機関を使うことを入居の条件にすることを禁じ、居室は原則個室で入居者1人当たり13平方メートル以上とする。2026年6月25日に公布された改正老人福祉法に基づく制度で、2027年12月に施行する。厚労省は既存の有料老人ホームの大半が対象になると見込んでいる。
住宅型には今、法令上の人員・設備基準がない
有料老人ホームは、老人福祉法第29条に基づく高齢者向けの住まいだ。高齢者を入居させて①食事の提供②入浴・排せつ・食事の介護③洗濯・掃除などの家事④健康管理――の4つのうちどれか一つでも提供していれば、名称にかかわらず有料老人ホームに当たる。設置するには都道府県知事らへの事前の届出が必要だが、設置主体は問われず、株式会社でも社会福祉法人でも開ける。
ホームは大きく2種類に分かれる。介護保険の「特定施設入居者生活介護」の指定を受け、ホームの職員が介護を直接提供する「介護付き」と、指定を受けず、入居者が外部の訪問介護などを使う「住宅型」だ。厚労省の資料によると、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を含めた施設数は約2万5千棟、定員は約95万人。このうち住宅型が約2万棟・約63万人、介護付きが約5千棟・約32万人を占める。
制度上の扱いには大きな差がある。介護付きは介護報酬の仕組みを通じて人員や運営の基準が課されるのに対し、住宅型には運営・人員基準がなく、「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」という法的な拘束力のない指針があるだけだった。一方で入居者の中身は近づいており、住宅型でも要介護3以上の人が半数を超えた(次の節で詳しく見る)。介護を担う家族の高齢化も進み、老老介護、75歳以上同士が37.1%で2001年以降で最高 2025年国民生活基礎調査 終日介護する人の64.6%は配偶者で示したとおり、自宅で支えきれずに住まいを探す人は増えている。
住宅型の入居者は10年で重度化、要介護3以上が56.0%に
登録制が必要とされた理由は、住宅型の入居者像の変化に表れている。厚労省が検討会に出した資料(令和7年度の老人保健健康増進等事業の調査)によると、住宅型有料老人ホームで要介護3以上の中重度者が入居者に占める割合は、2015年の48.9%から2025年には56.0%へ上がった。2015年は要介護2が最も多かったが、2025年は要介護3と要介護4がそれぞれ20%程度まで増えている。
比べる相手を置くと、この数字の重さが分かる。2015年時点で中重度者の割合は、介護付き有料老人ホームが41.4%、特定施設の指定を受けていないサ高住が30.7%だった。つまり10年前の段階で、職員による介護の提供を前提とする介護付きより、運営・人員の基準を持たない住宅型のほうが重い人を多く受け入れていた。2025年のサ高住も、要介護1が最も多い構図は変わらず、中重度者の割合が3%程度上がった程度にとどまる。
住宅型の介護は、入居者が外部の訪問介護などと個別に契約する建前になっている。ところが実際には、住宅型の79.6%が併設・隣接の介護サービス事業所を持つと答えている。要介護度が上がるほど介護保険から支払われるサービスの上限額は大きくなるため、重い入居者が集まり、そのそばに系列の事業所がある構図は、必要以上のサービスを使わせる「囲い込み」の温床になりやすい。基準のない住まいに、介護付きより重い人が暮らしている――登録制はこのねじれを埋める制度といえる。
系列事業所の利用を入居条件にすれば登録を拒否
登録基準案の柱は、いわゆる「囲い込み」の禁止だ。囲い込みとは、ホームが併設・隣接する自社系列の介護サービス事業所の利用を入居者に事実上強いて、必要以上のサービスを使わせる状態を指す。
案では、次のような条件を付けたホームは「不当な条件」を付けたとして登録の基準を満たさないとする。
- ホームと併設・隣接、あるいは同一・関連法人や提携関係にある介護サービス事業所、居宅介護支援事業所、医療機関、訪問看護事業所、薬局の利用を契約の条件とすること
- かかりつけ医や担当ケアマネジャーの変更を強要すること
- これらの事業所を使う場合に家賃を安くするなどの優遇をすること
- 入居者が入院したり心身の状態が変わったりしたことを理由に、合意なく居室を移したり契約を解約したりすること
