中国の習近平国家主席が現地時間の9月23〜25日に米国を国賓訪問した。会談は24日午前にホワイトハウスで行われた。会談後、米中両政府はそれぞれ成果を公表したが、双方の文書に書かれている中身はそろっていない。米ホワイトハウスは9月25日にファクトシートを出し、中国外交部は翌26日に「8項目の成果共通認識」を公表した。一方だけが書いた項目がいくつもあり、同じ枠組みに別の名前が付いている箇所もある。

首脳会談の成果は、条約のように1本の文書へ署名して残す形とは限らない。今回のように各国政府が自国向けに要点をまとめて出す場合、何を書き、何を書かないかは政府ごとの判断になる。両方を並べて読むと、双方が確かに合意した部分と、片方だけが強調している部分が見分けられる。

「300億ドル」の関税引き下げは双方が書いた

双方の文書がそろって挙げているのは、両国関係を「尊重・公平・対等」を土台にした建設的で戦略的に安定した関係にすること、アジア太平洋経済協力会議(APEC)と主要20か国・地域首脳会議(G20)で相互に議長国を支え、両首脳が相手国の会議に出席する意向であること、イランの核兵器と国際水路の通行料に関する認識、第二次世界大戦で両国が同盟国として並んで戦ったという振り返り、麻薬取り締まりでの協力、そして中国が米アトランタ動物園へ貸し出すジャイアントパンダ2頭である。

通商面では、双方とも「300億ドル」という数字を挙げた。米側は、5月に北京で開いた首脳会談で設立を決めた「米中貿易理事会」と「米中投資理事会」を動かし始めたとしたうえで、貿易理事会のもとで「双方向それぞれ300億ドル分の非センシティブ品目について、より有利な関税待遇とする勧告で一致した」と書いた。対象品目も挙げており、米国の輸出側は農産品、魚介類、丸太・木材製品、化粧品、医療機器。米国の輸入側は小型家電、玩具、季節の装飾品、チャイルドシートといった消費財である。農業分野の市場参入障壁を扱う作業部会も立ち上げたとした。

中国側の8項目は、この部分を「『300億ドル』の対等な関税引き下げの取り決めに達した」とだけ記し、品目にも農業の作業部会にも触れていない。投資理事会の名も挙げず、「貿易理事会などの仕組みの構築と推進」とまとめた。代わりに、米側の文書にはない「クアラルンプールでの経済・貿易協議の成果の延長」を成果に数えている。対等・相互という言葉は、両国が中国、日本人のビザ料金を14日から値上げ 1回入国は2250円から1万6750円に 日本の7月の引き上げに「対等」措置のように相手の措置へ同じ重さで応じる場面でも使われてきた表現で、今回は関税を下げる方向で使われた。

石炭とレアアースは米側だけ、軍同士の覚書は中国側だけ

米側だけが書いた項目のうち、額が具体的なのはエネルギーである。ファクトシートは「トランプ大統領による米国石炭産業の復活を受け、中国は2027年と2028年に、それぞれ少なくとも1000万メートルトンの米国産石炭を米国から輸入する」と記した。トランプ氏が習氏に対し、世界の供給を安定させるために石油精製品の増産を求めたことも書いている。レアアースについては「レアアースその他の重要鉱物に関するサプライチェーンの不足をめぐる米国の懸念について引き続き取り組み、出荷水準を適切な水準に戻すことを目指す」とした。中国側の8項目には、石炭も石油精製品もレアアースも出てこない。

麻薬の取り締まりは、双方が成果として挙げながら数字が違う。米側は、2026年8月に米法執行機関の情報にもとづいて中国が中国国民21人を逮捕したと書き、「該当する場合は死刑を含め、最大限の量刑を強く促した」と付け加えた。中国側は「双方が緊密に協力し、新精神活性物質と前駆体化学物質に関わる複数の事件を共同で摘発し、両国で数十人の容疑者を拘束した」と書き、量刑には触れていない。米側はこのほか、中国が危険な薬物群を規制対象に指定したこと(文書の表記は「orphines」)と、フェンタニルの前駆体化学物質2種類に新たな輸出規制をかけたことを歓迎し、恒久的な規制指定を強く促したとしている。

