デジタル庁は11月4日、高校入試の事務手続きを紙からデジタルへ移す実証の実施報告書を更新した。静岡県教育委員会の協力で今春の入試に合わせて行ったもので、出願に関わる中学校教員の作業は生徒1人あたり7.10時間から1.02時間に減るとの試算を示している。静岡県教委は令和9年度選抜から、一部の課程を除くすべての志願者をウェブ出願に移す。

静岡県の7市で2,961人が利用

実証の対象は、志望校の決定から出願、合格発表、入学手続までの17の工程だ。デジタル庁の公募に計画書を出した団体を書面で審査し、静岡県教委を採択した。報告書は富士ソフトがまとめた。

静岡県の公立高校の出願は、これまで願書などの書類一式を中学校が各高校へ持参する形だった。願書は生徒が手書きし、受検に必要な考査料は収入証紙を買って願書に貼る。実証ではこれらをシステム上の入力とオンライン納付に置き換えた。システムは新たに開発せず、開始時点で19自治体に導入実績があったシステム研究所の「公立高校向けWeb出願システム」を選んだ。

調査書をデータで出せる教育委員会に属する学校を対象とし、下田、富士宮、牧之原、御前崎、沼津、袋井、掛川の7市の中学校50校が加わった。高校は県内の公立93校すべてを対象とし、83校に出願があった。

実際に使った生徒は2,961人で、対象の中学3年生5,060人の58.5%にあたる。令和8年度選抜の出願者1万7,638人全体で見ると16.8%だった。システムの利用に同意が得られない場合に備え、紙の出願も残している。

Internet Archiveに保存された4月30日時点の版と照らすと、11月4日の更新版で試算や利用者数などの主な数値は変わっていない。

減る作業の大半は中学校教員

報告書の試算では、生徒1人あたりの作業時間は全体で8.82時間から1.42時間に減る。最も多く作業を抱えていたのは中学校教員で、減る時間の大半もここに集まる。

生徒1人あたりの作業時間の変化(試算)(時間)

デジタル化前デジタル化後

生徒保護者0.620.24中学教員7.101.02高校教員0.850.16高校事務0.250.00
静岡県での実証に基づく試算。高校教員は入学手続の分を含む出典: デジタル庁「令和7年度教育関連データのデータ連携の実現に向けた実証調査研究 実施報告書(詳細版)」表3-6
数値で見る(単位: 時間)
項目デジタル化前デジタル化後
生徒保護者0.620.24
中学教員7.101.02
高校教員0.850.16
高校事務0.250.00

中学校教員の内訳を見ると、願書を高校へ届け、受検票を生徒に配る作業が2.00時間からゼロになる。出願先を変えるときの届け出は2.10時間から0.10時間に、調査書の作成は印刷後の体裁確認や刷り直しがなくなるため2.00時間から0.50時間に減る。中学校教員全体の削減率は85.6%、高校を含めた教職員全体では8.20時間から1.18時間へ85.9%の削減となる。

生徒と保護者は0.62時間から0.24時間に減る。主な理由は収入証紙を買いに行く手間がなくなることで、納付の作業は0.50時間から0.10時間になる。一方、受検票を自分で印刷するため、その分の0.02時間は増える。

実証全体の削減は2万1,501時間(84.1%)と見積もった。報告書はこの数値を「県全体」と表記しているが、県内の全生徒の分ではない。実際に出願システムを使った2,961人と、入学手続が可能だった228人に、1人あたりの時間を掛けた推計値である。

数値は実測でもない。報告書は「スケジュールの関係上、試算となっている」と断っており、静岡県教委が作業の変化を洗い出して工数を見積もった。

入学手続まで使えたのは228人

17工程のデジタル化を実証したとはいえ、全員が全工程を通ったわけではない。入学手続までシステムで行えたのは中学校15校、高校9校の組み合わせに限られ、対象は228人だった。出願システムの利用者の7.7%、出願者全体の1.3%にとどまる。提出書類や運用が高校ごとに異なるため、市の教育委員会と高校の合意が得られた範囲に絞った。