ただし、地方などで利用できる事業所が限られ、その事業所を使うことが事実上避けられない場合は、それ自体が不当な条件とは解されないとした。あわせて、入居契約とケアマネジメント契約が別であることを示す手順書の作成と入居希望者への明示、施設長への研修、近隣の介護サービス事業所の情報提供、住まい事業と介護サービス事業の会計の区分も求める。
夜間は職員の配置かオンコール、既存建物には当面の特例
基準には強さの違いがある。人員と運営の基準は、都道府県などが条例を定めるときに「従うべき基準」とし、設備の基準は「参酌する基準」とする。床面積13平方メートルは参酌基準のほうに入り、地域の事情に応じた調整の余地が残る。
人員では、管理者と生活相談員を1人以上置き、支障がなければ他施設との兼務を認める。介護・看護職員は、提供する介護の内容に応じて安定的な提供に支障がない体制を確保し、原則として夜間を除きホームの職員が常駐する。夜間・緊急時は、9月の案では入居者からの連絡や緊急通報装置による状況把握に基づいて職員が出勤できる「オンコール」体制で対応するとしていたが、10月のまとめでは「職員の配置又はいわゆるオンコール」と書き改めた。連携先の職員が駆けつける形も認めるが、ホームが責任をもって速やかに対応できる体制を取ることを求める注記を加えた。検討会では、委員から「夜間の対応が緩和されてしまう」「火災・災害時は入居者の通報を前提とするオンコールでは対応できない」との懸念と、「一律に夜間の配置基準を厳しくすると人手不足の問題につながる」との意見の両方が出ていた。食事を出すホームには栄養士または管理栄養士が献立作成などに関わる体制を、機能訓練をするホームには内容に応じた機能訓練指導員を求める。
設備は、建築基準法と消防法の規制に適合したうえで、居室は原則個室・1人当たり13平方メートル以上、廊下は車いすで安全に移動できる幅、浴室や便所に緊急通報装置を設けることなどを求める。既存の建物を使っているホームで基準を満たせない場合は、代わりの措置をとって入居者に説明することを条件に、当面の特例を設ける。サ高住として登録を受けているホームは、高齢者住まい法の登録基準による。検討会では、1人当たりの床面積が10平方メートルに満たない住宅型の例も報告されており、基準を厳しくしすぎると既存ホームが締め出されるとの懸念が示された。逆に、サ高住が原則25平方メートル以上を求めていることを踏まえ、13平方メートルを将来は従うべき基準にすべきだという意見も出ている。
運営面では、虐待の防止と身体的拘束の適正化、事故発生時の対応、災害・感染症を想定した業務継続計画(BCP)の策定、協力医療機関を定めること、みとりまで行うホームはみとり指針を整えることなどを求める。新たに義務を課すものには経過措置期間を設ける。こうした高齢者向け住まいに介護サービスを届ける際の報酬については、夜間対応型訪問介護は2027年3月末で廃止 統合先の定期巡回に24時間対応を評価する新報酬案 グループホームは3ユニットの夜勤2人体制を拡大案のとおり、同じ建物に住む利用者への訪問を対象とする同一建物減算の在り方が令和9年度の改定の論点になっている。
人員・設備基準を今の指針・介護付きと比べると
登録基準のうち人員と設備の項目を、現行の「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」と、介護保険の指定を受けた介護付きホーム(特定施設の一般型)の基準と並べると次のようになる。厚労省が9月の第9回検討会に出した比較表と、10月のまとめに基づく。
| 項目 | 登録基準(10月のまとめ) | 現行の標準指導指針 | 介護付き(特定施設・一般型) |
|---|---|---|---|
| 基準の位置づけ | 省令で定める。人員は「従うべき基準」、設備は「参酌する基準」 | 法的な拘束力のない指針 | 介護保険の指定基準(法令) |
| 管理者 | 1人以上(支障がなければ兼務可) | 置くよう求める | 1人(兼務可) |
| 生活相談員 | 1人以上(支障がなければ兼務可) | 置くよう求める | 入居者100人に1人以上(常勤1人以上) |
| 介護・看護職員 | 介護の内容に応じ、安定的な提供に支障がない体制。原則、夜間を除きホーム職員が常駐 | 介護の内容に応じ、安定的な提供に支障がない体制 | 介護・看護職員を合わせて利用者3人に1人以上 |
| 夜間・緊急時 | 職員の配置かオンコールで対応できる体制 | 入居者の実態に即し、対応できる数の職員を配置 | 常に1人以上の職員 |
| 居室 | 原則個室、1人13平方メートル以上 | 個室、13平方メートル以上 | 原則個室(広さは「適切な広さ」) |