逆に中国側だけが書いたのは、軍同士の取り決めだ。8項目の後に「このほか、米中両軍は危機時の意思疎通と予防を強化する覚書にできるだけ早く署名することで合意し、中国国内で行方不明になった米軍人の遺骨の捜索でも協力を続ける」と記した。米側のファクトシートにこの記述はない。安全保障で米側だけが書いたのは、米国・ロシア・中国の3か国による軍備管理交渉をトランプ氏が提唱したこと、そして「第二次世界大戦以降、米国の前方展開の軍事的プレゼンスが自由で開かれたインド太平洋を保ち、米国の繁栄に何世代にもわたり寄与してきた」という一文である。ロシアをめぐる議論は双方が挙げたが、米国は9月18日に米、対ロ制裁法が成立 ロシア産ガスの購入国に最大100%の関税 日本のLNG輸入の8.9%がロシア産、除外は「輸出全体の15%未満」が条件という形で第三国に圧力をかける法律を成立させており、中国はその法律が想定する購入国の一つにあたる。

同じ対話の枠組みに、別の名前が付いた

食い違いが最もはっきり出ているのは、新設する対話の呼び名である。米側は「両首脳は、該当する新興技術を指すのに『artificial intelligence(人工知能)』ではなく『super intelligence(超知能)』という用語を使うことで合意した」と書いたうえで、「米中超知能(SI)対話」を設置し、次回の意見交換を2026年11月までに行い、SIに関する事案のための二国間の連絡チャネルも設けるとした。

中国側の7項目目は、同じ枠組みを「中米人工知能対話」と呼ぶ。「人工知能に関するリスクと恩恵について意見を交わす。次回の対話は今年11月に行う。双方は人工知能の事案に関する意思疎通のチャネルを設けることで合意した」とあり、中身はそろっているが、用語を置き換えることで合意したという記述はない。設置する対話も、次回の時期も、連絡チャネルも一致しているのに、名前だけが違う形になっている。中国外交部が別に出した会談の発表でも、習氏の発言は「双方は人工知能対話を継続して進めることができる」と記されており、中国側の文書は一貫して「人工知能」を使っている。

呼び名が定まらないうちから、中国国内でのAIの導入は進んでいる。国際労働機関(ILO)の調査では、中国企業のAI導入をILOが調査 採用は30日から13日に、仕様書を読む担当は10人超から2〜3人に 働き手の39%は「収入は減る」という結果が出ている。対話の枠組みが11月に動き出せば、規制の考え方をすり合わせる最初の場になる。

台湾は「成果」には入らず、中国側の別の発表に書かれた

成果をまとめた2つの文書、すなわち米側のファクトシートと中国側の8項目には、いずれも台湾への言及がない。米側のファクトシートは麻薬、通商、地政学、超知能の4本柱で構成されており、中国側の8項目も台湾に触れていない。

ただし中国外交部は、この8項目とは別に、会談そのものを伝える発表を9月25日に出している。そこでは習氏の発言として「中国が国家の統一と領土の一体性を守る立場は非常に明確だ。米側が『台湾独立』に反対する正しい立場を堅持し、台湾問題を慎重に扱い、米中の戦略的協力と両国関係の発展に確かな土台を築くことを希望する」と記された。同じ発表に載るトランプ氏の発言に台湾への言及はなく、国賓訪問の評価、経済・貿易協議の成果、AIでの対話継続について述べたとされている。台湾は、中国側が習氏の要求として記録しながら、双方の「成果共通認識」には入れなかった形になる。

この発表によれば、両首脳は中東情勢、ウクライナ危機、朝鮮半島についても意見を交わした。習氏は「両国の元首が半年足らずで相互訪問を実現したのは、米中関係史上、前例がない」と述べ、5月に北京で「建設的で戦略的に安定した関係」を築くと決めた方向を実行に移す段階だとした。

イランについては、米側が「イランが核兵器を持つことは決してできない」と書いたのに対し、中国側は「イランは核兵器を開発しないという約束を履行すべきだ」と記した。いずれの国も機関も国際水路に通行料を課すことは許されない、という点は双方が同じ趣旨で書いている。

日本政府は、米中会談の中身への評価を示していない。高市首相は9月25日の記者会見で、トランプ氏が中国を「第二次世界大戦での同盟国」と呼んだ点について問われ、「これは第三国間のやり取りでございますので、逐一について私からコメントすることはございません」と述べた。そのうえで日米関係については「戦争はありましたけれども、でもその後ですね、しっかりと和解を果たして、関係を深めて、今は非常に強い絆で結ばれた同盟国としてお互いに信頼し合える関係であると思っております」と語った。

米中の公表文のうち、日本に直接かかわる数字が出てくるのはレアアースと重要鉱物の部分だが、書いているのは米側だけで、いつまでに出荷をどの水準へ戻すのかという期限も数量も示されていない。米国産石炭の1000万メートルトンにも、契約の形や価格は書かれていない。次に中身が具体化しうる場は、11月に予定される超知能(人工知能)対話と、両首脳が相互に出席する意向を示したAPECとG20の首脳会議になる。