紙のまま残ったものもある。入学料や校納金のほか、医師の確認印を必要とする健康関係の書類がこれにあたる。実証期間に合わせて出願システムの契約を3月末までとしたため、4月以降に提出する書類も紙で扱った。報告書は、次年度に4月末まで使える契約にできないか検討するとしている。

納付方法の変更では、新たな制度改定はしなかった。静岡県の情報通信技術利用条例は、手数料の納付方法が収入証紙と定められていても、電子申請なら情報通信技術を使った納付を認めている。報告書によると、この規定により電子納付は制度上可能と判断した。

システム事業者のヘルプデスクへの問い合わせは、昨年11月17日から今年3月19日までに629件あった。中学校からが390件で62.0%を占め、生徒・保護者からは188件だった。運用テストでは、添付の要らない条件にあたるのに書類が必要だと思い込む生徒・保護者がいたため、県教委は1月の説明会で改めて説明した。

全国ではウェブ出願が20都道府県

高校入試のデジタル化は都道府県で進み具合が分かれる。文部科学省の令和7年度の調査(公立高校。一部実施を含む)を基に、デジタル庁がダッシュボードで公開している。

取り組み 実施している都道府県の数
合格発表のウェブ掲載 43
出願様式のダウンロード 42
ウェブ出願 20
考査料のキャッシュレス決済 18
自動採点システムの活用 17
調査書等のウェブ送付 10
調査書等のウェブ作成 7
高校入試事務手続のデジタル化の取り組み状況(47都道府県のうち。一部実施を含む)

出典: デジタル庁「高等学校入学者選抜事務手続のデジタル化に関するダッシュボード」データテーブル、文部科学省「令和7年度 高等学校入学者選抜の改善等に関する状況調査(公立高等学校)」

7項目すべてを実施しているのは群馬、岐阜、愛知、三重の4県だ。出願は進んでも、調査書をウェブで作り高校へ送る段階まで進んだ県は少ない。実証前の調査時点で、静岡県が実施していたのは合格発表のウェブ掲載だけだった。

政府は令和7年6月の「教育DXロードマップ」で、紙の印刷・郵送や複数回のデータ入力が行われている実態を挙げ、全工程のデジタル完結に向けた実証を同年度に行うとしていた。今回の報告書はその結果にあたる。文科省は都道府県教委に対し、入学志願者に不利益が生じないことを前提に、実情に応じた取り組みの推進を依頼している。報告書は、実証の成果とデジタル庁の「モデル仕様書」を使った各都道府県の導入を推奨した。

来春の静岡は12月中旬に入力開始

静岡県教委は令和9年度の実施要領などで、ウェブ出願への全面移行を定めた。単位制の定時制の秋季選抜、単位制の通信制、県立焼津水産高校専攻科の志願者を除き、すべての志願者が対象となる。

志願者はパソコンやスマートフォンで住所、氏名、志願先などを入力し、中学校が調査書などをアップロードする。準備するのはインターネットの接続環境とメールアドレスで、受検票は自宅のプリンターかコンビニのプリントサービスで印刷する。入学検定料の2,200円はクレジット決済、コンビニ払い、ペイジーで納める。

手続きは、12月中旬に情報の入力が可能となり、来年2月上旬に検定料の納入が始まる。志願受付は2月16日から18日正午まで、学力検査は3月3日、面接は4日で、合格者の発表は3月12日正午以降となる。入学手続の一部もシステム上で行うが、その内容は高校ごとに異なる。

対象は今春の利用者2,961人から県内の志願者全体へ広がる。今春の出願者は1万7,638人だった。実施要領は、システムを使えない不測の事態への対応は県教委が別に定めるとしている。報告書は、災害やシステム障害に備えて紙の様式をあらかじめ配り、紙の運用に切り替える手順の確立を留意点に挙げた。