| 廊下 | 車いす等で安全・円滑に移動できる幅 | 個室18平方メートル以上なら片廊下1.4メートル・中廊下1.8メートル以上、それ以外は片廊下1.8メートル・中廊下2.7メートル以上 | 車いすで円滑に移動できる幅 |
| 浴室・便所 | 入居者の利用に適したもの(緊急通報装置の設置等) | 適当な規模と数(緊急通報装置等) | 浴室を設け、便所は階ごと |
(出所)厚生労働省「登録基準に関する案と現行の標準指導指針等との比較」(第9回検討会参考資料1)、「登録制の施行に向けた対応について(まとめ)」(第10回資料1)。登録基準は案の段階で、政省令で変わる可能性がある。
表から分かるのは、登録基準の数字の多くが新しいものではないという点だ。居室の13平方メートルも、管理者・生活相談員の配置も、現行の指針にすでにある。まとめ自体が人員と設備のどちらについても「現行の標準指導指針を一つの基準としつつ」定めると書いている。変わるのは基準の強さで、これまで都道府県が指導の目安にしていた内容が、登録を受ける条件として省令に入る。人員の基準は「従うべき基準」なので、都道府県は条例をこの基準に沿って定める必要がある。設備は「参酌する基準」で、地域の事情に応じて調整できる。
一方、介護付きとの差は残る。介護付きは介護・看護職員を利用者3人に1人以上置き、夜間も常に1人以上の職員を置く。住宅型の登録基準は職員数を比率で定めず、夜間もオンコールを認める。住宅型は介護を外部の事業所から受ける住まいという建前を保ったまま、入居者の安全にかかわる最低限の体制を法令で求める形だ。廊下の幅も、登録基準案は具体的な数字を書かず、比較表は「指導指針及びサ高住との均衡を踏まえ策定」と注記している。指針の1.4メートル・1.8メートルといった数字がそのまま省令に入るかは、政省令の公布を待つことになる。サ高住として登録しているホームは、居室を原則25平方メートル以上とする高齢者住まい法の基準が引き続き適用される。
「自立・軽度のみ」は1.6%、大半が登録対象に
登録制の対象は、中重度の要介護者に加え、認知症高齢者の日常生活自立度がⅢ以上の人や、重度の医療ニーズを持つ人を入居対象とするホームとする案が示された。現に中重度の人が入居していなくても、中重度になっても住み続けられるとしているホームは対象に入る。この範囲は、10月9日に開かれた第10回検討会のまとめに盛り込まれた。施行日とあわせた取りまとめの内容は有料老人ホームの登録制、施行は2027年12月 既存ホームの移行猶予は1年で2028年12月まで 入居者紹介業者の優良認定制度は2027年度に運用開始で伝えている。
厚労省の集計では、住宅型有料老人ホームと有料老人ホームに該当するサ高住は合わせて1万9954件。このうち中重度・難病者らを中心に受け入れるホームが5963件(29.9%)、要介護・要支援者を幅広く受け入れるホームが6796件(34.1%)、自立・軽度者が中心だが要介護者も受け入れるホームが6873件(34.4%)を占める。自立者と軽度者だけを受け入れるホームは322件(1.6%)にとどまり、地方の町村部などにある小規模なホームが多い。数字の上でも、登録制の網はほぼ全体にかかることになる。
検討会の取りまとめは今秋、社会保障審議会介護保険部会へ報告され、厚労省は年内に政省令を公布する予定だ。登録制は2027年12月に施行し、既存ホームが登録へ移るための経過措置期間を1年とする。資料には「今後の検討等により政省令等における具体的な規定ぶりについては変更となる可能性がある」との注記があり、数字や文言が最終的に固まるのは政省令の公布時になる。現行の届出制のもとでは、厚労省の9月25日公表の調査で有料老人ホーム、前払金の保全措置がない施設が25か所 13か所に指導したが改善はゼロ 未届の施設は568か所で全体の3.1%ことが分かっており、登録制はこうした穴をふさぐ狙いもある。高齢者向けの住まいをめぐっては、施設の整備費を補助する介護の基金、1回目の内示は276億2500万円 神奈川が53億円で最多、東京など16都県はゼロ 今回はすべて施設整備分で人材確保分なしのような国の支援も動いており、登録制はその受け皿の質をそろえる側の見直しにあたる。なお同じ改正法には、身寄りがない高齢者の入院手続・死後事務の支援、第二種社会福祉事業に位置付け 相談は地域包括支援センターの対象に明確化 単身高齢世帯は2040年に1041万へという柱も含まれている。
